第12話 ドラゴンゾンビ2

「とりあえず、シレーヌは僕に近づくな!」


 シレーヌが近づくと僕は魔法が使えなくなる。そうなったら完全に詰みだ。シレーヌもそれが分かっているからか、途中で方向転換して離れてくれた。


「やれるだけやってやるさ。炎よ、焼き尽くせ! 氷よ、凍らせろ! 風よ、切裂け! 土よ、貫け!」


 前回同様にドラゴンゾンビに向かって魔法を使う。やはり、燃えも凍りも切り裂けも貫き事も出来なかった。僕が扱える魔法はあと2つ。それで倒せなければ逃げるしかない。だけど、恐らくこの魔法を使えば僕の魔力も切れる。


「・・・雷よ、鳴り響け!」


 ドラゴンゾンビの上空に突如として黒い雲が発生し、そこから雷鳴が轟く。暗くなってきた景色を明るく照らし、ドラゴンゾンビに命中する。


「グギャオォォ!」


 ドラゴンゾンビから、黒い煙が立ち昇る。生きていたころならダメージを与えられたかもしれないが、ゾンビとなった今はこれで致命傷にはならないようだ。


「ダメか。だったら、本当の奥の手だ。・・・闇よ、塗り潰せ」


 ドラゴンゾンビを漆黒が包み込む。あの闇の内部は、超重力によってめちゃくちゃに引っ張られ、体がバラバラになるはずだ。最初に試したときは、命中した魔物がバラバラどころではないほど細かくちぎれ潰れ消滅した。

 魔法の効果時間が過ぎ、漆黒が消える。


「くそっ、これでダメなのか」


 魔力切れでめまいがする中、ドラゴンゾンビの姿を確認して歯噛みする。これでもう、僕には打つ手がない。


「ははっ、逃げる魔力も残ってないや」


 命の危険が迫っている中、僕は何故か笑いが込み上げてきた。僕の人生、ここで終わり。後悔は・・・あるような無いような。勇者への復讐も出来ないまま、か。


「シレーヌ。僕を生き返らせる必要は無いからな。だから、お前は逃げろ」


 巻き込んでしまった聖女・シレーヌに逃げるよう警告する。僕の復讐が叶わない今、シレーヌを殺す必要も無くなった。だから、最後の最後に彼女の逃げるくらいの時間稼ぎをしなければ。


「僕の命を削ってもいい。だから、魔力よ引き出されろ。アアアァァ! 闇よ、隠せ!」


 さすがにもう一度奥の手を使うような魔力は無い。だから、なけなしの魔力でドラゴンゾンビの目隠した。ただ盲目にするだけの魔法だから、それほど魔力は使わないし、持続時間も長い。これで、シレーヌが逃げる時間は――


「効かないだと? あぁ、目が無いもんな、お前」


 最後の最後にもかかわらず、僕の魔法は意味が無かったようだ。僕は本当に魔力が無くなり、立っている力も無くなった。地面へ倒れ込んだ僕の目には、何故か逃げずにこちらに向かってくるシレーヌが見えたのだった。

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