第5話 夏休み

夏祭りが終わり、ついに本格的に夏休みのスタート。

長い休みの始まりに子供は皆歓喜の中、心躍らせながら過ごしていたり

一方、心人君は用事で忙しいと話していた。

しばらく遊ぶこともなく、ただ暇な毎日。

どこか胸騒ぎに似たものがあった。

そんな中、心人君から一通の電話がかかる。

「話さなきゃいけないことがある。駅の近くの病院に来て」

その一言に突き動かされ、わたしは病院へ向かった。

どこか具合が悪いのだろうか?

それとも怪我をしたのだろうか?

ただ事ではなかったような彼の声色に、ただ不安が募る。

心配になりつつも、病院に着く。

心人君がメールで言っていた病室に入ると、そこのベッドに姿があった。

窓を見つめている。

ふわり、ゆらりと、風に揺らぐカーテンの先に浮かぶ黄色いアサガオを見つめていた。

一度息を吐くと、彼はこちらを向いた。

その様子に恐る恐る、私は問い尋ねる。

「話さなきゃいけないことって…………………何?」

しばらくの沈黙の間、彼は告げた。

「もう、僕は長くないんだ」

寂しげに微笑んだ。

その言葉にわたしの思考はフリーズする。

冗談だと言って欲しい。

一体何があって、今この状況があるのか。

一つ一つ、説明して、ゆっくり理解する時間が欲しい。

「どういうこと……? 心人君、何を言ってるの!?」

嫌な汗が頬を伝う。

心人君は俯きながら語った。

「話せば長くなるような気がする。けれど、今までありがとう、それを言いたかった」

「どういうこと!? ちゃんと説明してよ、心人君の口で説明してよ! いちから教えて、何があったのかを!」

感情の籠もったように、わたしはそう問い詰めた。

それは怒りのような、悲しみのような。

二つの感情が混ざり合い、ただ真実を求める。

「心人君、教えてよ! 何があったの、どうしたの!? お願いだから!」

「教えられない、君を悲しませることになる」

「悲しませることって何!? このまま何も出来ずに居ることこそごめんだわ! 心人君はそんな無責任な人じゃないでしょ!?」

しまった、とわたしは気付く。

口を抑えて、ゆっくりと謝った。

「ごめん、その、わたし。心配で、その」

心人君はそれに歯を食いしばり、涙を流した。

「ごめん、ごめんよ。君の言うことは合ってる。僕はどうやら、無責任みたいだね」

「そんなこと!」

「いや、間違いない。僕本人も分かってるよ」

心人君の言いたいことはつまり。

『僕は君の問いに答えることも出来ない、無責任な人間だ』と。

心人君は、わたしの問いに答えないことを選んでいるのだ。

分かっている。

事情があることも、何か教えられないことがあることを。

それは心人君の口からだからこそ、言えないことなのだ。

わたしは、それなのに“心人君本人”に尋ねている。

心人君の口から答えられない、心人君がわたしに教えたくないものなのだ。

「……………………ごめん」

悔しさが込み上げ、わたしは涙ぐみながら病室を後にする。

ただ、彼の気持ちも分かってあげられない自分が悔しくして仕方ないのだ。

「これで、良かったのかな」

互いの声が、どこかでそう重なる。

それでも今はただ、一人にさせてほしい。

お互いに離れ離れだ。

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