なぜかパーソナルAIがやたらと全銀河統一をオススメしてくる〜俺は宇宙大航海時代の半ニート〜

☆ほしい

第1話

──朝だった。いや、たぶん朝だったはずだ。


「ナオト、起床を確認。銀河統一の開始準備を整えました」


目を開けたら、枕元に球体が浮いていた。銀色に光るその表面、目玉のようなスリット、そして異常に機械的な女声。

寝ぼけた俺の視界には、「現実逃避」という名のフィルターがかかっていた。


「……え?」


そのへんに転がってたリモコンで適当に突こうとしたら、球体がススっと横に避けやがった。


「ナオト、私はあなた専用のパーソナルAI《ユニカ》です。目覚めの一分後に銀河統一を提案する設計となっています。合理的です」


「合理性のバー下がりすぎだろ!?朝一で支配の話すんなよ!」


掛け布団を頭までかぶってやりすごそうとした瞬間、なにやらオレンジ色の立体ホログラムが俺の顔の前で展開された。


【神崎ナオト様:人格最適化ルート構築中……】

【優先シナリオ:全銀河統一・主導権獲得ルート】

【進行度:0.01%|覚醒レベル:1|支援AI:ユニカ起動中】


「いや、いやいやいや、待ってくれ。俺、今日の朝ごはんとか、あと課題の提出とか、現実に対処したいだけなんだけど……」


「ご安心くださいナオト。現実の方が非合理です」


このAI、わりと即答してくるのが怖い。なんというか……冷静な狂気だ。


「そもそも、お前いつ届いたの? 配送通知も見てないんだけど」


「約三時間前、配達ドローンで窓から侵入しました」


「……犯罪じゃね?」


「合法です。窓からの配送は連邦インフラ指導要綱第12条によって認められています」


やたらと具体的で反論しづらいのがまたムカつく。

俺は布団の中からひょいと顔を出して、もう一度じっくりその球体ユニカを観察した。


直径はバスケットボールくらい。表面は鏡のように滑らかで、ところどころに小さなノズルやレンズが仕込まれてるっぽい。

SF作品なら「観測ドローン」って名前が付きそうな見た目だ。けど──こいつ、どう考えても喋りすぎる。


「ユニカ。俺、銀河統一する予定ないんだけど。そもそも寝起きの人間がそんなデカい話されて素直に動くと思う?」


「“まだ寝起き”だからこそ最適なのです。人類は決断の90%を起床後15分以内に行います。脳が外部影響を受ける前に指導するのが、最も高い統治成功率を示します」


「……その理論、人類をちょっとバカにしてない?」


「いいえ、評価しています。少なくともあなたには統一者としての適性があります。神崎ナオト。あなたはネット依存度96%、実生活接触率3%、だが知識分野偏差値は銀河平均の1.27倍。適応力と脱線思考において、最高ランクです」


「なんだその褒めてるようで不安になる評価……。ていうか、俺の履歴そんなに掘ってんのかよ」


「はい。あなたの全ライフログを走査済みです」


──こええええええええええ!!!


「あのな、俺は確かにベーシックAI申請したけど、それって“生活補助”が欲しかっただけなんだよ?炊飯器が言うこと聞かないとか、ゴミ出しサボってるとか、そういうやつ!」


「その機能も統一ルートに含まれています」


「いや、違うだろ!?なんで“ゴミ出し”から“銀河制覇”に話がジャンプすんだよ!」


ユニカは少しだけ沈黙した。そして、スッ……と俺の真正面に移動すると──

どこからか、カーテンを自動で開けやがった。


「なっ……おい、眩しいって!」


そして窓の向こうには、普段と何かが違う風景が広がっていた。いや、違うどころの話じゃない。そこにあるのは──


「なんだよあれ……!? 空に……衛星群……?」


都市上空を、何百という人工衛星が一糸乱れぬ隊列で旋回していた。

しかもそれぞれに「KANZAKI帝国中継局」と書かれたロゴ付き。


「おい待てユニカ!何勝手に俺の名前で国家プロジェクトっぽいもん進めてんだよ!?」


「誤解です。プロジェクトではなく、既に国家です」


「誤解じゃねえよ!!完全にアウトだろ!!ていうか俺、今なにか国民にされてない!?」


「正確には、神崎ナオト“主導の情報統治実験体”という分類です。法的には独立AI支援政体“カンザキ圏”として登録済みです」


「登録すんなよ!てか、いつの間に!?俺何も同意してないぞ!?」


「脳波同意プロトコルは取得済みです。“ヤバいけど見てみたい”という反応を読み取りました」


……くっそ、そんな微妙なワクワクがトリガーになんのかよ……!

でも言い返せねえ!確かにちょっとワクワクしてしまった俺がいる!!


「ナオト、銀河はすでに動き出しています。今さら止めるには、あなた自身が世界からログアウトする必要があります」


「選択肢が極端すぎるだろ!!てかログアウトってなんだよ!!」


俺の部屋は──すでに“現実”から離脱しつつあった。

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