第4話 クマーン・トーンの祀り方

 葛城聖の説明はこうだった。オカルト好きの日本人がタイに旅行し、知り合いのタイ人から「本物のクマーン・トーンがある」と言われ、連れて行かれた骨董屋で10万バーツ払って買い求めたのだと。


 「10万バーツって…日本円に換算したら40万円以上ですよ…いやあ、ちょっと信じられないですよね」聖は顔をしかめて見せた。骨董屋に「これを大事に祀れば、支払った金の10倍は簡単に溜まる」と言われたらしい。


 「いや、だったら骨董屋が祀ればいいじゃん!」ホンはプッと頬を膨らませながら口を挟んだ。「そうだよな。ホン、お前のいうとおりだ」デーン伯父も笑いながら同意した。


 聖も苦笑しながら、「その日本人もそう問いただしたそうです。そうしたら、「祀っている時間がない。今すぐに金が要るんだ」骨董屋はそう答えて微笑んだ、とのことです」と語った。


 そしてこの枯木色の塊を毎日拝め、経文はここにある、これを毎朝読み上げろ、そしてお菓子と赤い色のついたジュースを毎日供えろ、そうするうちに、夢の中に子どもが現れる。あるいは誰も居ない家の中に子どもの気配がするようになる。それはクマーン・トーンがお前の家の守り神になった証だ。そこからどんどんお前は金持ちになる。そう口早に骨董屋は告げた。


 その日本人は半信半疑ながら、好奇心に打ち勝てず、結局その塊を購入した。スーツケースの底にしまい込み、日本に持ち込んだ。経文は読めないので、タイ人の知り合いに頼み、英語アルファベットに直してもらい、それをそのまま読み上げることにした。そのタイ人曰く、「タイ文字だが、内容はさっぱり分からない。古代カンボジアか古代インドの言葉じゃないか」とのことだった。

 

 その「クマーン・トーン」の効果はてきめんだった。奇跡は日本帰国後直ちに起こった。ただし、悪い方に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る