第五章04 聖女ロズアトリスと聖女シャルルリエル(彼なら、あるいは)
(どうヴェルを助け出す!?)
トリオール邸に帰る間の馬車で、ロズアトリスは震える手を隠すことなく唇に当てていた。
大神殿であったことを話してから真っ暗闇の外に視線を投げて、一言も話さなくなった主を、マルティーニは心配そうに見守ることしかできない。いつもなら彼女の気持ちを察して心配いらないと声をかけるロズアトリスだが、それどころではなかった。
(不当な捕縛をいくら主張しても、ヴェルが捕まっている以上、裁判は開かれてしまう。裁判が開かれれば貴族たちの怒りが集中し、自白だけで死刑だ)
明日の零時までにヴェルを自由にさせられなければ、ヴェルの命はない。彼の命は今やロズアトリスの手にかかっている。
見えない錘を乗せられているような、重圧。ロズアトリスは押しつぶされそうになりながらも必死に考えを巡らせた。諦めるという選択肢はない。
そうしてふと、ある考えに行き着き、同時にある人の姿が頭の中に浮かび上がった。
(――彼なら、あるいは)
ロズアトリスの考えを確実に遂行してくれるであろう人物だ。しかしここでロズアトリスは迷った。
(どちらの彼にどちらの私で会いに行くべきか。ロズリーヌではどちらの彼にも説明ができない)
ロズアトリスにできないことはロズリーヌに任せていた。けれど大神殿であったことをロズリーヌが知っていると示唆するわけにはいかない。
(かといってロズアトリスは裏の彼を知らず、表の彼との接点を失くしている)
俗世ではロズリーヌとして行動していた弊害がここで突き付けられようとは。そして自ら関係を絶ったはずなのに、彼を頼ろうとしてしまう己の不甲斐なさに腹が立って仕方がなかった。けれどその怒りもすぐに鎮まりかえる。
(……そもそも、彼がどこにいるかも分からないではないか)
彼のことを良く知らないという事実が追い打ちをかけ、ロズアトリスは打ちひしがれるのだった。
――キィ
ここで音を立てて馬車の扉が開いた。
外から扉を開けたのはピエールだった。いつの間にか馬車はトリオール邸の玄関についていたらしい。ロズアトリスは動かず、マルティーニはどうすれば良いのか分からないのか、今にも泣きそうな顔でロズアトリスとピエールの顔を交互に見る。
敏感に事情を察したピエールが、ひとまず青い顔をした主を屋敷に入れようと手を伸ばした。しかしロズアトリスはそれを拒み、静かに口を開いた。
「――皇宮へ行く。準備をしてくれ」
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