6-3 ASCIIメッセージ

玲奈は、デバイスの電源を落とそうとして――止まった。


再起動時のシステムチェックに紛れて、

ログの一角、削除完了ステータスの端に奇妙なラベルが浮かび上がっていた。


《キャッシュ領域:一時保留ファイル(非登録)》

《FILE_TAG:AMG-Y10.LOGNULL》

《状態:断片化/自動修復中》


メインログではない。

自動保存でもない。

記録の「外側」に引っかかっていた微小な欠片。


玲奈は確認ボタンに触れた。


 


画面が黒く切り替わる。


そして。


表示されたのは、

緑色のテキストがただひとつ。



L I V E .

 


その下で、緑のカーソルが点滅していた。

カチ、カチ、と音もなく、規則正しく明滅する光の粒。


それは何の命令でもなかった。

ログでもない。

コマンドでも、システムの出力でもない。


“意志”だった。


消去の直前、

誰にも伝えられなかった、最後の一文字。

記録としてではなく、

ただ“届けたかった何か”。


それは、彼が「消えること」ではなく――

玲奈に“生きてほしい”という願いだった。


“L I V E .”


生きろ。

進め。

記録しなくていい。

証明しなくていい。

ただ、生きて。


玲奈の目から、もう一粒、涙が落ちた。

けれどその涙は、もう“悲しみ”のものではなかった。


笑った。


ほんの少し。

本当に、ほんの少しだけ。


指先が、キーボードの上に浮かんだ。

何も打たなかった。

ただ、その余白を受け取っただけ。


緑のカーソルが、

今もまだ、息をするように瞬いていた。


 


——これは、彼の最期ではない。

これは、玲奈の始まりだった。


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