君じゃない君がいい⑪




男視点



「ようやく自分の意思で帰ってくれたよー。 本当決断までが遅過ぎ」


要壱は望愛にああ言われ諦めてくれた。 疲れてしまったのか要壱は人格を交代し今は匠である。


―――今でも涼風さんを想う気持ちは変わらない。

―――それはきっと要壱だってそうだ。

―――でも自殺を匂わされちゃったらどうしようもないよね。

―――僕だって怖くなって逃げ出したくなる。


後ろを振り返る。 大分歩いてきたのか望愛の姿はもう見えない。


―――どこまで望愛が本気だったのかは僕でも分からない。

―――でもこの結果なら満足だ。

―――・・・僕も要壱も報われない結末ならそれで。


そこで匠は意識を手放した。 同時に要壱が表へ出る。


「・・・匠、悪かったな」


今は自分の意思で戻ってこれた要壱。


―――身体が自分の思い通りに動く。

―――自分の意思で意識を手放せたし自分の意思で戻ってこれた。

―――やっぱり俺たちは二人で一人なんだ。


その時スマートフォンが鳴っていることに気付いた。


「いつから鳴っていたんだろう。 一体誰から・・・?」


もしかしたら望愛なのではないか。 そう思い手の動きが止まった。 当然であるが連絡先は一つでどちらからの電話か出てみるまで分からない。


―――・・・いや、大丈夫だ。

―――俺と涼風さんの関係はもう終わった。

―――もしアイツからなら出なければいいだけの話だ。


そう思ったのだが覚悟を決め着信相手を確認するも相手は別の名前。 しかも久しく見ていなかったが、以前何よりも大切にしていた相手の名前だ。


「翠(スイ)・・・!?」


そこには元カノの名前が表示されており感情が焦ってつい出てしまった。


「翠か!?」

『あ、もしもし? 要壱くん?』

「あぁ・・・」

『いきなり電話しちゃってごめんね。 何度か連絡したけど既読が付かなかったから心配で』

「・・・それでどうしたんだ?」

『・・・やっぱり私はまだ要壱くんのことを諦め切れなくて』

「・・・」

『私のために別れよう、って言ってくれたよね? でもその意味がよく分からなかったの。 聞いても教えてくれなかった』

「それは・・・」

『私は要壱くんが必要なのにどうして・・・? 何が私のためなの? 何か私に隠していることがあるんじゃない?』


要壱はようやく匠の存在を自分でも受け入れることができたと思っている。 迷ったが今なら打ち明けられるかもしれないと勇気を出した。


「・・・実は」


翠と付き合っていた時も匠は存在していた。 ただそれを知らせたのは今日が初めてだ。 初めて自分が二重人格であることを告白した。


『そうだったの・・・』


翠は気付いていると言ったことはなく驚いていた。 おそらく翠の前では匠が出たことは一度もない。 翠と別れてから記憶が途切れることが頻繁に起きるようになったのだ。 匠はもっと前から存在していてそれが原因で別れることにしたと要壱は考えている。


『大切なことを話してくれてありがとう。 でも私はそのままの要壱くんでいいよ? 要壱くんでも匠くんでも同じ私の好きな人だから』

「いや・・・。 俺は確かに今でも翠のことが好きだ。 ・・・だけどもう一人の自分、匠は他に好きな人ができたんだ」

『だから私を振ったの?』

「そう。 こんな中途半端な気持ちでは翠と向き合えないと思って」


そこまで言うと先程の望愛との関係を思い出した。


「・・・あぁ、まぁ、匠が恋していた相手とはもう終わったみたいだけど」

『ならいいじゃん。 私たちよりを戻さない?』

「いや、でも・・・」

『あー、その前に私のことを匠くんは気に入ってくれるかな』

「絶対に気に入ってくれる! 翠には自慢したい魅力がたくさんあるから」

『ふふ、ありがとう』

「・・・でも匠も翠のことを好きになったら俺が嫉妬しそうだけどな」

『大丈夫。 匠要壱(タクミヨウイチ)くんの身体はただ一つ。 性格は違うかもしれないけど同じ心を持っているんだよ。 私はどちらとも好きになれる自信があるな』


二重人格であることは今まで人に黙っていて流れで打ち明けられたのは望愛だけだ。 厄介な二重人格である自分を翠は認めてくれた。 心が動かされ温かい涙が零れ落ちていた。



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