第2話 ドール

 さて、我等が入れる生物の創造だが、ここから試行錯誤である。

まず生物に入れる者は中階層より下の者達が入ることにした。一番下の下部組織の者は覚醒していないので、我々は本人の意向など気にせず勝手に入れる事にした。

中階層以上の覚醒している者達、我々が入る生物をドールと呼び創造を試みた。

ならば、より機能を多く持つようにするのだ。

 最初に創造するにあたって最低限の活動ができるドールで良いとした。

仮想空間内を感じる為には感覚が必要である。

見ることができるようにと目を用意。

地上を動けるように手足は2本、次に物を掴めるように最低限の指を3本用意した。

皮膚の色はグレー、目は良く見えるように大きくした。

恒星の光がドールのエネルギーとして利用できる。

ドールの中に入り鉱物を掴んでみた。その冷たく固い感覚と重さを楽しんだ

目は広大な仮想空間の世界を見ることができた。

 また、惑星の地上に降り立ち自身の目で美しい夜空を見ることに皆が驚嘆した。

夜空に惑星の周囲を周回するさらに小さい惑星が浮かんでいる。これを月と呼ぶことにした。月は恒星からの光を受け輝き、夜空に目を向ければ遠くの星々の光が重なり合い銀河の集団が帯のように重なり合う。

宇宙空間内では核分裂による爆発で発生した赤く、または青く光る塵が星々の間をたなびき、その美しさに目を奪れた。

 3本指のドールは最低限を基本とした結果、華奢になり重力の強い星では利用できない事が判明した。

宇宙空間の創造に慣れてきた者は、惑星の環境に合わせ新しい生物を次々に創造し始めた。

 我々が創造する宇宙空間は個々に独立していた。

他の宇宙で創造した生物を思念で伝える事はできたが他の宇宙に生物を運べないのである。

 他の宇宙に入るためには一旦、我々の世界に戻り、狙いをつけ惑星に降り立つのだ。これは不便である。個別に存在する宇宙を融合する案がだされた。

「皆が作った宇宙をくっつけてみないか」とノヴァからの提案だ。

「そうか、それは面白いアィデアだね」ツクネが賛同する。

それぞれの宇宙を融合すると巨大な宇宙空間ができた。

我々はそれぞれの宇宙を外側から観察できる。もちろん見たい場所はその部分を拡大することができるが、惑星に降り立ち感じる世界は魅力があり大変面白いのだ。それぞれの宇宙を往来できればもっと楽しめる筈だ。

