第11話 ここ、出るんすよ
テアシにとっても初めてのユーチューブだ。
めちゃ恐くて、視聴者がわくわくドキドキする特別怖い動画を作って見せよう。
「よし、じゃあ、俺も真剣に取り組むよ。細かい設定を話し合っていこう。アカウントはどうする? 新しく作り直すか?」
「いや、このままでいいだろう。フォロワーが10人はいるのだから、宣伝次第で何とか倍の数にはなりそうだ」
「あ、二人ともせめて知り合いには今夜、ライブ配信することをちゃんと伝えておけよ」
シラトリが言うと、はい、とマナベが真面目にうなずく。
「二人は学生?」
俺が質問をすると、金ちゃんが首を横に振った。
「あ、20歳っす。学校は行ってないっす」
20歳か。テアシが生きていたら、二人くらいの年だったんだろうな。
すると、スズメがうーんと唸りながら腕を組んだ。
「大学でも行っていたら、まだ知り合いも多そうなものだが、この小学校の場所は特定されない方がいいと思う」
「え? なぜですか?」
「廃校は立ち入り禁止だろう。当然、無断で入ることは違法だろう。金ちゃん、顔出しはしているのか」
「あ、してます」
「まあ……そこは仕方ないな。リアリティが欲しいし……。自撮りしながら中へ入ろう。懐中電灯の数とスマホのバッテリーの確認を」
「バッテリーはモバイルバッテリーを常に用意しています。懐中電灯は……」
マナベが床に置きっぱなしにしていた大きなリュックサックの中身をまさぐっている。
「あ、あった! 二つあります。小学校が暗かったらいやだなと思って持って来ていたんだ。よかった」
懐中電灯は割としっかりしていて、マナベはカチカチと明かりの確認をする。LEDヘッドライトまで出てくるのだから大したものだ。
「用意がいいな」
俺が感心すると、金ちゃんが笑った。
「マナベは常に本気っすからね」
「じゃあ、金ちゃんの頭にはヘッドライトを。スマホは自撮りにする。そして、ライブ中継は必ずアーカイブ保存に。後で編集すること。アーカイブ保存の仕方分かるか?」
「あ、時々やってるからできるっす」
「必ず編集して、ちゃんとアップするように」
「了解っす。もしもの時のモバイルWi-Fiルーターも常備してますんで。ばっちりっす」
そこまでしっかりしていて、フォロワー10人か。何だかもっと応援してやりたくなるな。
しかし、心でそう思う裏で実はすごく気になっていることがあった。
あの孫とここを出て行ったスカおじはどうしているだろう。
あの現場はスカおじの孫が殺人を犯してしまった場所だ。今思うとあれは夢だったのじゃないかとすら思えてくる。あれから、殺された奴の仲間が来た様子もないし、警察も来ない。まるで時は止まったままのような気もしてくる。
俺はのどまで出かかっている言葉を何度も呑み込んだ。
床の血痕と人を刺した包丁が出てくるはずだ。
二人のリアクションを想像すると、動画としては最高の取れ高が得られるだろう。これが明るみになれば、絶対に警察は無視することはできない。
というか、通報しないわけにいかない。いや、それよりも、あの遺体はどうなったのだろう……。
「ウキン……。ウキン!」
俺はハッとする。テアシが俺の肩を揺すっている。気づけば自分の考えに没頭していたようだ。
「あたし、疲れちゃった」
「あ、ああ」
疲れるはずはないのだが。
「とにかく自然体がいいと思う」
スズメのテンションがどんどん上がっているように感じる。その反面、シラトリは静かだった。
「動画を見る人の気持ちになって考えてみよう。まず、どうしてこの場所に来たのか、その説明は欲しい。そもそもどうして二人はこの学校に?」
「ああ、それはっすね。ここ、出るんすよ」
「えっ」
俺にもたれかかっていたテアシがびくんっと体を震わせて飛び起きた。
「有名なんすよ。出るスポットで」
「じゃあ、そのまま伝えろ。間違ってもピースなんかしちゃだめだぞ」
朝の理科室で骨格標本の前でピースサインは確かにまずかった。しょっぱなから黒歴史を作った金ちゃんは照れくさそうに頭を掻いていた。ていうか、みんなツッコもうよ。俺たちと出会っている時点でもう出ているんじゃないの? 俺たち一体なんなの?
自分たちの存在をなんと呼べばいいのか、それはあえて無視しているのは、もしかして現実を見ようとしていない者たちの集まりなのか。
みんなそのまま話を進めていく。
「セリフを考えておけよ。視聴者はゾクゾクする本物が見たいんだ。今夜は幽霊が出るスポットに来ています。いや、頭で考えちゃだめだな。自然体だ。やらせっぽくなるのはまずい」
スズメがぶつぶつ呟く。
ある意味、半分やらせに近いが、あの教室で何が起こるかはまだ分からない。
俺は、ニコニコしている金ちゃんとマナベを少々複雑な気持ちで見つめていた。
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