君じゃない君がいい④




匠視点



匠もクリスマスに本当に予定がなかったのだ。 確かに涼風の言うように交友関係は広く、付き合いもいい方だと思っている。

ただどうしてもある事情から一定の距離感を縮めることを拒んでいる自分がいることも分かっている。 そのような中唯一距離を縮めたいと思っているのが涼風だった。

涼風は誰にでも簡単に靡くようなことはなく、だからといって自分の空に引きこもっているわけでもない高嶺の花のような存在。

自分にないものを持っている彼女に惹かれるのは匠からしてみればある種当然のこと。 そのような彼女に必死でアプローチをかけてはみるがいつも暖簾に腕押し。

今日もクリスマスならもしかしたら、そのような希望を持って話しかけてみたもののいつも通りの反応だった。 匠は子犬のようにしょぼくれる。


「あら。 わざとらしく落ち込んでみせても譲歩は引き出せないわよ?」

「ひ、酷いですよ! 涼風さん!! そんなにハッキリ言わなくても!」

「事実なのだから仕方ないじゃない。 貴方だって望愛とは相性が悪いのでしょう?」

「ズルいです、それを涼風さんが言いますか? でも僕はめげませんからね! 僕は本ッ当に涼風さんのことが気に入っているんです!!」

「気に入られるのは悪い気しないけど、どうしてこうまで要壱くんと違うのかしら。 私が匠くんのような子供を好くと思っているの?」


その言葉に頬を膨らます。


「もう! またそうやって酷いことを言って! いつか好いてくれる可能性もあるじゃないですか!」

「それ。 そうやって頬を膨らませたりするのが好みじゃないと言っているの」

「もー! なら逆に聞きますが涼風さんの好きなタイプはどんな人なんですか?」

「それを匠くんが聞くわけ? 『匠くんとまるっきり正反対』だと言ったら諦めがつくの?」

「それは・・・」

「とりあえずもっと落ち着いた大人の人がいいわ」

「がっくし・・・!」

「そういうところよ。 素直に感情を出し過ぎているの。 それが悪いこととは言わないけど私とは絶望的に合わない。 貴方と合う人を探した方が建設的だと思うけど?

 例えば、まぁ望愛みたいなタイプの方が相性いいんじゃない?」


涼風は呆れたように言う。 ただその言葉はどうしても納得ができなかった。


「あの人とは合いませんよ。 確かに似ているところはあるかもしれないけど、似ているから相性がいいっていうわけではないと思いませんか?」

「・・・確かにそうかもしれないわね。 だけど似ている方が価値観も合うと思うけど」

「そうかもしれませんけど・・・。 そもそも望愛とは似ているわけでもないし」


ようやく涼風はカフェで飲み物を注文し終え店を出た。


「もうどこまで付いてくるのよ」

「どこまでもです!」

「本当に暇なのね」

「涼風さんはどこか行く当てでもあるんですか?」

「それを今から探しに行くのよ」

「それは楽しそう! なら僕も付いていきます!!」

「・・・もう勝手にして」


これ以上は振り解けないと思ったのか認めてくれた涼風。 そのような涼風の横に笑顔で並んだ。


「そう言えば匠くんは飲み物を頼まなかったのね。 折角長い列を並んだのだから何か頼めばよかったのに」

「口の中が苦いので何か飲み物がほしいところではあるんですけど。 あまり飲み過ぎるとトイレが近くなってしまうじゃないですか」

「それがどうしたの?」

「え? 僕がトイレへ行っている間涼風さんは僕を待っていてくれるんですか?」


涼風は悩んだような表情をして言った。


「・・・待たない、とは言い切れないけど」

「え、本当ですか!?」

「もう近いし、待つ保証もないわよ」


あまりの嬉しさに涼風との距離を詰めてしまった。 それを嫌がり涼風が距離を取るとここは車道でもあるということで涼風との立ち位置を入れ替わった。 安全な奥を涼風に譲る。


「・・・気持ちは嬉しいけど危なっかしいわね」

「え?」


特に意識などしていなく自然とした行動だった。


「貴方の身は貴方だけのものじゃないのよ。 匠くんに何かあったら悲しむ人がいるということを忘れないで」

「か、悲しむってもしかして、涼風さんのこと・・・!? って、それは涼風さんも同じじゃないですか!」

「私はいいのよ。 ほらそっちを歩いて」


言いながら涼風は立ち位置を替えようとした。


「ちょ、ちょっと待ってください! そんなの納得できません。 涼風さんは女性なんですから危ない場所は男に任せておいて」

「それ、十年早いと思うわ。 それとも私をからかっているの?」

「そんなわけないじゃないですか! 僕冗談とか苦手ですし!」

「匠くんの性格がよく分からないわ。 こういうことは他の人にも平気でするの?」

「え? ど、どうでしょう・・・」

「・・・まぁ、そこが貴方のいいところなのかもね」


突然褒められ顔が赤くなった。


「・・・何かめっちゃ恥ずかしくてめっちゃ嬉しいです」

「何よ、それ」

「それって嫉妬してくれたんですよね?」

「は、はぁ!? 貴方馬鹿じゃないのッ!?」


珍しく涼風がテンパっている。 その姿に思わず笑みが零れた。


―――涼風さんは常にクールで僕よりもカッコ良い人。

―――でも初めて可愛らしいところが見れた気がする。

―――いつかは僕を見て頼ってくれる日が来ると信じてる。


歩いていると涼風が突然立ち止まった。


「どうしたんですか?」


涼風の目の先を追うと木に風船が引っかかっていた。 その木の下では子供が泣いている。


「あ、助けに行きたいんですね?」

「・・・別に私は」

「いいですよ。 親はどこにいるんですかね? 木に登らないとなので僕が代わりに行ってきます。 危ないので涼風さんはここにいてください」

「・・・本当誰にでもいい顔をするのね。 悪くはないけどそのために私を待たせても構わない・・・。 って、考えるのは嫌な女かしら」


匠はわんこ系男子である。 涼風にとってどうでもいい興味の男性の一人。 それなのに、涼風は必要以上に無下に扱うことはない。

もしこれがただの本当にどうでもいい知り合いであったならクリスマスという日に涼風は一切交流しようともしないだろう。

それをしてくれるのは本心では匠に興味があるのかそれとも、別の理由があるためか。



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