『俺達のグレートなキャンプ23 降霊術で宮本武蔵を呼び出す』

海山純平

第23話 降霊術で宮本武蔵を呼び出す

俺達のグレートなキャンプ23 降霊術で宮本武蔵を呼び出す


「よーし、今日も『奇抜でグレートなキャンプ』いくぜぇぇぇ!」

テントを組み立て終わった石川は両腕を大きく広げ、夕暮れの山々に向かって雄叫びを上げた。

「おい、石川。周りの人たちに迷惑だから」富山は心配そうに周囲のキャンプサイトを見回した。

今回のキャンプ場は長野県の人気スポット。週末ということもあり、ファミリーキャンパーからソロキャンパーまで様々な人々が思い思いのキャンプを楽しんでいた。

「富山、気にすんなって。みんな楽しそうにこっち見てるじゃん!」

石川の言葉に富山が視線を向けると、確かに数組のキャンパーたちが好奇の目でこちらを見ていた。だが、彼らの表情は「楽しそう」というより「何をする気だ?」という警戒心に満ちていた。

「僕は石川さんに賛成です!このキャンプ場、最高の雰囲気じゃないっすか!」千葉が笑顔で言った。彼はキャンプ初心者ながら、石川の突飛な企画に常に全力で付き合う心意気を持っていた。

「お前はホント、石川の言うことなんでも信じるよな」富山はため息をつきながらも、テーブルの上に調理器具を並べ始めた。

石川は大きなリュックからなにやら怪しげな箱を取り出した。

「じゃーん!今回の『奇抜でグレートなキャンプ』の主役はこれだ!」

木製の箱には「降霊術セット」と手書きで書かれていた。

「降霊術?まさか本当に...」富山の顔から血の気が引いた。

「そうだ!今回の奇抜なキャンプは『降霊術で宮本武蔵を呼び出す』だ!」石川は誇らしげに胸を張った。

「えぇぇぇ!?マジっすか?宮本武蔵!?」千葉は目を輝かせながら箱を覗き込んだ。

「石川、またバカなこと考えて...。周りにファミリーとかいるのに、そんな怖いことして大丈夫なの?」

「大丈夫だって、富山。これは友達から借りたちゃんとした降霊セットだぜ!それに武蔵だぞ?剣聖だぞ?彼から剣術を学べるかもしれないんだぜ?」

富山は頭を抱えながらも、石川が暇つぶしと称して毎回何かしらの突飛な企画を持ち込むことに慣れていた。前回は「キャンプで相撲大会」で、近隣のキャンパーまで巻き込んで即席の土俵を作ったことがあった。その時は幸い、周囲から意外と好評だったが...。

