第2話 新生活初日に隣のお姉さんが作る手料理の試食係になった件②

「すぐに用意するからちょっとだけ待っててね」

「は、はい」


 天岡さんに家の中に連行された俺はそのままリビングの椅子に座らされた。

 家の中に入った瞬間にリビングの方から美味しそうな匂いが漂って来ていて、 食欲が刺激され、天岡さんが作った料理を食べるのが楽しみになっていた。

(それにしてもオシャレなリビングだな……)

 彼女いない歴=年齢なので、もちろん女性の部屋に入るのはこれが初めてのことだった。

 天岡さんの家(シェアハウス)のリビングはあまり物が無くシンプルな感じだが、置かれている家具が統一感があってオシャレだった。

 ほとんどの家具が白色で統一されている。

 俺の座っている椅子も、テーブルも、ソファーも白色だった。


「お待たせしました~」


 リビングを見渡しながら待っていると天岡さんが料理を運んできた。

 天岡さんが運んできた料理はパスタだった。


「味見の方をよろしくお願いします」

「大した感想は言えないかもしれませんけど……」

「全然大丈夫ですよ。ただ素直な感想を聞かせてもらえると助かります」

「分かりました」


 俺はフォークとスプーンを手に持った。

 パスタはクリームパスタで、俺はフォークにくるくるとパスタを巻き付けた。 

 クリームパスタの中には海苔、鶏肉、鮭、レモンの皮が入っている。

 俺は対面に座っている天岡さんに見つめながらフォークに巻き付けたパスタを口に運んだ。


「んっ!?」

 

 何だこの美味しいパスタは!? 

 天岡さんの手作りパスタは俺がこれまで食べてきたパスタの中で間違えなく一番美味しいパスタだった。

 だからパスタを食べる手が止まらず、俺は黙々とパスタを食べ進めてしまって、感想を言う前に完食してしまった。

 完食してから、ハッと顔を前に向けると、天岡さんが微笑ましそうな顔で俺のことを見つめていた。


「美味しかったですか?」

「は、はい。とても……」

「ふふっ、それはよかったです。皇ヶ崎さんが美味しそうに食べてくれていたので自信がつきました」


 天岡さんは空になったお皿を持ってキッチンに向かった。

 そして、お皿を食器洗浄機の中に入れて戻ってきた。


「いきなりお願いしたのに食べていただきありがとうございました」

「いえ、こちらこそありがとうございました。本当に美味しかったです」

「凄い勢いで食べてましたね」

「すみません。引越しの片付けをしててお腹が空いていたのと、あまりにもパスタが美味しくて」


 感想も言わずに夢中になってパスタを食べていたことが申し訳なかったと思った。


「あの、まともな感想が言えなくてすみません」

「そんな申し訳なそうな顔しなくていいんですよ。私としては、美味しそうに私の料理を食べてくださった皇ヶ崎さんのお顔を見ることが出来て満足ですから」


 それなのに天岡さんは文句を言うどころか優しい笑みを俺に向けてくれた。

 美人局なんじゃないかと疑ってしまったことが恥ずかしい。

 

「美人局なんじゃないかと疑ってしまってすみませんでした」


 俺は天岡さんに頭を下げて謝った。

 

「ふふっ、別に気にしていませんよ。あの状況ならそう思われても仕方ないと思いますし。それに私の方こそすみませんでした。いきなりこんなこと頼んでしまって」


 笑顔で俺のことを許してくれた天岡さんが、今後は俺に向かって頭を下げて謝ってきた。

 

「あ、頭を上げてください。いきなりのことで驚きましたけど、最終的に引き受けたのは俺なわけですし、天岡さんが謝ることではないですよ」

「お優しいですね。ありがとうございます。ところで、皇ヶ崎さんは大学生さんですか?」

「はい。来月から大学生になります」

「そうなんですね。一人暮らしですか?」

「ですね」

「私も大学生の時は一人暮らしをしていました」

「そうなんですね」

「一人暮らしを始めたての頃は何かと大変だと思いますので、もし何か困ったことがあったらいつでも言ってくださいね?」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると心強いです」


 天岡さんがそう言ってくれたので、初めての一人暮らしで少しだけ不安があったけど、何とかなりそうな気がした。

 きっかけはどうであれ、引っ越し初日にしてお隣さんと良い関係が築けているのではないだろうか。

 お隣さんが天岡さんのような優しそうな人でよかった。

 天岡さんの他にも二人この家に暮らしているって言ってたけど、その人たちも優しそうな人だといいなと思った。

 

「皇ヶ崎さんはお料理の方はされますか?」

「しないですね」

「ご飯はどうされるんですか?」

「出前を取るか、コンビニもしくはスーパーで弁当を買おうかと思ってます」

「それなら、私たちと一緒にご飯を食べませんか?」

「えっ……いや、それはさすがに申し訳ないですよ」

 

 いくら天岡さんが優しいとはいえ、そこまでしてもらうのはさすがに申し訳なさすぎる。

 

「そうですか。じゃあ、今回みたいにまた新作メニューの試食をしてもらえませんか?」

「まぁ、それなら……」

 

 毎日作ってもらうのは申し訳ないけど、たまに今回みたいに試食をするくらいならいいかなと思った。 

 きっと天岡さんの他の料理もクリームパスタ同様に美味しいだろうから食べてみたかった。


「ほんとに!?」


 天岡さんはテーブルに身を乗り出して俺の手を握ってきた。

 

「は、はい」

「とても嬉しいわ! ありがとね!」

「たいした感想は言えないかもしれないですけど、それでもいいですか?」

「もちろんよ!」

「それじゃあ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね!」


 いつの間にか天岡さんは敬語が外れていた。

 そう言うわけで俺は天岡さんの作った新作メニューの試作係となった。


☆☆☆

 

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