第5話 主よ身許に
00
5月半ばのイタリア、ローマ。
真夜中、雨が石でできた街を音もなくうっすらと濡らし、街灯に照らされた空間のみ雨粒を肉眼で見ることができる。人々は寝静まり、音という音は何もしない。
暗闇のなかから突如、石畳を走る音が遠く聞こえてくる。靴のかかとが石とぶつかる度に音をたて、やがて街灯の下に傘もささず濡れそぼった男が姿を現す。
自身で誂えたのだろう、体に綺麗に合ったスーツをまとっているものの、髪は乱れ手には何も持っていない。顔は真っ青で、厚みのある唇は色を失い紫色になっていた。
年齢は三十代半ばほどで、口ひげを蓄えた茶色の髪をした美丈夫だ。
しきりに背後を気にしながら道を抜け、やがて見つけた教会の扉に駆け寄る。けれど数度木戸を叩くも施錠されており、立て続けに5度叩いてから諦めてその場から駆けだした。
何度も背後を見やる。点々と設置された街灯は誰も照らさず、また音も聞こえない。
それでも男はやはり何度も振り向き、息を荒くして教会の前から立ち去った。
ヴァチカン生まれのTさん 瀧河鮎子 @kawazakana0211
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヴァチカン生まれのTさんの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます