第14話 寝ぼけシレーヌ

 目を開けると、辺りは暗かった。同時に、自分の置かれた状況を思い出し、すぐに起きる。


「ドラゴンゾンビは!」


 幸い、目に入る範囲にはドラゴンゾンビの姿は見当たらない。ただ、すぐに隠れるべきだと思い、木の後ろに行こうとして何かにぶつかる。


「痛っ、何だ? って、シレーヌのバリアか。・・・バリアが通り抜けられない?」


 自由に出入り出来たはずのバリアが、今は壁のようにしっかりとした手ごたえで僕の行く手を遮る。すぐに元凶であるシレーヌを探し、すぐ近くに倒れていることを確認した。


「シレーヌ!」


 バリアがまだ発動しているので、死んではいないだろう。実際、すごく幸せそうな顔で寝ている。


「おい、起きろ! 逃げるぞ!」

「ドラゴンを倒したよー。これで安全だー。むにゃむにゃ」


 シレーヌはどうやら夢の中でドラゴンを倒したらしい。


「だからどうした! くそっ、起きないならせめて周りの気配だけでも探っておくか」


 精神集中し、辺りの気配を探る。幸い、ドラゴンゾンビの気配も、他の魔物の気配も、動物の気配もしない。あれだけの戦闘があれば、大抵の生き物は逃げるか。


「ドラゴンが戻ってくる前に、起きろよ!」


 僕はシレーヌのせいで魔法が使えないため、今はただの少女でしかない。何とかシレーヌを起こさないと、命の危機だ。


「起きないと、服を脱がせて全裸にするぞ!」

「スピー、スピー」


 ここは森の奥で、例え裸になったとしても誰も見ないだろう。さらに、シレーヌは僕が女だと知っているから、同性に見られてもいいやって思ってそうだ。なら、別の手だ。僕は鞄から魔道具を取り出す。以前は魔法なんて使えなかった為、ある程度日常生活に使う魔道具も持っている。魔道具には、本人の魔力を使うものと、魔石を使用するものがあり、僕が使っていたのは魔石を使うものだ。以前の僕は、魔力量が少なかったからな。そして、この魔道具は料理の時に種火をつけるためのものだ。鞄に入っていた料理に匂いをつけるための香草に火をつける。


「早く起きないと、ご飯が無くなるぞ?」

「ご飯! 私のご飯はどこ!?」


 ・・・シレーヌは一瞬で起きた。さっき、どれだけ体を揺さぶっても起きなかったくせに。


「って、まだ暗いじゃない。見た所、いい匂いだけでご飯も無いし。朝になったら起こしてね」

「馬鹿かお前は! 今がどういう状況か忘れたのか? 早く逃げるぞ!」

「え? 敵襲?」

「まだ寝ぼけているのか? さっきまで、ドラゴンが居ただろう?」

「ああ、それなら私が倒したよ。一生懸命お祈りしたら、ぶわーっと光が溢れて、光が消えた時にはドラゴンも居なくなってたよ」

「まさか、浄化魔法か?」


 浄化魔法は、神官などが使える魔法だ。アンデッドやゴーストなどにものすごく効果がある代わりに、生きている者には全く影響がない魔法だ。聖女なら、使えてもおかしくないのか? だとしても、他の魔物の事もあるからもう少し安全な場所へ移動したい。


「とりあえず、僕をここから出せ。このバリアを――」


 僕がバリアに手を当てようとして、素通りした。危うく倒れかけたが、何とか踏みとどまる。もしかして、シレーヌが寝ている時は何者も通さないバリアで、起きたら出入り自由なのか? とりあえず、僕はシレーヌに確認する。


「浮遊板はどうした? 早くこの森から出るぞ」

「あー。ごめんなさい。ドラゴンに向かってぶつけちゃった」


 シレーヌが指さした方向を見ると、真っ二つに割れた浮遊板が落ちている。これは、すぐに修理する事が出来なさそうだ。


「・・・じゃあ、もう少し安全そうな場所まで移動するぞ。お前はこれを使え」


 僕は、シレーヌに魔石使用のランプの魔道具を渡す。この光は、弱い魔物除けにもなるので重宝しているやつだ。僕自身は、シレーヌから離れさえすれば火魔法で明かりを得られるから今は要らない。


「ねぇ・・・一緒に居てよ」

「一緒に居ると、魔法が使えないだろ」

「私のバリアがあるから大丈夫よ」


 シレーヌは、僕の腕をぎゅっと掴む。こうなったら、シレーヌのバリアを頼りに夜を過ごした方が安全なのか?


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