君じゃない君がいい⑩




要壱視点



涼風だと思っていたら実は望愛が装っているだけだった。 それだけでも頭が混乱するというのに、彼女の口から飛び出した言葉はとんでもないもの。

望愛の性格からして演技の可能性もあるが、その目は真剣そのものでただからかわれているようには思えなかった。


―――は、はぁ・・・?

―――何を言ってんだ、コイツ・・・。


このまま望愛が死んでしまえば当然であるが同じ身体を共有する涼風も死んでしまう。 もしそうでなくても多少なりとも関わり合いのある望愛が死ぬことも望んでいない。

確かに涼風の顔をしながら鬱陶しいと思ったことはある。 望愛がいなかったらいいのに、と思ったこともある。

だがそれは死んでしまえというわけではなくて、二重人格ではなかったらいいのにということだ。


「や、止めろ・・・!」

「来ないで!!」


止めようと近付くと望愛はナイフを要壱へ向けて振り出した。


「危ないから下ろせ!!」

「うるさい! 要壱くんが守りたいのは私じゃなくて私の中のもう一人、涼風なんでしょ!?」

「今さっきお前も涼風さんも同じ身体だと言っただろ!!」

「でもそれを要壱くんは認めていない。 どうせ私なんか消えてほしいと思っているんでしょ? 涼風と二人きりになりたいんだよね?」

「そ、それは・・・」


先程考えたが望愛に消えてほしいかと問われればNOだ。 だがそう答えれば望愛に変な希望を持たせてしまう。 涼風が存在している限り望愛と付き合うつもりはないのだ。

答えられずにいると再び望愛は自分の首筋にナイフを当てた。 薄皮とはいえ皮膚が裂け首に血が滲んでいる。


「大丈夫だよ、要壱くん。 安心して? 痛いのは私だけで涼風は何が起きたのかも分からずただ消えるだけだから」

「ッ、止めろ!!」

「要壱くんの、大好きな涼風は、怖い目に遭わない、ん、だよ・・・ッ」


話す望愛の様子がおかしくなった。


「な、何だ・・・?」


挙動不審な動きをする望愛。 どうしたらいいのか分からずただ見ていると望愛は何かに葛藤しているように見えた。 首筋に突き付けたナイフを逆の手で抑え込んでいるのだ。


「え、何、涼風・・・?」


望愛は苦しそうな声でそう言った。


「もう止めてよ、大事な場面なんだから勝手に私の身体を動かさないで!!」


―――今のうちだ、涼風さんが止めてくれているうちにナイフを!!


要壱は望愛の持っているナイフを奪い取ろうと近付いた。 しかしその寸前で足が石のように固まり動かなくなる。


「ッ、これは!?」


自分の意思とは無関係に足が全く動かない。 いくら足を動かそうと命令を出しても足を叩いてみても動く気配が一切ない。


「もしかして匠なのか?」


そう察するも匠の行動が理解ができなかった。


「一体どうして・・・。 匠だって涼風さんのことが好きだったんじゃないのか? このまま見捨ててもいいのか!?」


―――いや、もしかして・・・。


二つの人格で会話することはできないため答えてはくれない。 代わりに望愛が言った。


「匠、言ってたよ」

「は・・・?」

「涼風と別の人格である要壱くんが知らないところで好きな人と付き合う方が嫌だ、って。 それは私もそう!!」

「それは・・・」

「要壱くんも考えてみて? もし匠と涼風が惹かれ合って付き合ったらどう思う?」

「・・・」


要壱は俯いて黙り込んだ。


―――そんなこと考えたこともなかったな。

―――・・・だけど言われてみればそれも嫌だ。

―――涼風さんじゃなくて匠がコイツと付き合うとしても嫌だ。


望愛は改めて見ても涼風と見間違う程真剣な顔つきをしていた。


「そもそもさっきまで私のことは涼風だと思い込んでいたよね? 見た目が同じだから」

「それは・・・」


要壱は何も言い返すことができなかった。 そもそもきっかけは何だったのだろうか。 涼風の見た目が好みだという理由なら望愛にもそっくり当て嵌まるのだから。


「今すぐに私から離れて。 そしてもう絶対に私と会わないで!! それができないなら私はここで死ぬから!!」


要壱は何もできないと匠は察したのか気が付けば足は自由に動くようになっていた。 涼風も気持ちに整理ができたのか今は落ち着いている。 望愛は涙を流しながら言った。


「・・・私たちは最初から惹かれ合ってはいけなかったんだよ」



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