第39話 エピローグ


馬車の車輪が静かに土を踏みしめ、王都の城門が遠ざかっていく。



窓から見える城壁が小さくなっていくのを

紬は黙って見つめていた。


隣に座るレニオスもまた

目を細めて景色を眺めていたが――


ふと、紬に視線を向け


そっと彼女の手を包み込んだ。



「……本当に…よく頑張ったな、紬。」



紬は少しだけ目を伏せてから、ゆっくりと頷いた。


声を取り戻してからまだ日が浅く、話すことに少しぎこちなさは残る。


けれど、心からの想いを伝えたいという気持ちは、確かに言葉に乗っていた。


「……ありがとう。

レニオスが、いてくれたから」


彼の手を握り返しながら、少し照れたように目を細めて紬は言う。


そして、小さく…

けれどはっきりと囁いた。



「大好き、です。」



レニオスは一瞬目を見開いたが、すぐに頬を赤らめて視線をそらす。


けれど、嬉しさを隠しきれず、口元には緩やかな笑みが浮かんでいた。



「……俺も。


大好きだよ、紬。」



揺れる馬車の中で、紬は幸せそうに微笑んだ。


その胸には、癒しの力こそ失ってしまったけれど、


かけがえのない絆と


新しい未来が


確かに宿っていた。




こうして

紬とレニオスの新たな物語が

静かに幕を開ける。

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その声が届くまで〜聖女の影で、わたしは声を失った〜 うみ* @umi_06

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