田島はラブストーリーが好き。恋愛モノ台本集
田島ラナイ
傘がふたつになる前に
登場人物 ナツミ(女) ユウ(男)
舞台 放課後、校門前。小雨が降る。ひとつの傘の下にふたり。
(SE:しとしとと雨音)
(ユウが傘を差して立っている。ナツミが小走りでやってくる)
ナツミ (少し息を弾ませて) ……待った?
ユウ いや。空見てただけ。
ナツミ へえ、詩人かよ。
ユウ 違ぇよ、雨雲の流れ見てたの。
ナツミ それでなんかわかんの?
ユウ ...さぁ?
ナツミ さぁってなんだよ笑
ユウ うるせーなぁ
ナツミ ふーん。じゃあ私が来たのも、天気予報どおり?
ユウ お前の予報はいつも外れる。
ナツミ あ、それ褒めたつもりでしょ。 ……たぶん、私も本当は来ない方がよかったんだろうけどね。
(少し間)
ユウ ……ミサキ、今日は?
ナツミ 保健室寄ってた。具合悪そうだったし。 ……あの子、ちゃんと可愛いよね。いろんな意味で。
ユウ ……うん。
ナツミ あは、あっさり肯定する? まあいいけど。
(間)
ナツミ さ。 この雨、見覚えある? 去年の合唱祭の前の日も、こんな天気だった。
ユウ ああ……ピアノの譜面、濡らして泣いてたナツミを慰めたら、 そのあと俺、なぜか先生に怒られた日な。
ナツミ 笑えるでしょ。 でも、あの日からなんだよ。 ちゃんと“あんたのこと、好きかも”って思い始めたの。
ユウ ……そうだったんだ。
ナツミ うん。 優しいの、わかってた。 でも、それが誰にでも向けられてるのも、ちゃんと見てた。
(沈黙)
ナツミ それでも期待しちゃうのってさ…… ほんと、自分のこと面倒くさいよね。
ユウ ナツミは面倒じゃない。
ナツミ そういうとこがさ、ダメなの。 今のも、嬉しいって思っちゃうし。
(少し間)
ユウ ……ミサキのこと、俺もよくわかってないんだ。
ナツミ うん、知ってる。 あんたって、いつも「ちゃんと好きになるのが怖い」って顔してる。 誰のことも選ばないくせに、そばにはいたがる。
ユウ ……そうかも。
ナツミ でもね、私はそれでも良かったの。 ただ、隣に立てればって。
ユウ ナツミ——
ナツミ でも、今日だけは違う。 今日だけは、 “隣に立てる理由”がほしいの。
(間)
ナツミ ねえ……好きって、言って。 ウソでいいから。 そのひと言で、たぶん、私はちゃんと終われるから。
(ユウ、目を伏せる)
ユウ ……俺、ほんとに誰のこともちゃんと好きになれてない。 ミサキにも。お前にも。 気持ちが揺れるのが怖くて、誰かの手をちゃんと握れないまま—— ただ、“優しい人”でいたくて。
ナツミ それってさ。 “嫌われたくないだけ”だよね。
ユウ ……かもな。
(沈黙)
ナツミ 私はさ、 あんたに好かれたくていろいろ頑張った。 髪切った日も、メイク練習した日も、 “あんたに気づいてほしくて”選んでた。
ユウ ……ごめん。
ナツミ いいよ、もう。 今日だけだから、 あたしのワガママ、聞いて。
ユウ ………… ナツミ。 好きだよ。
(短く、雨の音だけ)
ユウ ……ウソってわかってて、 それでも言ってって言われたの、生まれて初めてだわ。
ナツミ あは、光栄だね。 この恋は賞味期限付きかー。 明日にはもう、ただのクラスメイト。
(ふたり、前を向いて黙る)
ナツミ ……明日はね、傘、持ってこない。
ユウ なんで。
ナツミ 並ぶ理由、なくしたいの。 それだけ。
(ナツミ、ふっと笑って、傘の外に出る)
ユウ おい、濡れるぞ!
ナツミ いいの。 びしょ濡れになれば、 また最初からやり直せる気がするから。
(歩き出す。足音と雨音)
ナツミ(背中で) ねえユウ、 これから誰かに優しくする時は、 ちゃんとその人のこと、選んであげて。
(SE:足音が遠ざかる。雨が止む)
(ユウ、少しだけ笑って、傘を閉じる)
(SE:傘を閉じる音。静寂)
ユウ ……っは、精進するよ、……ナツミ。
(暗転)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます