第57話 パーティのあと

学園でのハンナの立場は、そのパーティ以来、大きく変わった。


ハンナに向かって、なぜあなたがご学友に選ばれたのかわからないわ、と言っていた伯爵家の令嬢たちは出来るだけハンナと顔を合わせないようになった。


ハンナも喜んだ。面倒くさいからだ。


その代わり、陰で悪口を言われた。


「あんなに派手にパーティをして、よい親戚やお金があることを披露して歩いたら、敷居が高くなってしまうわ。キャンベル侯爵家でも釣り合わないくらいよね。適当な家のご子息がいないじゃない。結婚できないわ」


リリアンとマチルダは、委縮してしまった。


「私たちには及びもつかない立派な家だったのね」


「ええと、その、あの……」


これは実はハンナも悪かった。


だって、ハンナも、田舎の実家の家の近くにそびえる大城館が自分の家の本邸だと言うことを知らなかったのだ。


それから王都の一等地に建つすごい屋敷が自分の家だってことも知らなかった。


わかっていたら、それなりにリリアンとマチルダに注意しなくてはいけなかったかもしれない。

ハンナは考えた。いや、多分しなかっただろう。


ハンナは地味なドレスばかりを着ていたが、これは、目立ちたくなかったからだ。

なぜなのかというと。


例の、ハンナに文句を言いに来た伯爵令嬢たちは、すごい勢いでお互い同士競い合っていた。

ドレスも、参加するパーティの格も、競い合っていた。


「あれを見ていると疲れるわ」


リリアンとマチルダも、実は同感だった。だから三人は友達なのだろう。


「面白いと言えば面白いかもしれないけど……巻き込まれたくないものね」


社交界は広い。狭いようで広い。


「あなたのおうちは、古い昔からの貴族の家系なのに、商売で大成功しているわよね」


マチルダがあきらめたような調子で言った。


「いわば、全部勝ちよね」


せめぎ合う旧貴族と新興の金持ちたちのはざまで、どちらでも通用する癖に、面倒くさいからという理由と、お金と地位に関心がないからという理由で、ありえないくらい地味に振る舞っていたハンナ。


「でも、自分から説明してくれなかったら、わかってもらいにくいわよね」


「私達だって、よくわかっていなかったもの」


「私もあんまりわかっていなかったので」


ハンナが弁解した。


学園に入学しようかという時、母は言った。


「目立っていい場合と、目立たない方がいい場合があるわ。学園に行っているときは、目立たない方がいいと思うわ」


「どうしてですの?」


「だって、あなたはおとなしいのですもの。学園は社交界の前哨戦みたいな場所よ。どうしたって、派手に見せかけたがったり、派閥を作ったり、面倒なことになることだってありますもの」


「そうとも、ハンナ」


父も加わった。


「たくさんの人たちの間に混ざって暮らすことって、楽しいかもしれないけど、嫌なこともあるかもしれないでしょ? ほら、意地悪な人もいるかもしれないから」


ハンナはその時素直にうなずいた。そうかもしれない。


「でね、嫌なことがあったら、どんどん僕たちに知らせて。僕たちは、ハンナを助けることが出来るからね。だって、僕は大商人でお金持ちだし、古い貴族の家柄なんだから」


大金持ちと言われても、あんまりぴんと来ていなかった。


今ならわかる。

あのパーティの後で、思い知った。ハンナの家は古い貴族の家柄で、大金持ちだった。

ほとんどの公爵家や高位貴族と縁続きだったし、大邸宅を幾つも所有していた。そのうえ、数多い大貴族から両親は好意を持たれていた。


だけど、一つだけとても不思議なことがあった。


ハンナには、困ったことが起きてしまった。ジョージが婚約破棄をハンナの有責でたくらんだことが分かった時だ。


ハンナは何回も両親に手紙を書いていた。なのに助けてくれなかった。

今頃やってきて、それはそれは派手に力を誇示してくれたけど、もっと前に来てくれたらよかったのに、どうして今なのだろう。手紙は少なくとも数か月前には届いているはずだ。








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セクハラ護衛騎士と婚約者の観察日記 buchi @buchi_07

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