一触即発! ヤコウとベイジュウ!!

【十条アズマ寺】


 ヤマシロノミヤコに点在てんざいする数多あまたの神社仏閣の中で最も古く最も高い五重の塔を有する寺――十条アズマ寺。

 その五重の塔をうれいのある表情で見上げる隻眼の侍――ベイジュウ。

 そんな彼にもう一人の侍――ヤコウが忍び寄る。


「ようやく見つけたぞ。のんびり観光とはいいご身分だな」

「それがしに……何ぞ用でござるか?」

「まあな。色々と聞かせてもらおう」

生憎あいにく貴殿きでんに話すことは何もない」


 取り付く島のないベイジュウにヤコウは邪悪な笑みを浮かべる。


「なに、すぐにその気にさせてみせるさ」


 長刀を抜き放ち構えるヤコウ。

 ベイジュウは一瞥いちべつすると観念したように腰の太刀たちを抜いた。


「……どうあっても引かぬというのであれば致し方なし」


 そして一陣いちじんの風が吹きすさび木の葉舞い散る中、二人の侍は声高こわだかに叫んだ。


「我が名は百刀狩りのベイジュウ。貴殿の腕前……とくと拝見 つかまつる」

「この百鬼憑きのヤコウの剣から逃れる術なし!」


 長刀と太刀とが交わろうとした――刹那せつな


「その勝負待った!」


 二人の間に割り込む一つの影。

 彼はたった一人で左右から迫る二つの刃を防いでみせる。

 その正体は二刀流の侍――ツクモであった。 


「ツクモ殿。御無沙汰ごぶさたでござる」


 ベイジュウはツクモを見てあっさりと太刀を引く。

 その様子をヤコウはいぶかしげに見つめた。

 ベイジュウはトウセンの呪い(ヤコウへ襲い掛かる)を克服していた。

 となれば、ヤコウの支配(ツクモを殺す)も克服していても不思議はない。

 だがそれを抜きにしても幽冥の百鬼である以上、ベイジュウはツクモによって殺されているはずである。

 ところがベイジュウにはツクモを恨んでいる様子はまるでなく、どころか一目を置いているような態度だった。

 ヤコウが二人の関係性をつかめないでいるうちにツクモが口を開いた。


「久しいなベイジュウ。お主も幽冥の百鬼となっていたか。では……やはりハクも」


 ベイジュウが小さくうなづけばツクモの顔に暗い影が差す。


「ツクモ殿もハクとは会えていないようでござるな」

「ああ。だがハクについて気になる話は聞いた。エボシという女が言っていたのだが――」

「やっと見つけたぞ! この食い逃げ犯めっ!!」


 そのとき、この場の深刻さを打ち壊す陽気な声が割って入る。

 ツクモ・ヤコウ・ベイジュウが声のした方へ視線を送れば、緑髪の巫女――ウズメが走ってくるのが見えた。


「な~んちゃって! 私ですよ、私。驚きました?」

「サル女め! 少しは空気を読め!」

「おっ! そこにいるのは先程の眼帯のお侍さんではないですか。あ……そういえば。あなたが探していたハクさんに会いましたよ」


 急に現れたかと思えば衝撃の発言が繰り出され困惑する侍一同。

 特にツクモとベイジュウの動揺は大きく、揃ってウズメに詰め寄り出した。


「まことか!? ハクに会ったというのは!?」

「それでハクは今どこに!?」

「え……えっと、北の端っこにある一条モドリ橋でついさっき別れたところですけど……」


 ウズメから場所を聞き出すや否や一目散に駆け出していくツクモとベイジュウ。


「一体なんなんですかね。ヤコウさんは何か知って――」

「一条モドリ橋だったな」


 その後、間髪かんぱつ入れずにヤコウも飛び出せば、残されたウズメも追いかけざるをえなかった。


「ちょ、ちょっと! また置いてけぼりですか! 待ってくださいってば~!」


                  ⚔


【レンダイノ】


 白い髪の少女――ハクを求めて一条モドリ橋へとやってきたツクモたち。

 だがハクの姿はそこになく、遅れてやってきたウズメに橋を渡って北へ向かったと聞かされる。

 そこで四人はヤマシロノミヤコの北外れ――レンダイノへやってきた。

 ここはヤマシロミヤコにある四つの葬送の地の一つ、北の葬送地である。

 千本にも上るという卒塔婆そとばの根元にはうっすらと雪が積もり一足早い冬の訪れを感じさせた。

 しかしそんな季節の移り変わりに心をせる余裕など今のツクモとベイジュウにはなかった。

 地獄の針の山のように突き刺さる卒塔婆そとばの群れを抜けながら、彼らは必死に周囲を見回す。

 その後ろを事態の飲み込めぬヤコウ・ウズメが続いた。


「ツクモ殿! あれを!!」

「ハクっ!!」


 もはやレンダイノも抜けようかというところまで来てツクモたちの目に飛び込んだ白い髪。

 ツクモの呼びかけに反応して白い髪はくるりとひるがえり、ついにツクモとハクは対面を果たす。

 しかしハクの第一声は何とも常軌じょうきいっするものであった。


「くっくっく! これはこれは……おそろいでようこそ。我の門出かどでを祝いにきてくれたのか?」


 そこにいたのはツクモやベイジュウの知るハクではなかった。

 顔や声は確かにハクそのものだが、その表情や性格は明らかに別物。


「お主……一体何者だ?」


 ツクモの問いにハクの姿をした者は巨大な牙をき出して答えた。


「我こそは地獄の支配者――エンマ大王である」

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