第11話 祭りのあと、夕焼けと照れた顔
閉会式が終わり、体育祭の熱狂が少しずつ静まっていく。
グラウンドには、心地よい疲労感と、祭りを終えた独特の少し寂しいような空気が漂っていた。クラスメイトたちは、互いの健闘を称え合いながら、テントや万国旗の後片付けを始めている。
俺と陽菜さんも、広報係としての最後の仕事に取り掛かっていた。
廊下に貼り出した壁新聞を丁寧に剥がし、使った画材道具などを片付ける。
「疲れたねー。」
「うん、でも、すごく楽しかった。」
どちらからともなく、そんな言葉がこぼれる。
壁新聞を丸めながら、陽菜さんがふふっと笑った。
「相川くんの写真、本当にみんなに好評だったよ。ありがとうね。」
「いや……陽菜さんの記事も、すごく良かった。みんな言ってた。」
お互いの仕事を素直に認め合える。体育祭の準備期間を通して、俺たちの間にはそんな空気が生まれていた。
全ての片付けが終わり、俺たちは機材を返すために一度教室に戻った。
俺はパソコンを立ち上げ、今日一日で撮りためた膨大な量の写真データをSDカードから取り込み始める。
「うわ、すごい量……! これ、全部見るの大変そうだね。」
陽菜さんが、俺の隣からパソコンの画面を興味深そうに覗き込む。近い距離に、少しドキッとする。
「まあ、良い写真だけ選んで、後でクラスの共有フォルダにでも上げようかなって。」
データがコピーされるのを待つ間、俺はフォルダの中の写真をいくつか開いてみた。
クラスメイトたちの笑顔、必死な表情、勝利の瞬間……。その中に、応援席で輝いていた陽菜さんの写真も、たくさん含まれている。
特に、応援合戦の時の、クラスカラーのポンポンを両手に持って、満面の笑みでジャンプしている一枚。
それから、クラス対抗リレーの時に、祈るように選手を見つめていた真剣な横顔の一枚。
……見せてみようか。
ほんの少し迷ったけれど、俺はその二枚の写真データを画面に表示させた。
「……これ、陽菜さん。すごく……良く撮れてたから……。」
俺が言い終わるか終わらないかのうちに、陽菜さんは「わ……!///」と小さな悲鳴に近い声を上げ、サッと手で顔を覆った。
「え、え、これ、私!? うそ……!」
指の隙間から覗く画面を、信じられないといった表情で見ている。顔が耳まで真っ赤になっているのが分かった。
「なんか……すごい必死な顔してる……。こっちは、なんか、楽しそうだけど……。うう、恥ずかしいなあ……。」
俯いて、小さな声で呟く陽菜さん。
その、自分の写真を見て素直に照れている姿が、なんだか無性に可愛くて、俺は心臓が早鐘を打つのを必死に抑えていた。
「でも……。」
陽菜さんが、顔を上げる。まだ頬は赤いけれど、その瞳は潤んでいて、キラキラしていた。
「……綺麗に撮ってくれて、ありがとう。相川くん。」
そう言って、はにかむように微笑む。
その瞬間、俺の中で何かが弾けた気がした。
「いや、あの……それは、陽菜さんが……すごく、輝いてたから……。」
思ったことが、そのまま言葉になっていた。
しまった、と思った時にはもう遅い。
陽菜さんは、俺の言葉にさらに顔を赤くして、また俯いてしまった。
二人しかいない放課後の教室。西日が差し込み、埃がキラキラと舞っている。
甘酸っぱいような、もどかしいような沈黙が、俺たちの間に流れた。
写真データのコピーが終わり、俺たちはどちらからともなく帰り支度を始めた。
もうすっかり夕暮れ時だ。校門を出て、駅までの道を並んで歩く。
体育祭という特別な一日が終わった。
広報係の仕事を通して、陽菜さんのいろんな表情を知った。そして、俺自身の気持ちも……。
隣を歩く陽菜さんの横顔を、盗み見る。
夕日に照らされたその頬は、まだ少し赤いように見えた。
この、胸の中で大きくなっていく特別な気持ちを、俺はもう、誤魔化すことができないのかもしれない。
これからの陽菜さんとの関係が、どうなっていくんだろう。
期待と、ほんの少しの不安を抱えながら、俺は夕焼け空を見上げていた。
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