「でも、石川さん。本当に霊って呼べるんですか?」千葉が真剣な表情で尋ねた。

「おいおい、千葉。まさか信じてないだろ?」富山が呆れた声で言った。

「わかんないじゃないですか!この世には不思議なことがたくさんあるって石川さんが言ってましたし」

「そうだそうだ!千葉はいいこと言う!」石川は箱から道具を取り出し始めた。「よし、日が沈んだら始めるぞ!」


夜、彼らのキャンプサイトは奇妙な雰囲気に包まれていた。

テーブルの上には蝋燭が灯され、その真ん中には石川が持ってきた「霊界通信ボード」なるものが置かれていた。三人はテーブルを囲み、真剣な面持ちで座っていた。

「まず、みんな手をつなごう」石川が指示した。

千葉は喜んで両隣の石川と富山の手を取った。富山は明らかに不安そうな表情を浮かべていた。

「石川...本当にこんなことして大丈夫?」

「大丈夫だって。ただの遊びだよ。ほら、あの世界的な心霊研究家も『キャンプ場は霊との交信に最適な場所』って言ってるじゃん」

「そんな研究家いるわけないでしょ!」

「うるさいなぁ。じゃあ、始めるぞ!」石川は目を閉じ、重々しい声で唱え始めた。「我らが呼ぶは剣聖、宮本武蔵!この世に現れたまえ!」

突然、風が強く吹き、テントが大きく揺れた。

「ひっ!」富山が小さく悲鳴を上げた。

「おおっ、反応がある!」石川は興奮した様子で目を見開いた。

「石川さん、何か来ましたか!?」千葉も目を輝かせながら訊いてきた。

「ちょ、ちょっと待って!これただの風でしょ!?」富山は震える声で言った。

その時、テーブルの上の霊界通信ボードのコインが動き始めた。

「動いた!」三人が同時に叫んだ。

「武、武蔵さん...ですか?」千葉が震える声で聞いた。

コインはゆっくりと「ハイ」という文字の上に移動した。

「うおおお!来たぞ来たぞ!」石川が叫んだ。

富山は半泣きになりながらも、手を離すのを恐れて石川と千葉の手をきつく握りしめていた。

「武蔵さん、あなたの剣術の流派を教えてください!」石川が尋ねた。

コインが再び動き始め、「ニ、テン、イチ、リュウ」と文字を指していった。

「二天一流!武蔵の剣術だ!」石川は興奮のあまり立ち上がりそうになったが、千葉に手を引かれて座り直した。

「すごい...本物だ...」千葉はうっとりした表情で言った。

富山はもはや目を閉じて、祈るような気持ちで座っていた。

「武蔵さん、次の質問です。現代の日本をどう思いますか?」石川が続けた。

コインがまた動き始めた。「ヘ、イ、ワ、テ、キ」

「平和的...か。さすが戦国を生きた武将は違うな」石川は感心したように頷いた。

「次は私が質問していいですか?」千葉が興奮気味に言った。「武蔵さん、キャンプは好きですか?」

コインが動く。「ダ、イ、ス、キ」

「えっ、武蔵さんってキャンプ好きなんだ!」千葉は嬉しそうに叫んだ。

「ん?そんなわけないだろ。江戸時代にキャンプなんて…」富山が冷静に指摘しようとした矢先、さらに風が強く吹き、今度はテーブルの蝋燭が一斉に消えた。

「わっ!」三人は思わず身を縮めた。

「こ、これは…」石川でさえも少し動揺する様子を見せた。

「石川さん…これってもしかして本当に…」千葉の声が震えていた。

辺りは月明かりだけがわずかに周囲を照らす、不気味な静けさに包まれた。

「オ、レ、ハ、ブ、シ」

コインがゆっくりと動き始めた。

「『俺は武士』?」石川が読み上げた。

「ケ、ン、フ、リ、タ、イ」

「『剣振りたい』…?」千葉が続けた。

富山は声も出ないほど怯えきっていた。

コインはさらに動き、「カ、ラ、ダ、カ、リ、タ、イ」と続けた。

「『体借りたい』!?」石川は青ざめた顔で言った。

突然、辺りに強烈な風が吹き荒れ、降霊ボードが宙に浮いたかと思うと、激しい勢いでテーブルから飛び落ちた。

「うわあああ!」三人は手を離し、慌てて立ち上がった。

「石川さん!これはやばいっす!本物の霊が来ちゃいました!」千葉が叫んだ。

「ま、まさか…」石川も今回は本気で驚いていた。

茂みからバサバサという音がした。三人が恐る恐る音の方を見ると、そこには大きな野生のウサギが一匹、月明かりに照らされて立っていた。

「ウサギ…?」富山がつぶやいた瞬間、そのウサギの目が赤く光った。

「うわっ!」石川が思わず後ずさった。

ウサギは人間を見るような鋭い目つきで三人を見つめ、特に石川に視線を固定した。

「お、おい…このウサギ、なんか変じゃないか?」石川は不安そうに言った。

次の瞬間、ウサギは人間のように後ろ足で直立し、前足を腰に当てるような格好をとった。

「そ、それはまるで…刀に手をかける姿勢…」千葉が震える声で言った。

ウサギは突然、「オォーッ!」と人間のような雄叫びを上げた。それは明らかに人間の声だった。

「ウサギが…しゃべった?」富山は信じられない表情で言った。

「我が名は宮本武蔵。この度、久方ぶりに下界へと舞い戻り、この獣の体を借り受けた」ウサギは低く落ち着いた声で言った。体は小さなウサギなのに、声は成人男性の響きだった。

