アケルの証言
@Turkey_in_the_city
1. 変わらぬ町
俺はきっと人を愛せない。
あるのは愛に似たただの独占欲と執着。そしてそれを生む孤独だけだ。
店の外に行けば本当の愛がわかると思っていた。
休日、電車で田舎町に意味もなく出向いた。王都とは違った雰囲気。砂と埃と下水の匂いのする町だ。その中でも極めて騒がしい集団がいた。
「おい、こいつが売春デビューするってよ!」
「ハハハッ、親に捨てられた挙句男に身売りか、いいじゃねえか、斡旋してやるぜ。」
下劣な笑い声が響く。見れば5、6人の男たちが一人を囲んで暴行しているようだった。
「おい、何やってんだ。」
話しかけると囲んでいたうちの一人が訝しむような顔をして振り返る。
「あ?何だお前。こいつの知り合いか?」
「何やってんだって聞いてんだよ。」
「何って、こいつにわからせてやってんだよ。」
「話聞いてる限りじゃ、お前がわからせられるべきだと思うけどな。」
男たちの顔が険しくなる。
「んだと?おめぇ調子に乗んじゃねぇぞ」
「こっち来いやぁ!!」
一人の男が俺に向かって拳を振り上げる。遅い。その腕を掴むと同時に足を払い地面に転ばす。そのまま腹を踏みつける。
「ぐっ・・・てめえ!」
もう一人がナイフを取り出す。だがその刃先が俺に触れることはなかった。
空振ってバランスを崩したところに蹴りを入れる。ナイフを持った男はあっさりと昏倒した。
残り3人。そのうちの1人に近づいていく。
「ひっ!くそっ!!来るんじゃねえ!!」
後ろに飛び退いて逃げようとする。
「逃すかよ。」
襟首を掴み壁に押し付ける。壁に押し付けられた男は恐怖に怯えた表情を浮かべていた。
「ひぃ・・・やめてくれ・・・もうしないから許してくれ・・・」
懇願してくる。まぁ、ここで見逃してもまた別のところで同じことをするだろう。なら今のうちに痛い目に遭わせておくか。
男の顎に手を当てて顔を上げさせる。
「やめてほしけりゃ誠意を見せろ。」
「せ、誠意?」
「金だ、金。持ち金全部渡せ。」
男がポケットから出した財布を奪うように受け取り、中を確認する。中には紙幣が何枚か入っているだけだった。
「ほら、これっぽちしか持ってないのか?もっとあるはずだろう?」
そう言って更に要求すると、観念したように残りの金を全部差し出してきた。
「わかった、これで勘弁してくれ!」
「……いいだろう」
そう言い残してその場を去る。男はいつの間にか皆逃げ去ったようだった。
「あの、ありがとうございます!」
後ろからそんな声がかけられたが無視をして歩き続けた。
結局俺もあいつらと変わらない。弱い者いじめでしか現状は変えられない。
田舎の悪臭に耐えかねて煙草に火をつけた。
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