02


「家に帰っちゃおっかなー!!!!」



気が付かないうちに日付が変わっていたけど、お普段なら焦るけどなぜか今日は全く、ちっとも、1ミリも焦るという心持ちにならない。



それよりなんだか愉快で仕方がない。頭がぐらぐらするけど。


右手に焼き鳥5本、左手に同じく焼き鳥5本を持って交互に食べるのって行儀が悪いけどこんなに最高だったなんて。時折胸焼けするけど。



「我が祖国の焼き鳥文化に乾杯! 味変最高!」



そうして串の肉が減った頃、気づけば隣に若い兄ちゃんが座っていた。ああ、アンタなんてタイミングで来ちゃったんだろう……きゃわいそうに。



おそらくこの兄ちゃん、今日は最悪な運勢だったに違いない。



――さて、あとから振り返ると(振り返らなくてもわかるだろうけど)あたしはこの夜、べろんべろんに酔っぱらっていた。



そのままうふふふと気持ち悪い微笑みを会話の間に差し込みながら、隣のその兄ちゃんに思いっきりからむぐらいには。




「だいたいあたしはねえ、流行りのキャラクターとか全くわかんないタイプの女子高生なわけ。なんで? あれ絶対持たなきゃいけないの? そんなルールがあるんだったら言って欲しいよ。ただでさえこっちは流行に乗り遅れがちな世界で生きてるんだからさ」


「………」


「でもさ確かに可愛いかもしれない。が、正直に言ってしまおうか、しゃれこうべ。あたしには似合わないでしょ? いいよ正直に言ってくれて、今夜は無礼講でいこうよ。何言われてもあたしも怒らないよ」


「………お」


「ここで一句!『焼き鳥は、塩でもタレでも、おいしいよ』……わははハーメルンの笛吹き男。はい、次そっちだよ、しりとうりしようぜ。“こ”からね」


「……こわい」


「い? い……い……いよっ! イカスね兄ちゃん。ほら、たんとお食べ。はんぺんをお食べ」


「………」


「あ、お兄さん。今“いい迷惑だ”そんな顔したね、しましたね。あたしゃバッチリ目撃しちまったよ。ちびまるこが大好きだよあたしゃ」


「……」


「楽しい夜に乾杯、なんだか瞼が重くなってきた。はんぺんの食べ過ぎかな……」




恐ろしい絡み酒をかましたあたしの瞼はそこで完全に閉じきって―――。






「おい、起きろ」


耳元で、見知らぬ男の声がする。なんだかいい匂いもしてきた。

でもちょっと……ちょっとってば。体揺すんないで。頭痛いんだってこっちは。



「おねーさん、もう店も閉めたいんだけどさぁ」



今度は聞き慣れたおでん屋台のおっちゃんの声だ。こっちは出汁の香りがしてきた。最高の香りにつられて瞼を持ち上げるけど、ぼんやりしてよ目の前がかすむ。



猛烈な眠さにあらがっていると、隣に座ってる男の人があたしの頬をぺちぺち叩く音が、やんわり耳に聞こえた。



「起きろ」


うん。はいはい。


「起きろ」


起きてますバッチリ。


「おい」



おき……………れない。

ダメだ。もう眠い。



そう思ったときにはもう、意識はどこかに飛んでいった。


あたしはそのまま、落ちるように眠ってしまった。




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