第9話 小さなヒーラーの決意
「ご、ごめんなさい、回復間に合わなくて…!」
狩りの最中、紗奈の回復がわずかに遅れ、前衛のメンバーがモンスターの攻撃を受けてしまった。
幸い軽傷で済んだが、紗奈は顔面蒼白になって謝罪する。
「ドンマイ、紗奈ちゃん! 今のは敵の動きがトリッキーだったし、仕方ないよ!」
レベッカが明るくフォローする。
「そうそう、気にしないで。次、頑張ろ!」
リィラも優しい笑顔で励ます。
cloverのメンバーは皆、紗奈が一生懸命頑張っていることを知っているため、誰も彼女を責めなかった。
それでも、紗奈は落ち込んでしまう。
自分がもっとしっかりしていれば、仲間を危険な目に遭わせずに済んだかもしれない。
このデスゲームで、ヒーラーの役割はあまりにも重要だ。
自分のミスが、仲間の死に直結する可能性だってあるのだ。
(私、本当にヒーラーとしてやっていけるのかな…ルーカスさんやリィラさんみたいに、みんなの役に立ちたいのに…)
訓練の後、一人で落ち込んでいる紗奈に、颯太が声をかけた。
「紗奈さん、少し話せる?」
「は、はいっ! ルーカスさん!」
緊張で声が裏返る紗奈。颯太は彼女の隣に腰を下ろした。
「今日の戦闘、見ていた。回復の判断、前よりずっと良くなっている。焦らず、一つずつ確実にスキルを使えば大丈夫だよ」
「で、でも、私、またミスしちゃって…」
「誰にだってミスはある。大事なのは、ミスから学んで次に活かすことだよ。紗奈さんはちゃんと成長している。自信を持って大丈夫だよ」
颯太の言葉は、いつも通り淡々としていた。
しかし、その声には確かな優しさが込められていた。彼は、紗奈が決して諦めずに努力を続けていることを見ていてくれたのだ。
「ルーカスさん…」
紗奈の目に涙が浮かぶ。怖いと思っていたリーダー。
でも、彼はいつも見ていてくれる。そして、的確なアドバイスと、不器用だけど温かい励ましをくれる。
(私、もっと頑張らなきゃ…ルーカスさんの役に立てるように、みんなを守れるヒーラーに、絶対になるんだから!)
颯太の言葉は、紗奈の心に新たな決意を灯した。
その夜、颯太はアークライトの街でNPCの挙動を観察していた。
すると、衛兵NPCの一人が、決まったルートを巡回するはずなのに、時折、壁に向かって歩き続け、動かなくなるという奇妙な現象を発見した。
(ナビゲーションメッシュのエラーか…? 放っておくと、いざという時に衛兵が機能せず、街の防衛に穴が開く可能性があるな)
彼はそのバグの再現手順と原因を特定し、永礼に報告した。
『衛兵NPCの移動ルーチンにバグあり。壁にスタックする』
『衛兵までかよ…マジでキリねぇな。サンキュ、修正しとく』
地道な修正が続く。
颯太は、紗奈のような初心者たちが少しでも安全に過ごせるように、そして、いずれ来るであろう大きな戦いに備えて、一つでも多くの脅威を取り除くために、デバッガーとしての作業を続けるしかなかった。
一方、紗奈は、颯太に励まされたことを胸に、ヒーラーとしての練習にさらに熱心に取り組んでいた。
夜、宿屋の部屋で、レベッカと女子トークに花を咲かせる。
「ねぇ、レベッカさん。ルーカスさんって、かっこいいですよね…」
「んふふ、紗奈ちゃんもそう思う? ちょっとミステリアスだけど、いざという時頼りになるし、強いし! あたしも狙ってるんだけどねー」
「えっ!?」
「なーんてね! ま、お互い頑張りましょ!」
レベッカはウインクして紗奈をからかう。
二人の少女の恋心は、この過酷な世界の中で、ささやかな希望のように煌めいていた。
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