「マジかよ…」石川は固まったように動けなかった。

「おぬし、先ほど我を呼び出しておいて、信じぬとは何事か」ウサギ武蔵は石川を指差した。「我は久しく剣を振るってはおらぬ。下界に降りたからには、一度腕を試したい」

「え、えぇ…」石川はぽかんと口を開けた。

「勝負じゃ!」ウサギ武蔵は宣言した。

「ちょ、ちょっと待ってください!石川さんはただのキャンパーです!剣術なんて…」千葉が必死に抗議しようとしたが、ウサギ武蔵はそれを聞く耳を持たなかった。

「おぬしの持つ剣を取れ」ウサギ武蔵は石川に言った。

「剣?持ってないよ!」石川は両手を振った。

「あ、あの…」富山が恐る恐る手を挙げた。「バーベキュー用の串なら…」

「よかろう。それで十分」ウサギ武蔵は頷いた。

石川は困惑しながらも、テーブルに置いてあった金属製のバーベキュー用の長い串を手に取った。

「武蔵さん…いや、ウサギさん…これは冗談だよね?」石川は苦笑いを浮かべながら言った。

「勝負は真剣勝負。冗談など言うておらぬ」ウサギ武蔵は前足で地面をパンと叩いた。それはまるで剣道の構えを取るような仕草だった。

「え?マジで?」石川の顔から血の気が引いた。

「武蔵さん!それはさすがに危険です!」千葉が叫んだ。

「おぬしには我が技を見せてやろう。恐れるな。命までは取らぬ」ウサギ武蔵は石川に向かって挑発するように前足を動かした。

月明かりの下、キャンプ場の一角で、バーベキュー串を持った若い男と直立したウサギという異様な対決の図が浮かび上がった。

「石川、もうやめようよ…」富山は震える声で言った。

「いや、せっかく来てくれたんだ。武蔵さんの望みを叶えてあげないとね」石川は覚悟を決めたように串を構えた。実は石川、中学時代に剣道部だったのだ。

「ほう、心得あるようだな」ウサギ武蔵は石川の構えを見て言った。

「まぁね。でも10年以上ぶりだけど」石川は緊張しながらも、基本の中段の構えを取った。

「いくぞ!」ウサギ武蔵が突然、地面を蹴った。

小さなウサギの体とは思えない速さで、ウサギ武蔵は一瞬で石川の目の前まで飛んできた。

「うわっ!」石川は反射的に串を振り下ろした。

しかし、ウサギ武蔵はそれを予測していたかのように、軽々と横に跳んだ。

「遅い!」ウサギ武蔵は石川の横を通り過ぎながら、後ろ足で石川の脚をキックした。

「いたっ!」石川は膝をつきそうになりながらも踏みとどまった。

「石川さん!大丈夫ですか?」千葉が心配そうに叫んだ。

「へへっ、やるじゃん、武蔵ウサギ…」石川は額に汗を浮かべながらも笑った。

「我を侮るな。小さき体ながら、この身に宿るは剣聖の魂」ウサギ武蔵は高らかに言った。

石川は再び構えを取り直した。「よし、今度は俺から行くぜ!」

石川は串を持って前に出た。しかし、ウサギ武蔵はピョンピョンと跳ねながら、石川の周りを回り始めた。

「何処を見る?我が姿は風のごとし」ウサギ武蔵は石川の周りを高速で跳ね回りながら言った。

「くっ、速すぎる…」石川は目が回りそうになりながらも、ウサギの動きを追っていた。

突然、ウサギ武蔵は石川の背後に回り込み、後ろ足で石川の背中を蹴った。

「ぐわっ!」石川はよろめいた。

「石川さん!」千葉が叫んだ。

