第5話 トンプソン先生の呼び出し

その数日後、ハンナはトンプソン先生に呼び出された。


「なにかしら?」


ジョージとの婚約問題以外、ハンナは平穏だった。まあ、ジョージの手紙は個人的な問題だし。


だが、それは、ハンナたち以外はあまり平穏ではなかったと言う意味でもある。


まず、女子生徒に関して言えば、ハンナの家以外に伯爵家は二人いた。


「ダリア様のところはそこそこ貧乏で、バイオレット様のところはとことん貧乏だそうよ?」


リリアンがささやいた。


貧乏にもランキング?


「ランキングはどうでもいいのよ。問題はその二人がそれぞれ派閥を組んで、覇権争いをしていることなの」


「多少、知ってはいるけど……」


「それで、あなたがその他大勢の筆頭なのよね」


覇権争いに巻き込まれたくない生徒は結構いる。


しかし、面倒くさいことに、こうやって見事に二分されてしまうと、どちらかに与しなくてはならなくなる。


うわあ……。面倒くさい。


「伯爵家の娘は、もう一人いるわ」


うん。知ってる。私のことね。


「そこであなたの出番ってわけ」


「公爵令嬢のヒルダ様がいるじゃない」


ヒルダ嬢は、身分こそ高いが、全く使い物にならないそうだった。


「察しが悪いし、お高く留まっているだけらしいわ。圏外よ」


「でも、私だって派閥闘争とか、どうでもいいので」


「ハンナ、あなたの言うことを聞いていたら、世の中すべてどうでもよくなってしまうわ。いいこと? ダリア様の家は五代前に叙爵しているわ」


マチルダが詰め寄ってきた。


「そんなこと調べたの?」


「もちろんよ。バイオレット様のところは先々代が養子縁組で継いだの。七代前まで遡れるのが自慢なの」


「それ、どうでもよくない?」


「ハンナ、あなたのところは、十二代前まで遡れるわ」


ハンナはあいまいに手を振った。


「その話、一体何の意味があるのかしら?」


「おおありなのよ。あの二人はどちらが由緒ある家かでもめているの」


ハンナは目をしょぼしょぼさせた。


「マチルダ、わかっていると思うけど、家が古いなんて何の意味もありませんからね。そんなことより、今の世の中、お金があるかどうかの方が大事だと思うわ」


ダントツに家が古いハンナは言った。系譜自慢の貴族は多いが、彼女の父はそんなもの歯牙にもかけなかった。


「多分、違うわ。お金を稼げるかどうかが問題だと思うの」


マチルダは少し訂正してきた。まあ、ハンナはその点に関しては異議はない。


「そうね。お金を稼ぐ能力の方が大事だと思う」


「でも、そんなことでもめていたら、先生はうっとうしがると思うの」


「先生、がんばれ」


ハンナは応援してみた。しかしマチルダは首を振って否定してきた。


「手が出せないだろうと思うの。先日、ダリア様の取り巻きがバイオレット様の取り巻きの足を踏んでしまったじゃないの」


「そうね」


別にケガをしたとかそんな話ではない。だが、大げさに悲鳴を上げて大騒ぎになった。


「騒ぎに巻き込まれたくない令嬢方がハンナの庇護を求めて続々とやってきているじゃないの」


急に話しかけてくる令嬢がやたらに増えたのは、その事件以来だ。


「先生も生徒の中で収めて欲しいのではないかしら?」


「そんなこと、先生は介入しないと思うんだけど」


それにハンナに何ができると言うのだ。


だけど、呼び出しがかかったと言うことは、本当にそうなのかもしれない。

本当に渋々、ハンナはトンプソン先生のところへ行った。


しかし、待ち受けていたのは意外な話だった。

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