勉強会!?
「ほ、本当に今週末・・・湊くんが家に来るんだよね・・?」
気持ちが落ち着いた私は自分の部屋を片付け始める。シーリングワックスでスタンプを作るとかラジオを聞くようなおしゃれな趣味はないから、しっかりキレイにしなくちゃ!!お母さんに湊くんを家に呼びたいと言ったらすごく歓迎してくれたし、あとは私がしっかりしなくては! いらないプリントを捨てたり、本棚を整えたり、私の部屋は少しずつきれいになっていった。
そして、学校。いつもの場所でのお昼。最近は湊くんと一緒にいることが多かったから、大河と話すのは久々のような気がする。大河とくるみちゃんといるのがいつもの流れだったのに、変な感じ。
「ほのか、最近なんかあった?おかしいぞ。」
「お、お、お、お、お、おーかしくなんてないよ、大河!ほら、いつも通り。」
「分かってるんだ。なんかおしゃれな格好して出歩いてたもんなー!ほのかに彼氏でもできたのか?って古坂と話してたんだぜ。」
「もう、お昼休憩も図書室へ行くと言って私たちを避けていましたし・・心配でしたのよ。」
「別に、二人を嫌いになったとかじゃないから・・。そ、その、勉強を教わってたんだ。湊くんに・・。」
「ええええええええええええええええええええ!!!???」
大河とくるみちゃんが想像を超える大きな声で叫ぶ。
「い、いなほちゃんが・・お、勉強・・・?」
「湊に勉強教わった・・?湊がほのかに勉強・・・?」
「なんということでしょう!あれほどお勉強が嫌いとおっしゃっていて、私の家で勉強会をしましょうとお誘いをしてもお断りしていたいなほちゃんが!!!お勉強ですって!!それは聞き捨てなりませんわ・・。」
くるみちゃんが大河の肩をぽかぽかと叩き続けている。
「お、お勉強頑張ってみようかなーって思っただけだよ!」
「いけませんわ・・。いなほちゃんに教えるのが一番上手なのは私なのですから!!世界史に限らず、社会系は私を頼ってくださいな!!瀬名くんよりは教えられますから!!」
くるみちゃんが「そうですわ!」と目を輝かせて言う。
「私たちも行きますわ!いなほちゃんの家に!!」
大河が「はあ???」とくるみちゃんを見て驚きを隠せずにいる。
「いいでしょう、誰がいなほちゃんにうまく勉強を教えられるか決着をつけましょう。次回の小テストで誰が教えた科目がいなほちゃんの点数が高かったか!勝負ですわ!」
「あ、いや・・俺勉強そんなに得意じゃないし、湊に教えてもらえるんだったら教えてもらおうかなー・・って思ってて。だから勝負するんだったら、湊と小坂でどうぞ・・。」
「大河さん、何を弱気になっているんですの!!強気でなくては!」
なんだか、くるみちゃんがいつもよりも強気だ。くるみちゃんが社会系の科目が得意なのは確かだし、湊くんよりうまく教えられるという自信やプライドがあるのかもしれない。
「えーっと・・。勝負ってどういうこと?湊くんとくるみちゃんが私に勉強を教えて、小テストの結果がどうだったかで勝負するの・・?点数を見せるのはさすがに恥ずかしいよ・・。」
「恥もなにもありませんわ!瀬名くんに先を越されたことがとっても悔しいのですわ。この悔しさを晴らさなければ・・何より、いなほちゃんの近くにいたのに、勉強も教えられないなんて、情けない限りですわ。社会系は!私が!教えますので!!瀬名くんにもお伝えくださいな!」
くるみちゃんが直接伝えればいいのにと言ったら、ライバル同士が直接顔合わせするものではないので!と断られてしまった。天文部と文学部が直接会えるのは、登校、昼休み、下校・・それから湊くんは弓道部だから部活動の見学申込書を書けば会える・・けれど、タイミングが少なすぎるよ!湊くんの周りに集まってる人がいること、知ってるよね!!
