第26話 過ぎゆく夏と、明日へのプレリュード

八月最後の週。

あれほど永遠に続くかのように思われた夏休みも、いよいよ終わりを告げようとしていた。

猛暑は依然として続いているけれど、朝晩の風にほんのわずかな涼しさが混じり始め、ツクツクボウシの声が、どこか寂しげに響き渡る。

俺は、山積みになった夏休みの宿題の最後の追い込みに追われながらも、どこかそわそわとした気持ちを抱えていた。

もうすぐ、学校が始まる。

そして……陽菜さんに会える。

夏休みの終わりに、何か一枚、特別な写真を撮りたい。

そう思っていた俺は、数日前、カメラを持って近所の小高い丘へ向かった。

目的は、夕焼け。

茜色に染まる空と、だんだんとシルエットになっていく街並み。夏の終わりを告げるような、少しだけ切なくて、でも美しい光景。

それを、陽菜さんに見せたいと思った。

ファインダーを覗き、息を止めてシャッターを切る。

撮れた写真を確認すると、空のグラデーションも、遠くに見える街の灯りも、俺がイメージした通りに写っていた。うん、これなら……。

この写真を、陽菜さんにすぐにLINEで送ろうか、少し迷った。

でも、なんとなく、これは直接見せたい、と思った。夏休みの、最後の贈り物として。

夏休み最終日。

俺は、久しぶりに袖を通す制服の感触を確かめ、教科書やノートを鞄に詰めた。目覚まし時計も、いつもより早い時間にセットする。

なんだか、新学期が始まる前のような、独特の緊張感と高揚感が入り混じった不思議な気分だ。

夜、自分の部屋のベッドに横になっても、なかなか寝付けなかった。

明日から、またあの教室で、陽菜さんの隣で過ごす日々が始まる。

夏休みの間の、LINEでのやり取り。ひまわり畑の写真、夏祭りの夜、浴衣姿の陽菜さん……。たくさんの出来事が、頭の中を駆け巡る。

あの夏祭りの夜から、俺たちの間の空気は確実に変わった。

ぎこちなさは消え、もっと温かくて、もっと自然なものになった気がする。

明日、教室で会ったら、どんな顔で「おはよう」って言えるだろう。

どんな会話が、俺たちを待っているんだろう。

スマホの待ち受け画面に設定した、陽菜さんの浴衣姿の写真が、暗闇の中でぼんやりと光っている。

それを見つめていると、自然と口元が緩んだ。

楽しみだ。

陽菜さんに会えるのが。

隣の席で、また一緒に笑えるのが。

長いようで短かった夏休みは、たくさんの思い出と、そして陽菜さんへの特別な気持ちを、俺の中に確かに残していった。

明日からは、新しい季節。

そして、新しい俺たちの物語が始まる。

そんな期待を胸に、俺はゆっくりと目を閉じた。

窓の外からは、秋の虫の音が、優しく聞こえてきていた。

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