第16話 派手に変装する

デートは一週間後だった。


もちろん、この話はアレクサンドラ殿下とフィリップ殿下に伝えられた。


アレクサンドラ殿下は、おなかを抱えて笑い出した。そして絶対に機嫌を悪くすると思われたフィリップ殿下だが、アレクサンドラ殿下は彼は絶対に賛成すると保証した。


「そうねえ。私もハンナの格好は地味過ぎると思っていたの。だけど、今回はそれをうまく利用できそうね」


ハンナは困惑した。派手にすれば別人になれるとでも? 魔法使いではあるまいし、どうやったらいいのだろう。


こういう時はドレスメーカーだ。


ハンナは思い出して、母のお気に入り店のリストを引っ張り出してきた。

確か最初に持ってきたトランクの底に眠っているはずだった。


「来たわよー」


リリアンとマチルダがハンナの部屋に入ってきた。


「あらあ。これが伯爵家ご用達のお店の一覧?」


二人は、楽しそうに一覧に目を通したが、やがて黙り込んだ。ハンナは不安になって聞いた。


「あのう、何か不都合でも?」


変なお店なのかしら? 全店、ツケが効くそうなのだけれど。


「あら、いいえ。じゃなくて、これ、とんでもないすごいリストだなって思って。なかなか出入りできない店がいっぱい載ってるわ。さすがハミルトン家ね」


マチルダがため息をついた。


「今は富豪としての方が有名かもしれないけど……さすがに十二代前まで遡れる名家だけあるわね。最近、あなたのお父様が大活躍し過ぎていて、みんなハミルトン家は商人みたいな錯覚に陥っているけど、もとはと言えば帯剣貴族の家柄ですものね」


「うちなんかでは、出入りできない店ばかりよ」


リリアンもため息をついた。


そういうのって、あるのか。ハンナはびっくりしたが、それよりも今は、差し迫った別の問題がある。


「でも、何をどう頼めばいいかわからないの」


しかし救いの手は思わぬところから現れた。


なんとなくムスッとした感じがするパース公爵夫人がこの話に登場したのだ。

彼女は有無を言わせず、ハンナがまるきりその存在を知らなかった食堂の脇にある小部屋に連れ込んだ。


「話を通しておきました」


「話? 何の話でございましょう?」


パース公爵夫人と差し向いに座らされて、ハンナは緊張しながら尋ねた。

食堂のそばにこんな場所があるとは知らなかった。目立たない入り口から入れる王室の方専用の小部屋があったのである。結構、豪華な部屋だ。


「ここは殿下方が喧噪けんそうを避けて、静かにお食事をなさるためのお部屋ですわ」


ハンナがこっそり辺りを見回している様子を見て、パース公爵夫人は簡潔に説明した。


「あなたには、豪華で派手な格好が必要だそうですね」


「はい。私では役不足かと思うのですが、ヒルダ嬢とキャンベル様の動きは不穏な気がして……」


パース公爵夫人がため息をついた。


「そうですわねえ。大したことではないと思うのですが、ヒルダ嬢のご実家は聞き分けがないので有名ですからね」


そうなのか。

ヒルダ嬢は人の話を聞かないタイプだなあとハンナは密かに思っていたので、なんとなく納得した。


「それであの、カフェ・ブールヴァールですけど」


パース公爵夫人が奥歯にものが挟まったような調子で付け加えた。


「まあ、控え目にね」


「はあ? もちろんでございます」


ハンナは目を丸くした。いつも命令口調なパース公爵夫人にしてはハッキリしない口の利き方だ。


「しっかりヒルダ嬢とキャンベル様の話を聞いてまいります」


「ええ。まあ、それはもちろんなのだけど」


「他に何か?」


パース公爵夫人は、ハンナの顔をじろじろ見ていたが、ため息をつくと、頑張りなさいと一言言って消えた。


「なんなのかしら?」


ハンナは不安を掻き立てられた。

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