第2話 男嫌いの美少女女子高生
ウチの男子寮は女子禁制であった。
たぶん、この寮に女の子が足を踏み入れるのは初めてだと思う。
寮生全員が初めての女の子を出迎えた。
「……」
おや? みんなの反応すげぇ静かだな。意外だ。
てっきり『うおおお!!!!!!』とかテンションMAXで大騒ぎするものと思っていたが。
あまりにも静かで不思議に思ったので寮生たちの顔をチラッと見る。
……⁉︎
俺はギョッとした。
いやだって、俺以外の寮生全員が、この女の子を見て目をハートマークにしてやがったから。
平助も。むしろ平助が一番ハートだった。
「おい、平助。平助……⁉︎」
平助に呼びかけてみる。反応なし。仕方ないので肩を掴んでユサユサと揺する。
平助はやっと反応した。目がハートになっていた平助は、俺の顔を見た途端に超つまんなそうな表情に変化した。おい、失礼だぞてめぇ。
「おい、急にどうしたんだ平助」
「は? いやお前わかんねぇのかよ、見ろよこの子を!」
「いや、見たけど……この女子高生がどうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃねぇよ! お前の目は節穴か⁉︎
メッッッチャクチャ可愛いじゃねぇかよ! ヤバイヤバイ! 美少女すぎてヤベぇよ!」
うわ、すげぇ興奮しだしたよこいつきめぇ。
……まあ……メチャクチャ可愛いだろ、と言われれば、確かにメチャクチャ可愛いと思うが……
神に気に入られているとしか思えない整った顔立ち。雪ん子みたいな白い肌。
ミルクティーみたいな色に染めた髪を腰あたりまで長く伸ばして、少し巻いてゆるふわに仕上がっている。
で、太もも丸出しなミニスカートだから紺のニーハイソックスが強調されてるし、さらに胸元が大きく開いたブラウス。
丸出しな鎖骨にキラッと光るネックレスが垂れ下がる。手首にはシュシュがあり、耳にはピンクでハート型のピアスが揺れている。メイクもしっかりとしてある。
一言で言うと、こいつはギャルか……?
十鳥付属高校は校則ユルユルな方ではあるが、こいつの格好乱れすぎだろ。
スカートの丈もっと長くしろよ。前のボタン閉めろよ。
そんなはしたない格好で男だらけの学生寮に来るとか何考えてやがる。
色気づいてんのか? まさかビッチかこいつ。
由美先輩はガチ清楚で露出が少ない女の子だからこいつは真逆だな。
……うん、まあ、服装はまだいい。それより……
こいつマジでなんで木刀持ってんの?
女子高生は、俺たちに近づいてきてピタッと止まった。
無表情で俺たちをジッと見てくる。なんなんだこいつ。なんでこの寮に来たのか、どういうつもりなのか全くわからん。
「やべぇって……こうして近くで見るとさらに可愛い……」
平助はさっきよりもデレデレしている。ああ、可愛いのはわかったからもう少しシャキッとしてくれんか。
「可愛いだけじゃねぇ! 制服の着こなしがすげぇエロい!」
……まあ、制服の着こなしに関しては俺もちょっと気になってたが、わざわざ言わんでいい。
「そして、おっぱいもでかい! 制服の上からでもハッキリとわかる豊満な膨らみ! 胸元が開いてるから谷間がチラッと見えるのも良い! 巨乳最高!!」
……おい、平助……それは完全にセクハラだろ。マジで何言ってんだよ。そういうことは心の中で思うだけにしとけよ。本人の前で絶対に言っちゃいけないことだろ。
―――バシィッ!!!!!!
「ぐはぁっ!?」
次の瞬間、女子高生が木刀を振り下ろし、平助の頭にクリーンヒットさせた。
あ、その木刀やっぱり攻撃するためのものなのか。
「い、いてぇ……な、なんで……褒めたのに……」
バシッ!! ビシッ!!
「ぎゃあああ!!!!!!」
何発も追撃の木刀が平助を襲う!
まあ、今のは完全に平助が悪いな。褒めたのに……じゃねぇよ、完全アウトのセクハラだぞ。なんでいけると思ったんだよ。
平助が完全に悪いとはいえ、さっきからずっと黙ったままで寮に来て最初にやることが木刀を振るうことかよ。マジで何なんだこの女。
「―――跪きなさい、あんたたち」
あ、しゃべった。女子高生が初めてしゃべった。
寮の新しい管理人として来て、最初のセリフがそれでいいのか?
