第4話 魔法で創られた世界
「この世界は、魔法によって形成されています」
教科書を手に語る女性を、子供らは椅子に座って聞いている。
中には、紙に書き留める者や机に突っ伏す者など受ける姿勢は様々。
幼さゆえの怠慢とでも言うのだろうか。
自由に、だが講義の邪魔にならないよう各々の時間を過ごす。
講師と生徒。
一室およそ三十人の生徒に、一人の講師がついて勉強を教えている。
今日の講義は、魔法学である。
「よって、存在するありとあらゆるものが魔法で創られています。それは、地上であり、空であり、家やこの教科書もです。そして、わたくしたち人も同じ。しかし、異なるところも存在します。誰か、分かりますか?」
講師は、生徒に問を投げかける。
「はいはい! 石ころと違って自我のある私たちには生命が宿っているところです!」
元気よく答えた生徒に満足した様子で、講師は説明を再開した。
「その通り。〝生命〟というものが生きているものには与えられています。これは、体を構成する魔力と比べとても膨大な量で創られています。そして、この量こそがその人の将来的な魔力総量であり、寿命に相当します。力強い人は、それだけ生命力に富んでいるということですね」
「先生、僕の量は沢山なのかな? 測ってよ」
生徒の一人は、無邪気に胸に手を当てて質問をする。
その問いに、少し困ったと講師は首を振った。
「魔力総量は調べることが出来ません。また、他人が手を貸すことも出来ないのです。大体のことは、自分自身で感じるしかありません。それでも、完全に把握することは困難ですけどね。日々の勉強が大事なのは、知識を得ることが目的ではありますが、こうした自分自身を知るためでもあるんですよ。ですが、稀に完全に把握の出来る方も存在します。そうした方は、大方優れた才能を持っていますね」
尋ねた生徒は、頭を捻りながら残りの時間を過ごすのだった。
「では、話を再開しますね。この後の実習にも関係する話です。誰もが扱える魔法に方向性を持たせ、用途に沿った独自の解釈を加えたモノが、世に広まる術式というものです。これを使用した魔法のことを、わたくしたちは『魔導』と呼んでいます。まだあなた方は幼いですから術式を組み立てることはもちろん、なぞることでさえ難しいでしょう。ですから、日々勉強を重ね将来世に広まる術式を組み立てることが出来るよう先生も願っていますよ」
話の区切りに、鐘が鳴った。
講義の終わりを告げる鐘の音だ。
「では各自、グラウンドへ集合して下さい」
荷物をまとめ、講師は教室を後にする。
生徒は各々講義の終わりと共に駄弁り初め、同じく教室を出て行った。
広々としたグラウンドで、生徒は講師の言葉を静かに聞いていた。
「では皆さん、今日は実際に魔法を使って身を守る術を教えます。二人一組のペアを作って下さい」
講師は、手を叩きながら生徒らに指示をする。
生徒は一斉に近くにいる友人に話しかけ、早々にペアを組んでいった。
しかし、一人の生徒はその場でポツンと立ったまま、誰ともペアを作ろうとさえしなかった。
いや、しても迷惑をかけるだけだとその生徒は理解していた。
だから、誰とも組むべきではない。
程なく、その生徒以外の全員がペアを組み終わった。
「カイン・シュベルト。余ったあなたは、わたくしとやります。いいですね」
断ることなんて出来ない。
カイン・シュベルトは首を縦に振った。
「『七大元素』の扱いはまだ早いので、今日の実習では無属性魔法を扱います。ではまず、二人の内一人が下級魔法を相手に放ちます。攻撃を受ける方は、防御障壁を展開し、その攻撃を防いで下さい。それを交互に三往復。決しておふざけや、躍起になって直接当てようとはしないこと。一番威力の低い魔法といっても、当たり所が悪ければ怪我をしてしまいます。くれぐれも十分注意して行うように。それと、詠唱ははっきりと口にすること。これは言魂であり、魔力――即ち世界へと働きかけるものです。今から行う行為を認めさせる儀式のようなものですから、忘れず口にするように。では、始め」
合図と共に相手から数メートルの距離を開け、生徒は一様に『
かざした手から、無色の力の塊が打ち出された。
それを両の手を前に突き出して、『
軽いノックバックが腕を伝うが、さほど気にもならない程度である。
役割を変え、先とは反対にこちらが魔法を放ち、向こうが受け止める。
防御障壁は、基本となる魔法であった。
魔法は便利な反面危険を孕んでいる。
魔法を防ぐには、魔法しかない。
そのための手段が、こうして目の前に展開する魔法陣、通称『防御障壁』と呼ばれるものであった。
これの応用として、対抗術式などが挙がる。
生徒全員が何の苦もなくこなしていく中で、カインはというと、講師が放った魔法を腕に受けて鈍い痺れを味わっていた。
「カイン・シュベルト。何故障壁を展開しないのです? 十分展開には間に合うはずですよ」
「はい……すみません、先生……」
カインは俯きながら講師に謝る。
講師は短く息を吐き、役割を交代する。
カインは右手を前に出して、魔法を放つイメージをした。
恐らく、人が手を動かすように、呼吸するかのように、魔法とは自然に扱えるものなのだろう――とまるで人事のように考えながら。
だが、一向に魔法が手から放たれることはなかった。
「どうしたのですか? これくらいのこと、まだ出来ないのですか」
痺れを切らした講師が、叱咤する。
だが、カインはそれに対し首を横に振ることが出来なかった。
講師は、今度は大きくため息を吐いてから、額に手を当てる。
「カイン・シュベルト。貴方くらいの年頃なら扱えて当然の魔法です。もう十四なのですから。他のクラスのシーア・クラインは、幼馴染でしたね。彼女は上級魔法を
講師の叱責は、いつものことだった。
理解していた。
それは嫌というほど言われてきたことだから。
だが、それは無理な話なのだ。
「すみません…………」
だからこそ、謝ることしか出来ない。
下級魔法すら使えない劣等生。
要は落ち零れである。
この講義は結局、カインだけが何もしないまま終わりを告げた。
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