第2話 準決勝ドイツ戦


 主審の笛が吹かれた。


 日本はMF(ミッドフィールダー)FW(フォワード)間の小刻みなパス回しとDF(ディフェンダ―)への戻しを素早く行いながら、引いて守るドイツ陣内へ徐々に詰めていく。


(あれは……まさか)


 日本の高身長のGK(ゴールキーパー)がいきなり前線に走り始めた。そして最後尾CB(センターバック)の位置に足の速いMFの選手が残った。セットプレーでもないのにパワープレーをしようというのである。


 観客がどよめいた。しゅうも観客も目を疑った。


 それからは異様な試合展開となった。一度はドイツの超ロングシュートが無人の日本ゴールを襲ったが、この試合MFに入っていた俊足の風間が辛くも戻ってクリアした。


 日本はサイドからのロングフィードを中央にいる味方GKとCBに放り込む。しかしドイツGKのシューマッハが立ちはだかり、ことごとく非常に高い位置でキャッチして日本のシュートを許さない。


 後半十二分、日本にようやくチャンスが巡って来た。


 シューマッハのロングスローイングからドイツがカウンターを仕掛けるとドイツのバックラインが久々に上がった。


 入谷いりや明日香あすかは遅れて引いてくると、まるで忍者の様にススーッと相手のMFに後ろから忍び寄り、スライディングでボールを奪った。そのルーズボールはFWじん圭人けいとの足元へ。明日香はすぐに立ち上がると、相手陣地に走った。


 圭人が長い縦パスをオフサイドぎりぎりで左サイドに出す。明日香が向かっている方向だ。しかしかなり速いパスだった。


 一斉にドイツのDFとMFが明日香を追う。カウンターに対処するため下がっていた日本の選手は遅れて上がる。


「だめだ、届かない。仮に届いても孤立してしまう」


 明日香は脚の痛さを感じさせないような動きで俊足を飛ばして、左サイド奥ゴールラインぎりぎりでボールを止めた。


 しかし、そこにドイツ選手二人がきっちり抑え込みに来た。折り返そうにも、味方はまだ上がってこないし、屈強なドイツ選手に付かれ、そもそも振り向くことさえできない。


「あー、潰される」


 柊がそう思った時、明日香がつま先でボールをひょいと浮かし、自分の頭越しにボールをけり上げた。そのまま体をひねって反転すると大男の間をすり抜ける。


 男は明日香のユニフォームを掴もうとしたが、明日香は身をよじってかわした。

 

「上手い!」


 柊は思わず叫んだ。

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