奥手すぎて話すと声がだんだん小さくなってくやつ

『それでも、ちゃんと聞こえてます』


登場人物(2人)

ユウト(男):高校二年生。素直でちょっと鈍感。だが、繊細なところも。

ミユ(女):同級生。人見知りで声が小さい。ユウトが好きで、でも話すたびに緊張して声が出なくなる。


舞台:放課後の教室。梅雨時。窓の外はしとしと雨。




(SE:静かな雨音。放課後。教室には2人だけの気配)


ユウト(教室のドアを開けながら)

あれ……ミユ? まだいたのか。


ミユ(少し驚いてビクッと反応。鞄を抱え直しながら)

あっ……えっと……うん……


ユウト(教室の中へ入る。彼女の隣の席に立ち止まる)

あれ、もしかして……雨、止むの待ってた?


ミユ(目線を落とし、そっと頷く)

……うん……


(間)


ユウト(苦笑い)

タイミング悪かったなー、俺も傘持ってこなかった。……ん、座ってもいい?


ミユ(小さく首を振り、急いで言う)

だ、だめ、じゃ、ない、けど……


ユウト(椅子を引いて腰かける。窓の外を見る)

雨、あんまり好きじゃないんだ。なんか閉じ込められてる感じしてさ。


(ミユ、鞄の端をぎゅっと握る。しばらく無言)


ミユ(しぼり出すように)

……わたしは……すき。


ユウト(少し驚き)

ん? 雨が?


ミユ(コクンとうなずく)

うん……ひとの声が……聞こえにくく、なるから……


ユウト(ぽかんとして、ふと笑う)

そっか、ミユらしい。……あ、いや、変な意味じゃないよ?


ミユ(小さく笑い、でもすぐ目を伏せる)

……やっぱり……へんだと、思うよね……


ユウト(真面目な口調で)

思わないよ。俺にはできない感覚だな、って思っただけ。


(また、少しの沈黙。ミユは何かを迷っているように、手をぎゅっと握りしめている)


ミユ

……ゆうとくんって……


ユウト

ん?


ミユ(声がどんどん小さくなる)

……いつも……だれにでも、やさしい……よね……


ユウト

ん? ちょっと、もう一回言って。……声、ちっちゃい。


(ミユは顔を真っ赤にしてうつむく)


ミユ(消えそうな声)

……やさしいの、ずるい……よ……


ユウト(戸惑いながら)

……え? 俺、なんか悪いことした?


ミユ(慌てて)

ち、ちがっ、そうじゃなくて……っ


(自分の声が大きくなったことに気付き、口を押える)


(間)


ミユ(自嘲気味に)

……こんなの、伝わるわけ、ないよね……


ユウト(じっとミユを見て、ゆっくりと)

……あのさ。俺、さっきから……聞こえてないふりしてるだけかもよ?


(ミユ、はっとして顔を上げる)


ユウト(目を逸らさず)

本当は、全部じゃないけど……わりと、聞こえてる。


ミユ(震える声で)

……え……っ?


ユウト

お前が俺のキーホルダー見て、

「……にあってるな、って……」って言ったときも。

……聞こえてたよ。


(ミユは目を見開き、次第に頬が真っ赤になる)


ミユ(ほとんど口パク)

……な、なんで……きづいて、たのに……


ユウト(少し笑って)

だって、お前……がんばって言葉にしてたじゃん。

ああやって……ちゃんと、自分のペースでさ。


(ミユの目に、かすかな涙が浮かぶ)


ユウト(静かに)

だから、聞こえなかったことにして……待ってた。

――ミユが、「ほんとうに伝えたいこと」を、自分の言葉で言えるまで。


(沈黙。雨の音だけが響く)


ミユ(息を吸って、そっと)

……わたし……ゆうとくんのこと、ずっと……


(雨音、少し強くなる)


ミユ(雨音にかき消されそうな声で)

す、すき……です……


ユウト(わずかに目を細めて)

……やっぱ聞こえないや。


ミユ(肩を落とす)

……っ、ごめんなさ……


ユウト(でも、すぐに言葉を重ねる)

けど、顔見たら、わかる。


(ミユ、息を止める)


ユウト

今までで、一番、ちゃんと伝わった。


(ミユの目に、ぽろりと涙が落ちる)


ミユ(かすかに微笑む)

……それ、ずるい……っ


ユウト(立ち上がって、傘を差し出す)

……帰るか。相合傘、してもいい?


ミユ(そっと頷く)

……うん。



インスタントEND



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