第15話 真の魔王

 シレーヌのバリアの中、安全が確保できたと安心した瞬間、辺りがさらに暗くなったような錯覚に襲われる。


「なんだ・・・?」


 暗闇が集まり、人の形を取る。その姿には、見覚えがある。


「アシュ・・・レイ?」

「久しぶり・・・といえばいいのかな? だけど僕は、いつも君の中に居たんだよ。君たちがドラゴンゾンビを倒してくれたおかげで、こうしてまた元の姿を得ることができたんだ」

「アシュレイ・・・本当にアシュレイなの? 勇者に倒されたんじゃ・・・」

「ああ、そうだね。僕は予知の魔法で自分が勇者に倒せる事を知っていた。未来は簡単には変えられない。だから僕は、大人しく勇者に倒される事にしたんだ。ただ、その前に力のほとんどを水晶として残してね。だから、勇者が倒したのは僕の抜け殻のようなものにすぎないよ」

「よかった。これからまた一緒に暮らせるんだよね?」

「アシュレイ、離れて!」

「闇よ、貫け」


 シレーヌが私を突き飛ばす。一瞬遅れて私とシレーヌの間を黒い針が通り抜ける。


「アシュレイ、何をするの・・・?」

「僕の力を返してもらおうかと思ってね。君に渡した力は、君に根付いてしまったようなんだ。だから、引きはがさなければ僕の物にならないみたいでね。死体からの方が抜きやすいんだけど、仕方ないかな」

「ぐうぅっ!」


 アシュレイが私の方に手を向けると、私の心臓が痛む。


「やめて! 私の中から、何かが失われていくの!」

「それが僕の力だよ。君が育ててくれた、ね。けど、君の生命力も一緒に抜かせてもらう」

「かはっ!?」


 私の心臓の鼓動が止まるのが分かった。私から抜け出た水晶は、アシュレイに向かって飛んでいく。意識はまだあるけど、目の前が暗くなってきた。


「アシュレイ! アシュレイ! 女神の慈愛よ! 彼の者を蘇生したまえ! リザレクション!」


 閉じたまぶた越しに、強い光が見える。どうやら、シレーヌが私に蘇生魔法を使ったようだ。どれだけ魔力を使うのか分からないけど、大丈夫なのか。


「くっくっくっ。まさか聖女が一緒とはね。それも、今の魔法でほとんど魔力を使いきったのかな? 無防備だね。聖女を殺すと、またどこかで聖女が生まれてしまうんだけど、殺せるときに殺しておいた方がいいよね? ―――闇よ、包め」

「アシュ―――」


 うっすらとまぶたを開けた私の目に、手を伸ばすシレーヌの姿が見えた。そして、その姿が暗闇に包まれるのも。

 しばらくして、闇が晴れた時にはシレーヌの姿はどこにもなかった。


「君はもう無力だ。せっかく聖女が生き返らせてくれたみたいだから、生かしておいてあげるよ。まあ、この森で生きていられたらの話だけど。さて、聖女が生まれないうちに勇者の方も殺しておくか。―――風よ」


 アシュレイは、一瞬で空を飛ぶと街の方へと向かった。


「・・・お、追いかけないと・・・」


 私に何が出来るか分からないけど、せめて勇者に伝えなければならないと思った。けど、今の私はもう魔法も使えないただの小娘だ。空を飛ぶことも、魔道具を作り出す事も出来ない。

 視界に、割れた浮遊板が見える。もう、直す事は出来ないけどまだ使えるなら―――。


「うご、けー!」


 私は、半分になった浮遊板を起動する。浮遊板は動いたけれど、制御が効かずめちゃくちゃに飛ぶ。


「うわわわわっ!」


 本来、地面から少しだけ浮くだけだったものが、木よりも高く飛ぶ。早さの調整も出来ない。けど、なんとか街の方向へ向けて飛ぶ。街に着ければなんだっていい。


 しがみつくのもやっとの状態で、街の城壁が見えてきた。そして、その瞬間街の中から巨大な火柱が上がる。


「間に合わなかったの?」


 止まらない浮遊板を地面の方へ向け、それでも街の近くに墜落する事が出来た。すでに街から逃げ出す人たちがいた。


「魔王が復活した! 勇者様もやられてしまった! もう終わりだ!」


 そう叫ぶ街の住人がいた。私は、呆然とするしかなかった。街が燃えるのをただ見上げるしか無い。私は、無力だ。


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