この世界で主人公だけがハーレムルートに進んでよいものとする
@usigameima
この世界で俺が序盤ボスを全うするものとする
第1話 ハローゲームワールド
「ふぅ……一回トゥルーエンドを迎えたらそれ以降は絶対このルートに入っちまうぜ」
コントローラーを机の上に放り、背もたれに体重を預けて大きく伸びをする。午前3時過ぎ、月明りだけが頼りな外の暗闇とは対照に、部屋中を照らすシーリングライトのすぐ下でモニタに流れるエンドロールを眺めていた。
さすがにおねむの時間だぜ。上まぶたさんと下まぶたさんがこんばんはをしそうだ。こんばんは。ぐぅ。
PC、家庭用コンシューマ、果てはスマホ版まで出たアクションRPG『永久に刻まれて』の追加DLCクエストを全部まるっとクリアして、メインクエストも巷でトゥルー扱いされているエンドで終わらせたところだった。
『永久に刻まれて』
俺が愛して止まないこのゲームは、かつて世界を幾度も滅ぼしたとされる魔神が復活し、それによる滅亡を食い止める主人公とヒロインたちの物語である。
魔神は頭、腕、足とパーツごとにバラバラになって世界中に散らばって封じられており、その力の残滓によって闇の中から魔物が溢れだす世界。
そんな世界で魔法学園へと通うことになった主人公リアンは、実は魔神の残滓と契約しており、その身を魔に侵されながらも善良な強い心でヒロインたちと心を通わせあっていく。
そして、すったもんだあげくに復活した魔神と対峙して、ヒロインとともに魔神を討ち滅ぼす物語……なのだが……。
各ヒロインごとの個別エンドに加えて、全ヒロインとねんごろになっちゃうハーレムエンドが実装されており、このハーレムルートのことを巷ではトゥルーエンドと呼んでいる。(諸説あり)
なにせ、個別エンドのときのラスボスである魔神は復活した魔神の頭であり、しかも、はなはだ遺憾なことにエンドロール後にエンドを迎えたヒロインがどことなく寂しげな声でそっと「お疲れ様」だとか「頑張ったね」だとかをのたまうのである。
これを最初に聞いたときにはそらもうびっくりどっきり心臓が飛び出るほどの驚きと、さっきまであんなにイチャイチャしていた甘ったるい声を出していたヒロインがこんな!? 嘘だと言ってよ! なんて具合に大荒れに荒れたものだ。
とはいえ俺もゲーム初心者ではない。こういうものはたいていどういうプレイを選択したかによって決まるので、それはもう意気揚々と次の周に入った。
ふっ、簡単なことだぜ。
そんなことを思っていたのに、どのヒロインとのエンドを迎えても、最後の流れはいつも一緒。魔神の頭だとか、腕だとか、一部だけ復活した魔神を倒してエンドロールである。そして聞こえるヒロインの声。
ゆ、許さねぇぞクソ開発……絶対に許さねぇ……。
憎しみの怨嗟を払拭するために、次の周回で一番好きだったヒロインのエンドを見て最後にしよう。そう考えてプレイしているときに、俺は気付いた。
見たことのない選択肢が増えている。
ははーん、なるほどね。
これは神開発がしかけたサプライズに違いない。
そう、こういうものはたいていどういうプレイを選択したかによって決まるので、つまり全ヒロインのエンドを迎えることで迎えることができる新たなエンドの匂いをかぎとった。
察しのいい俺はさらにもっと深いところまでかぎ当てた。
これはハーレムエンドに違いない。
俺はプレイヤーの鑑としてセーブ&ロードをしまくり、全ヒロインで新たな選択肢に応じたプレイに興じた。ときにはハーレムエンドから外れて個別エンドに流れてしまうこともあったが、ついに辿り着いたエンドでは完全復活した魔神を相手に激闘を繰り広げ、魔神を討ち滅ぼすのであった。ざまぁないぜ。
そして流れるエンドロール。
これも特殊演出で、全ヒロインとの思い出が流れていき、さて緊張の一幕。
いつもなら暗転する画面が明転する。勝ったな。
そこに現れたのは、主人公を巡ってヒロインたちが骨肉の争いを繰り広げ、その喧騒の中で笑っている姿。
寂しげな声を上げるヒロインは誰一人としておらず、元気な姿の主人公を取り巻いて繰り広げられる喧騒に俺はもう涙が止まらなかった。