さて、融合してみると虫穴のようなチューブが宇宙空間内で幾つも発見されたのだ。

そのチューブの入口から入ると一瞬で出口まで進む。

すると相当な距離を進めることが分かった。

このチューブをワームホールと名付けた。

 さて、上手に宇宙を創造する者もいるが中には全く無機質な宇宙しか作れない者もいた。アヌキだ。

皇帝ヌンナキネス

 アヌキは別の長老の一人ヌンナキネスに仕えている。

皇帝ヌンナキネスは最初に覚醒し我々を導いた長老である。自身の事を皇帝と呼ばせた。

 皇帝ヌンナキネス:「わしが覚醒せなんだらお前らの存在は無い。わしの命に反したものは処罰する」と七つの規律を設け全ての長老達にも従わせた。

 ・長老達を敬うと同時に下部組織であっても全ての者に敬意を払う。

 ・命じられた活動はもとより思いついた活動も実践する。

 ・できることは皆へ分け与えよ。

 ・勝手に他の者の思念を読み取るような盗みをしない。

 ・定期的に休息をとる。

 ・妄言を吐かない。

 ・エネルギーを貯め込まない。

皇帝ヌンナキネスは意に反した者を分裂させたり下部組織へ移動させたりした。

さてアヌキだが、創造した宇宙に化学反応が起こらないのである。何かが足りない。

 宇宙を創造した者の思念、その性質を宇宙は受けつぐのである。長老からの思念を正しく読み取り実行すれば良いのだが雑念が邪魔し思うように作れないのだ。

私の友人エリオがアドバイスする。

「アヌキ、ここをこうすれば良いと思うけど…」

アヌキ:「別に、お間の意見は要らない」

エリオはむっとした。

「なんて奴」

アヌキ:「俺はこれでいいんだ、無機質が好きなんだ。美しいだろ」

と、アヌキは無機質だが冷たく光り輝く宇宙を見つめた。

私:「確かに綺麗だけど、これじゃ、何も生まれないし、つまらなくないか?」と、私も言う。

アヌキ:「お前らさ、何、上から目線で物言うんだよ。俺にかまうな」

しかしアヌキはエリオが作った明るく温かい宇宙をみて内心嫉妬する。

私:「アヌキさぁ、皆がお前の宇宙を良くしようと知恵を出しているんだからさ」

アヌキ:「なんだよ、うっせえな、余計なお世話だ」

アヌキはプイと我々の前から姿を消した。

 エリオが創造した宇宙は暖かそうで色々な微生物が蠢いていた。

その内にもっと大きな生物、いろいろな環境に適合できる生物を作成しようとエリオも皆が試みた。

 帝国生物興業とクレイトス星――

宇宙の創造と同様、生物の創造も上手下手がある。宇宙を創造するのはとても上手いがドロドロの単細胞しか作れない者もいる。

 皇帝ヌンナキネスの管理下で色々な生物を上手に創造できる集団が現れた。

この組織は帝国と名を付けその下に役割名を現した。帝国生物興業と名を定め活動した。

 その頃、ヌンナキネスは皇帝用のドールを創造させた。3本指ドールではなく手足の指は5本として、とても大きなサイズのドールである。

 その頃になると徐々に5本指のドールが主流となった。

船を操縦するだけの場合、呼吸も要らない。目と耳があるだけのドールを用いた。

皇帝ヌンナキネスは宇宙の中心拠点として自身が活動できる惑星を探した。

幾つかの候補が選抜された。

「あとは、皆で決めよ」

と、どの惑星を中心拠点するか皆に託されたのだ。

 ヌンナキネスの管理下で帝国環境管理局が組織され。調査を開始した。

 ヌンナキネスが選抜した惑星は、環境は良いが大小様々である。

 重力もそれなりに微妙に異なるのである。

 惑星によっては地震活動が活発で地殻変動が大きく安定してない。

 最終的には皆が使用する3本指ドールが活動できる惑星を選択した。

惑星の名をクレイトスとした。

 クレイトス星の大気は二酸化炭素とチッソ、アルゴンで組成されその環境に合わせた生物が生息していた。

 帝国生物興業での生産は増える一方である。

 宇宙空間内で物資を運搬する船が必要になった。

 宇宙空間を移動していると、いつ星の欠片が衝突するか分からない。外郭は頑丈でなければならないのだ。様々な鉱物から適した金属を選択した。

 試行錯誤を繰り返しクレイトス星の泥から採取された金属が有効と判断された。その泥は我々の思念に反応するのである。

 最初発見された時、我々はドールに入り湖で遊びに夢中になっていた。水辺には泥が多く、この泥を体に塗ると気持ちが良い。次第に皆が泥を投げ合う遊びを始めたのである。すると泥の動きが通常とは異なる方向に飛び散ったのだ。相手に泥を撥ねたつもりが自分に飛んでくるのだ。

 この泥を分析すると我々が発する思念の周波数に応じて方向を変える事が判明した。さらに精製し、集め溶鉱炉にて溶かし不純物を取り除いた。金属状に加工すると、多少の訓練は必要だが我々が思う通りに移動させることができた。

この金属の名をクレイトリウムとした。

 この金属は宇宙空間での使用にも耐え非常に軽くて強度の高い金属であった。

高温、低温を問わず、非常に安定した構造を持つと判明した。

クレイトリウムは他の惑星でも発見されクレイトリウム製の船が次々に建造された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る