第2話 野郎ども!作戦開始だ!

 それは天啓というものなのだろうか……

 拗れた挙句の果ての私は“化学屋”になり、日用品メーカーの研究開発職に潜り込めたのだが、そこである日、偶然作り出してしまった高分子ポリマーの副産物は私にとっては極めて画期的な物だった。

 無色透明なそれは純水の様な流動性があるが、ある条件下では急速にゼリー状に固まり約24時間後にまた流動体へと戻る。

 これで一矢報いられるのでは無いだろうか??!!

 あの“悪夢の出来事”から長年ずっと不満に思って来た事……

 それは男子トイレに対し女子トイレが少な過ぎると言う事!!


 ご存知だとは思うが男子トイレは個室の他に、ずらりと並んだ“朝顔”なる物を擁している。


 ここで男共は横並びとなり、恥ずかしげも無く“小用”を足している。

 よく言えば『Touch&Go』なのだろうが、掛かる時間が短くスペースも小さく済むのだから女子トイレに比べ、その“処理能力”は高い。

 にも拘わらず!!

 ややもすれば男子トイレは女子トイレに比べ、その占有面積が大きい!!

 これはいったいどういう事か??

 明らかに“男社会”による弊害である!!


 公平を期すのであれば、女子トイレの占有面積を広げ女子トイレの個室の数を大幅に増やすべきであろう!!


 それが成されないのであれば!!

 私はささやかなテロ行為に出た!

 混雑時の男子トイレに男装して忍び込み、私が作り出した画期的物質を流し込んで、しばらくの間、“朝顔”を使用不可にする。


 しかしたった一人の抵抗では並び立つ“朝顔の”前では余りにも無力で……その無念を酔った勢いで、つい愚痴ってしまったら……意外にも賛同者を得た。


 そして我ら五人の“戦士”は今、ハイエースに乗り込み、私の長年の怨敵の……あのサービスエリアの男子トイレへと向かっているのだ!


 男装した我々は、今までで最もムカついた男の名前をコードネームとして使っている。


 ハイエースの運転を買って出たのはトラックドライバーの『マサヒロ』

 下した窓に右ひじを出し、咥えタバコをしているが自前の“つなぎ”を着込んだその姿は既に男前で……私が少しメイクを施すとすれ違う女子達の目が皆、♡になった。


 膀胱炎になってしまう被害を被った『ノブテル』と会社の汚い男子トイレの掃除を散々させられた『キヨタカ』はざっくりした洋服にフルフェースのヘルメットを被った。

 あと、トイレでの被害では無いが……温泉旅館の……大浴場とはとても言えない狭い女風呂で、男からノゾキの被害に遭った『青(これは旅館の屋号の頭文字だが)』は……素はめちゃめちゃ可愛い女の子なのだが、髪をボサボサにしてボウボウの付け髭に小さな丸いサングラスを掛け、レゲエのおっちゃんをってノリノリだ。

 そして私は……手慣れた男装メイクでヌボーッとした『タクヤ』と化している。


 そろそろ渋滞が長くなって来た。

 目的地はこの渋滞の先!!

 勿論我々は今日のミッション達成の為、前日から水分を控え、サービスエリアでキラキラしているご当地ソフトクリームやジェラートには目もくれない所存だ!


 目の前にあるクーラーボックスの中はジュースなどでは無く、我々の武器『Destroyer Of Lavatory』が入っていて、私は1本ずつそれをメンバーへ手渡した。

 いよいよ静かなる戦いの幕が切って落とされるのだ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る