後から調べてみると、個別エンドではその後主人公は死んだんじゃないかとか、死んでないにしても魔神への対抗手段がなくて世界が滅んだんじゃないかとかそういう考察が目についた。言われてみればありえそうだなと思える内容で、逆にハーレムルートは完全復活した魔神が倒されているので世界が滅ぶこともないのでトゥルーエンドだという説をよく見かけた。
開発は各エンドについて特にそういう面で言及しておらず真相は闇の中だが、俺もハーレムエンド=トゥルーエンド派だ。だってヒロインがみんな幸せそうな感じで終わってるからね。まあ、ハーレムなんでその後どうなのってのはあるけど、その後のラブコメ部分とかはスピンオフとかそういうのでやってもろて。
スピンオフ、やってもらえないかな。やってほしいな。やれ。
まあそういうわけで個別エンドは微妙な終わり方だったから、俺はいつもハーレムエンドを選ぶのだ。そうじゃないと世界滅亡してそうだし、ヒロインみんな可愛くて大好きだから幸せになってほしいからな。
決してハーレムルートに突入すると全ヒロインのちょっぴりえっちなCGが回収できるからではないことをここに宣言しておく。
さて、俺はついさっきまでそんなゲームをして、椅子の上でおやすみなさいしていたはずだ。
だというのになんだろう。うちの板みたいになってしまった布団の感触とも違う、この全身を包み込むようなフワフワ感は。
しかも、どう考えても俺は今横になっているし、あったかくてふかふかなお布団の中にいるとしか考えられない。
寝ぼけて布団に入ったならもっとカチカチだし、こんな手触りのいい布はなかったはず……。それにしてもお布団気持ちいい……。二度寝しよ……。
まどろみの中だから考えがまとまらない。
というか夢かな。夢だなこれは。間違いない。次に目が覚めるのは寝違えてるか、腰が耐えきれなくてうっすら痛みを発するときに違いない。
「あっ」
声が聞こえた。
女の子の声だ。誰の声だろう。聞いたことがない。
「オーレウス様、二度寝はいけませんよ。ほら、朝ですから」
ふふ、オーレウスだって。
さっきまでゲームやってたからって夢にまで見るなんて。
序盤ボス。魔神の力で主人公を殺そうとして返り討ちに遭う小物じゃないか。
なんだかんだその後も敵として出てくるけど、出てくるたびに異形の化物になって、最後には魔神のお供モンスター扱いのオーレウス君だ。
そのかませっぷりもだが、主人公とヒロインがその仲を進展させるのに一役買ってくれるので、キャラクターとしては好きだよ。
それはそれとして、序盤にはちょっと面倒な強さなのでおっちんでくださいとはいっつも常々ずっと思っている。プレイヤースキルが磨かれた今ならともかく、初心者の頃はこいつに結構苦戦させられるし、やたらめったらHPが高いので慣れても倒すのに時間がかかるのだ。
「オーレウス様、無視していますね? 寝てる人の息の仕方ではありませんよ」
肩を揺すられる。
小さな手が触れる感触があった。
どうにもリアルな夢だな。
でもこの揺られ方は電車のように心地がいい。
意識がゆっくりと沈んで暗くて暖かで――
ふぅ
「うひゃぁっ!?」
耳元からこそばゆくってぞわぞわとした感覚が駆け上ってきたものだから、俺はびっくりして跳び起きた。口から心臓が飛び出して、目玉が宙に浮かぶかと思った。
見ると、口元を手で押さえながらクスクス笑いをこぼしているメイドの姿が目の前にあった。
長いピンクの髪は彼女の腰の辺りまで伸ばされている。ピンクの髪!? ははーん。さては、ギャルか不良か地雷系だな。
しかし、その出で立ちはどことなくお上品に感じた。
優し気な眼差しがこちらに向いており、親愛の色をたたえている。
えっ、誰?
「えっ、誰?」
「もー寝ぼけすぎですよ。貴方の可愛いメイド、エリーですよ」
むすっと頬を膨らませて、それからにっこり笑ってそう言った。
エリーって誰だよ。
あっ、いや、そうか。わかったぞ。
その瞬間、俺の脳内に溢れ出す知らない誰かの記憶。
だが、知らないその誰かのことを俺は知っている。俺は、
「オーレウスだ」
「エリーですけど」
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