男子寮生たちはきょとんとしている。
「跪けって言ってんのよ!」
女子高生は怒鳴る。そして木刀でビシビシと床を叩く。
男子寮生たちは慌てて座る。
……はぁ……? マジで何なのこの女……俺は顔をしかめざるを得ない。
「何してんのよ、あんたもよ」
女子高生は俺に対してビシッ! と木刀を突きつけてきた。
「はぁ? 俺も?」
「当たり前でしょ! 速く跪きなさい」
「……チッ」
別に座るくらいいいけどさ。俺は舌打ちしながらゆっくりと腰を下ろす。
「あのさぁ、あんたナメてんの?」
「んだよ、うっせぇな」
他の寮生は正座しているが、俺はあぐらをかいて座る。
「その座り方ナメてんのって言ってんのよ。他の奴らと同じように座りなさい」
「断る。俺は正座できねぇんだ」
痛いし痺れるし、マジで正座苦手だ。
「……はぁ……」
女子高生はため息をついて俺からサッと視線を逸らした。
さっきからすげぇムカつくこの女。でも俺はオトナの男だからな。この程度でいちいちキレたりしない。
とりあえず男たちは全員座った。女子高生は俺たちをギロリと睨みつけながら口を開く。
「もう聞いてると思うけど、今日から私がこの寮の管理人をすることになったわ。
十鳥大学付属高校2年D組、風紀委員長の
「へぇ、凜華ちゃんっていうんだ。名前も可愛いし、風紀委員長ってのもエロい響きだな~。俺は五反田平助! よろしくね凜華ちゃん!」
さっきまで木刀でシバかれまくっていたというのに、平助はまた四宮とかいう女子高生にデレデレしている。うんまあ、ある意味強いなこいつ。どんだけ女好きなんだよ。
バシィッ!!
「ギャーッ!?」
平助はまた木刀でシバかれた。
四宮凜華とかいう女はゴミを見るような目で平助を見下ろす。
「気安く下の名前で呼ぶんじゃないわよ、気持ち悪い。
私はあんたなんかとよろしくする気はないわ」
……うんまあ、確かによろしくとは言ってないな。
「なんか勘違いしてるバカがいるみたいだから最初に言っとくけど。
私はね、男が大ッッッ嫌いなのよ」
平助だけではなく、俺たち全員をゴミを見る目で見下ろしてくる。
見下す視線に俺はイライラしてきた。
「マジでキモいから話しかけないで、近寄らないで、構わないで。ホントにマジで男とか無理だから」
キレたりしないと思っていた俺だったが、ちょっとカチンときた。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「……おい、ちょっと待てやクソガキ」
「は? てか何勝手に立ち上がってんの?」
「うるせぇ。さっきから黙って聞いてりゃ、マジで何なのお前。意味わかんねぇんだけど」
俺と四宮は睨み合った。
バチバチと火花が散る。お互いに嫌悪感しかない視線だ。
「お前自らこの寮の管理人をやると言い出したって聞いたんだが」
「ええ、そうね」
「男嫌いならなんでここに来たんだ? なんで男嫌いの奴が男子寮の管理人をやる必要があるんだよ? マジで意味わかんねぇよお前。
自分から男子寮に来といて、男嫌いとかキモいとか言われても知るかボケって話だよ。ジェンダーに厳しいこのご時世に男嫌いなんて古いんだよ!!
なぁ、お前なんでここに来たの? 何しに来たの? 文句あんなら今すぐ帰れよ」
「おい明良! せっかく可愛い女の子が来てくれたのに帰れだなんて、そりゃねぇよ!」
「平助は黙ってろ!」
平助を黙らせた瞬間だった。四宮は容赦なく俺に木刀を振り下ろしてきた。
―――ガッ!
木刀で殴られそうになったが、俺はとっさに足を素早く出し、足の裏で木刀を止めてガードした。
「……!」
「……」
こいつは木刀、俺は足。お互いにピタリと止まって睨み合う。
「いきなり暴力かよ。調子乗んなクソガキが」
「……私の木刀を受け止めるなんて……」
「ああ、これでも一応サッカーやってたからな。足捌きは手慣れたもんだよ」
「……ふんっ」
四宮は木刀を引っ込めた。
「少しはできるようね、褒めてあげるわ。でも嫌いであることに変わりはないけどね」
「で? そこまで男を嫌うお前がなんで男子寮の管理人をやろうと思ったんだ?」
「だってここ、性犯罪者の寮なんでしょ? だからこの私がぶっ潰してやろうかと思って」
「あぁ⁉︎ 誰が性犯罪者だこのガキ!」
「でもさぁ、ここの管理人性犯罪で逮捕されたんでしょ?」
「……それは……そうだが……」
七塚さんという管理人が下半身露出で逮捕されたのは完全なる事実でどうしようもない。
「性犯罪者が管理してた寮なんだから、その寮に住んでるあんたたちも性犯罪者みたいなものでしょ」
「いやそれはおかしいだろ! ふざけんなよ!!
……まあ、性犯罪者予備軍な男ならいないこともないが……」
「おい! なんで俺を見るんだよ明良!」
となりにいる平助をチラッと見た。だってこいつ普通にセクハラしてるし。
「とにかく、今日から私が管理人だから! この寮も、あんたたち寮生も、すべてぶっ潰してやるんだから! 覚悟しときなさいよあんたたち」
木刀をビシッと振る音が聞こえた。
困惑の色もあった寮生だったが、可愛い女の子が管理人になるということで、結局大歓迎の拍手を送っていた。
マジで……? マジでこいつが管理人なの……?
ていうかこいつすべてをぶっ潰すとか言ってるんだけど、なんで歓迎ムードなんだよ。
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