「ええ、知ってますわ!だからいなほちゃんに頼んでいますの!」
考えていたことが私の顔に出ていたようで、くるみちゃんにはお見通しだった。あっという間に昼休みが終わってしまった。私は湊くんに話しかけるタイミングをどうするか考えていた。家に集まるのは今週末。早くこの状況を湊くんに伝えなくては。勉強のことより週末のことを考えてしまって、ボーっとしてしまう。十蟹先生に名指しされても私は気づかず、上の空。そんな様子を見て十蟹先生は「あんなふうにならないように、ピース。」とみんなの前でVサインをしていた・・とあとで大河から聞いた。放課後、くるみちゃんや大河と帰るのも気まずいので、図書室に身を潜めていた。そうしていれば部活動の時間が終わって、湊くんにも会えるよね。・・・あれ?あれはくるみちゃんと十蟹先生だ。何を話しているんだろう。申し訳ないけれど耳を傾けてみる。
「・・小坂さん。あなたは、月華さんをいじめた犯人を知っていますね?ピース。」
「ええっと、なんのことでしょうか・・。」
「隠しても無駄なのです。ピース。私は分かっていますからね。それじゃ気をつけて帰ってね。ピース。」
くるみちゃんは、はあとため息をついて、そのまま帰っていった。え・・?くるみちゃんが月華先輩をいじめた犯人を知っているってどういうこと?くるみちゃん本人は入学前に月華先輩と会ってないだろうからいじめの犯人ということはないと思うけれど。いじめの犯人とくるみちゃんが仲良しとか?もし、くるみちゃんがなにか知っているとしたら。星座の力を持っている人のことを知っていて、私たちに隠している、ということになる。考えているうちに、部活動終了のチャイムが鳴り響く。私は図書室を後にして、校門の前で湊くんを待つことにした。しばらくして、湊くんの取り巻きの声が聞こえてきた。湊くんがいる!!湊くんがいると分かるとホッとした。問題は取り巻きの人たちから離れて湊くんに声をかけなければいけないこと。なんとなく。なんとなくだけど、走った先で湊くんと話せる気がする。私は校門の前から一気に駆け抜ける。すると、後ろから誰かが走っている気配を感じた。
「い、稲荷さん・・。急に走り出すからびっくりしたよ。」
私は思わず、湊くん!と嬉しくなって叫んでしまった。
「近くにいたから声をかけようと思ったんだ。そうしたら急に走っちゃうんだもの。周りにいる人なんて気にしなくていいのに。」
「あはは・・。それでも湊くんを気にして集まってる人たちの邪魔はできないよ。ところで湊くん。今度の勉強会、大河とくるみちゃんも一緒でだいじょうぶ・・?しかもくるみちゃんが、湊くんとくるみちゃんでどっちの教え方がうまいか勝負だー!なんて言うんだよ。」
「全然大丈夫だよ。みんないっしょのほうが楽しいし。・・へえ、小坂さんも頭いいんだ。いい勝負になりそう。」
湊くん、くるみちゃんについて触れているときなんだか・・気のせいだよね。
「あのさ、湊くん。くるみちゃんが月華先輩をいじめた犯人を知ってるかもしれないんだ。」
「・・・知っていても、知らなくても、いずれ僕たちで解き明かすこと。小坂さんに直接聞くのはやめておこう。聞くことで小坂さんを傷つけたり、喧嘩しても嫌だろう?それに話したくなったら、小坂さんが話してくれるさ。」
「う、うん!そうだね。私もくるみちゃんを傷つけたり、くるみちゃんと喧嘩するのは嫌だよ。ありがとう。聞いてくれてスッキリしたよ!」
湊くんは、どういたしましてと優しく微笑む。他愛のない話をしながら進むとあっという間に分かれ道だ。湊くんと話していると優しい気持ちになれるし、楽しくなる。そこに大河とくるみちゃんも混ざるから、にぎやかになりそう!なにより、湊くんんが大河とくるみちゃんがいても大丈夫って言ってくれたのが嬉しかった。最初は湊くんとふたりきりの勉強会だったから、そこに誰か入ったら迷惑だったかな?って思ってたんだ。早く土曜日にならないかな。
星空の解放日 麦星すばる @stardustbakery
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