憧れの沢木さん

白川津 中々

◾️

憧れの沢木さんの隣に座れたが本に夢中であるからして、話しかけるかどうか悩むところであるが、ここで退くのはあまりに男気がないということで、思い切って話しかけてみる事にした。


「あ、すみません。邪魔じゃないですかね」


「邪魔か邪魔じゃないかでいえば邪魔ですけれど、邪魔だからといってあなたがここに座る自由を侵害する権利は私にはないのですから、もし気を遣われているのであればどうぞ、楽にしていただけると」


出た出たこういうところ。なんだかラノベに触発されたような言葉遣いが実に沢木さん。早口でわざとらしくなっちゃうあたりが本当にキュート。


「なるほど。なら失礼いたしますね」


「どうぞ」


「ところで沢木さん。何読んでいるんですか?」


「取るに足らない本」


「なるほど。面白いですか?」


「取るに足らない」


「そうですか。なら、僕と話しをしませんか?」


「どうして?」


「つまらない本を読んでいるより、僕とお喋りした方が有意義かと思いまして」


「……一理ありますね」


「でしょう」


「ただ」


「ただ?」


「もしこの取るに足らない本を読むより退屈だったならば……」


「だったならば?」


「……」


「……」


「……」


「……」


答えてくれない。

どうやら口に出すのも憚られるような酷い目に遭うらしい。


「じゃあ、喋りますよ」


「どうぞ」


「沢木さんってさぁ……」



話した直後、沢木さんから強烈なビンタをくらい席を立たれるが、しばらく日を置くと晴れて交際する運びとなった。いやぁ、なんでも言ってみるもんだ。


え? 何を話したかって?

それはあんた、ほら、あれだよ……

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