「まだまだ!」石川は体勢を立て直し、今度はウサギ武蔵の動きを予測するように串を水平に構えた。

「ほう、囲いの構えか」ウサギ武蔵は石川の戦術の変化を見て言った。

石川は串を回転させながら、ウサギ武蔵の接近を防ぐ壁を作った。

「いくら速くても、この壁は突破できないぜ!」石川は自信たっぷりに言った。

「甘い!」ウサギ武蔵は真正面から高く跳躍した。月をバックに小さなウサギの影が浮かび上がる。

「上から!?」石川は慌てて串を上に向けた。

しかし、それは囮だった。ウサギ武蔵は空中で体勢を変え、石川の横に落下。そこから一転、石川の懐に飛び込んだ。

「なっ!?」石川が驚いた瞬間、ウサギ武蔵は石川の胸に前足で「ポン」と軽く触れた。

「貫きの一太刀」ウサギ武蔵は静かに言った。

石川はその場に立ち尽くした。もし本物の刀だったら、今のは致命傷だっただろう。

「やられた…」石川はバーベキュー串を下げ、敗北を認めた。

ウサギ武蔵は地面に着地し、まるで武士のように頭を下げた。「よき勝負であった」

「すごい...」千葉は目を輝かせて言った。「石川さんが負けるなんて...」

富山はまだ状況が信じられないという表情で立ち尽くしていた。

「いや、武蔵さんはさすがだな」石川は改めてウサギ武蔵に向かって頭を下げた。「本物の剣聖の力を見せてもらった」

ウサギ武蔵は満足げに頷いた。「久しく剣を振るっていなかったが、まだ衰えてはいなかったようだ」

「武蔵さん、質問があります!」千葉が急に前に出た。「どうして今日、私たちの呼びかけに応じてくれたんですか?」

ウサギ武蔵はしばらく沈黙した後、「実を言えば、わしは長らく退屈じゃった。あの世では剣を振るう相手もおらん。ちょうど下界に降りる口実が欲しかったのじゃ」

「なるほど...」石川は納得したように頷いた。

「そして、どうやら今夜は満月。霊が下界に降りやすい時と聞く」ウサギ武蔵は月を見上げた。

「それで、なぜウサギに...?」富山が恐る恐る尋ねた。

「これが近くにあった唯一の生き物じゃった。大きな熊か鹿がおれば良かったのだがな」ウサギ武蔵は少し残念そうに言った。

三人は思わず笑った。いくら剣聖とはいえ、ウサギの体でできることには限界があるだろう。

「しかし、このウサギの体も悪くない。軽快で素早い動きができる」ウサギ武蔵は自分の体を見回した。

「武蔵さん、もっと教えてください!江戸時代のこととか、剣術のことを!」千葉は興奮気味に言った。

ウサギ武蔵は咳払いをした。「よかろう。しかし、まずは何か食べ物をくれぬか。この体、腹が減っているようだ」

「あ、そうだ!ニンジンあるよ」石川はクーラーボックスからニンジンを取り出した。

「む...」ウサギ武蔵は少し複雑な表情をした。「わしはもともと肉が好きなのだが...この体では...」

石川と千葉は爆笑した。富山も緊張がほぐれたのか、クスクスと笑い始めた。

「まあ、仕方あるまい」ウサギ武蔵はニンジンを前足で受け取ると、少し気恥ずかしそうに食べ始めた。


その夜、石川たちのキャンプサイトは思わぬ展開で盛り上がった。ウサギ武蔵を囲んで、三人は江戸時代の武士の生活や剣術の極意、そして武蔵が実際に戦った相手の話などを夜遅くまで聞いた。

