夢のフィールド
☃️三杉 令
第一章 セーシェル
第1話 柊4年前の記憶
飛行機内で夢を見た。
それは4年前の記憶だった――
『1対1、1対1です。日本ついに追いつきました。延長後半7分。起死回生のゴールです!』
割れんばかりの大声援の中、アナウンサーが絶叫を繰り返している。
2034年FIFAワールドカップサウジアラビア大会、ワールドカップで初めてベスト4まで勝ち抜いた日本は準決勝でドイツと対戦した。
(ドイツのGKは守護神ゲルハルト・シューマッハ、身長205cm。鉄壁の守備でゴールを死守する守り神だ。しかし対する日本だって強力なバックス陣をそろえているさ。ほら見て見なよ、前後半90分どちらも得点を奪う事ができなかった!)
✧ ✧ ✧
0対0からの延長戦、選手を大幅に入れ替えたドイツは延長前半5分に、見事なサイド攻撃から均衡を破る先制ゴールを奪った。流れるゲームの様子とともにアナウンサーの実況が聞こえる。
『日本ついに優勝候補のドイツに先制を許してしまいました。延長前半5分。追いつくことはできるでしょうか!?』
その後ドイツは珍しく全員が引いて守る守備体形を取った。個々の体格も体力も技術も高いドイツ選手が引いて守った場合、ゴールをこじ開けるのは非常に難しい。案の定、日本はシュートを打つことすらできずに延長前半を無得点で終えた……
「あのドイツの硬い守り、イタリアよりえぐいな!」
後が無い日本は延長後半に熱望された選手交代を行った。
それは切り札だった。
準々決勝までの試合で怪我が重なり、出場が絶望的となっていた
「無理だ、明日香を出すなんて……足首、膝を負傷している上に、疲労が濃すぎる。シュートはおろか、まともに走る事さえできない状態なのに……」
柊(しゅう)の心配はよそに、明日香が救世主となることを期待して熱狂的な観客の声援が飛ぶ。敵味方なくスタンドのボルテージは最高潮になる。
明日香は両脚をテーピングでがんじがらめに巻き、痛々しい姿でピッチに上がった。フォワードのポジション。他の試合でもそうだったがドイツ選手に交じると身長160cm、体重52kgの明日香は屈強な大人に混じる小さな子供に見えた。
明日香は何人かの選手に駆け寄り耳打ちをした。戦術の説明だろう。残り十五分で何としてでも同点に追いつかねばならない。ドイツの硬い守備をくずしてゴールを割らないと決勝に進む道は閉ざされるのだ。
そして例によってハンドサインだ。明日香が世界で初めて編み出した手話の様なピッチ上での複雑な司令。SLS(サイン ランゲージ フォー サッカー)とも呼ばれる。
今や明日香は動く第二の監督である。味方全員が明日香の手の動きを注視する。サインは敵に随時解読されるので、明日香はキーを巧みに変えて、相手を混乱させる。未来のサッカーには情報戦が加わっている。
(明日香、何か手はあるのか……?)
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毎朝5時に更新します。
どんな読み方でも歓迎しますので、お気軽にお楽しみください😊
エッセイで少し解説や思い出を語っていますのでよろしければどうぞ😊
https://kakuyomu.jp/works/16818622175439001940
ちなみにSLSはこの作品での造語です。使うのは本話だけ(笑)
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