「それで、私が剣を二本持つようになったのじゃ」ウサギ武蔵は得意げに言った。

「でも、ウサギの体だとそれはちょっと難しそうですね」千葉が指摘した。

ウサギ武蔵はムッとした表情を見せたが、すぐに笑った。「確かにな。この体では制約が多い」

「ところで、武蔵さん。あなたはいつまでそのウサギの体にいるんですか?」富山が尋ねた。

「満月の夜が明けるまでじゃろう。日が昇れば、わしもあの世に戻らねばならぬ」ウサギ武蔵は少し物悲しげに言った。

「そうか...」石川も少し残念そうだった。「またいつか会えますか?」

「それは分からぬ。だが、興味深い夜であった。久々に剣を振るい、若者と語り合うのも悪くない」ウサギ武蔵は満足げに言った。

「武蔵さん!最後に一つだけお願いが」石川が突然立ち上がった。「もう一度、勝負させてください!」

ウサギ武蔵は驚いた表情を見せたが、すぐに笑みに変わった。「よかろう。最後の勝負じゃ」

石川は再びバーベキュー串を手に取った。

「あ、待って!」千葉が叫んだ。「石川さん、そんなの危険です!」

「大丈夫だって。今度は心得があるから」石川はウインクした。

「何?」ウサギ武蔵が首を傾げた。

石川はポケットからスマートフォンを取り出し、懐中電灯のアプリをオンにした。そして、その強烈な光をウサギ武蔵に向けた。

「な、なんじゃこれは!まぶしい!」ウサギ武蔵は前足で目を覆った。

「これが現代の兵法だ!」石川は勝ち誇ったように言いながら、バーベキュー串をウサギ武蔵の前に突き出した。「降参してくれ、武蔵さん」

ウサギ武蔵はしばらく動けなかったが、やがて前足を下ろし、笑い出した。「あっはっは!面白い!確かに負けたわ。現代の兵法、恐るべし」

石川も笑いながら、ウサギ武蔵に向かって頭を下げた。「ありがとうございました、武蔵さん」


夜が深まり、三人とウサギ武蔵は焚き火を囲んで座っていた。

「もうすぐ夜が明ける」ウサギ武蔵は東の空を見ながら言った。

「本当に行っちゃうんですか?」千葉は少し寂しそうに尋ねた。

「そうせねばならぬ。しかし、楽しかった」ウサギ武蔵は静かに言った。

「また機会があれば、ぜひ来てください」石川は真剣な表情で言った。

「よかろう。次回は熊にでも憑依してみるかのう」ウサギ武蔵は冗談めかして言った。

「それはやめてください!」三人が同時に叫んだ。

ウサギ武蔵は大笑いした。「冗談じゃ、冗談」

夜空がわずかに明るくなり始め、東の空が薄紅色に染まり始めた。

「そろそろ時間のようじゃ」ウサギ武蔵はゆっくりと立ち上がった。

「武蔵さん...」石川は名残惜しそうに呼びかけた。

「おぬしらの『奇抜でグレートなキャンプ』、悪くない。続けるがよい」ウサギ武蔵は三人に向かって頭を下げた。

「はい!」千葉は目に涙を浮かべながら頷いた。

「それでは」ウサギ武蔵は森の方へと向かい始めた。

「武蔵さん、ちょっと待ってください!」石川が急に叫んだ。

ウサギ武蔵が振り返ると、石川はスマートフォンを手に持っていた。

「最後に一枚、記念写真を撮らせてください!」石川は真剣な表情で言った。

「写...真?」ウサギ武蔵は首を傾げた。

「こんな機会、もう二度とないかもしれません!」千葉も興奮気味に言った。

富山は呆れながらも「まぁ、誰も信じないだろうけどね」とつぶやいた。

ウサギ武蔵はしばらく考えていたが、やがて前足を胸の前で組んで座った。「よかろう。わしの姿を後世に残すというのも悪くない」

「やった!」石川は喜んでスマホのカメラを構えた。「じゃ、みんな武蔵さんの周りに!」

三人はウサギ武蔵を囲むように座り、石川はスマホを自撮り棒に取り付けてセットした。

「せーの、宮本武蔵!」石川が掛け声をかけた。

「うさぎ武蔵でござる!」ウサギ武蔵は思わず冗談を言った。

四人の笑い声が朝の静寂に響く中、シャッターが切られた。

「ありがとうございました!」三人は深々と頭を下げた。

ウサギ武蔵も礼を返すと、森の方へと歩き出した。「また会う日を楽しみにしているぞ」

「また会いましょう!」石川が大声で叫んだ。

ウサギ武蔵は振り返り、前足を挙げてさよならの仕草をした。そして、朝日の最初の光が差し込む瞬間、ウサギの体からぼんやりとした光が立ち昇り、空へと消えていった。

ウサギはしばらく動かなかったが、やがて普通のウサギのように四つ足で立ち、ピョンピョンと飛び跳ねながら森の中へと消えていった。

「ウサギに戻った...」富山はつぶやいた。

石川はスマホを確認し、撮られた写真を見た。そこには三人の姿と、彼らに囲まれた普通のウサギの姿が写っていた。ただ、不思議なことに、ウサギの周りだけ薄く光のようなオーラが写り込んでいた。

「見て!これ、絶対武蔵さんだよ!」石川は興奮気味に写真を見せた。

「本当だ...」千葉も驚いた表情で写真を覗き込んだ。

「まさか...」富山でさえも、その不思議な光に言葉を失った。

三人はしばらく森の方を見つめていたが、やがて石川が大きな声で言った。

「よーし!今回の『奇抜でグレートなキャンプ』大成功だな!」

「まさか本当に宮本武蔵が来るとは思いませんでした...」千葉はまだ信じられない様子で言った。

「石川、あなた本当に...」富山は言いかけたが、言葉を飲み込んだ。石川の目には確かな光があった。彼もこれが単なる遊びではなかったことを理解していた。

「今度はどんなキャンプにしようか?」石川は意気揚々と言った。

「次はもう少し普通のキャンプがいいなぁ...」富山はため息をついた。

「それなら『奇抜でグレートなキャンプ24』は...」石川がニヤリと笑った。

「またヤバいこと考えてる!」富山は心配そうに言った。

「そうだ!次は『キャンプ場で相撲トーナメント』をやるんだ!」石川は両腕を上げて宣言した。

「それ、前にもやりませんでした?」千葉が首を傾げた。

「今度はウサギも誘うんだ!」石川は止まらない勢いで言った。

「もう...」富山は頭を抱えたが、顔には微笑みが浮かんでいた。

三人とも、この夜の出来事は決して忘れないだろうということを知っていた。宮本武蔵とのキャンプは特別な思い出として、そして何より「奇抜でグレートなキャンプ」の伝説として、彼らの心に永遠に刻まれることになるのだった。

キャンプ場に朝日が昇る中、石川のスマホに映るウサギの周りの不思議な光は、さらに強く輝いているように見えた。

【おわり】

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