第12話
「蒼樹さん、おはようございます!」
翌朝、槻本は本部に入った。本部の中には蒼樹の他にも数人の刑事がおり、皆それぞれ資料を探したり、数人で話し合ったりしていた。
「おはよう、槻本君。どうだい? 昨日はゆっくり眠れたかな?」
「はい、まあ....」
そのせいで遅刻しそうになりました、と心の中で続け、槻本は本題を切り出した。
「それで、あの、こちらが天国さんです」
「はじめ....いえ、一度お会いしていたかな?」
「ええ、蒼樹さんとは会議の時に一度」
槻本の隣で控えていた天国が半歩前に進み、蒼樹と会釈を交わした。今日はただ本部に来たわけではない。昨日帰宅する前に本部に寄った槻本は、すぐに例の事件の関係者をできる限り調べ上げ、存命している関係者及びその親族を蒼樹に伝えた。
その結果、今日から本部の人間を数人のグループに分け、襲われる可能性のある人物を警護することになった。槻本は天国と蒼樹と組み、関係者の一人の息子を護衛することになった。
「あの時のまま来ると思っていたが....随分変わりましたな」
「そうですか? 仮にも信用が必要な仕事ですからね」
天国は普段の和装のような格好とは違い、カジュアルスーツを身にまとっていた。もっともネクタイは締めておらず、上着の丈も幾分か長いものだったが。
「髪と目は....まあ、変えようがないからなあ」
ただその分、金髪とオッドアイが悪目立ちしてしまっている。槻本は慣れたものの、先ほどからちらちらと視線をよこす本部の面々もいた。
「まあまあ蒼樹さん、そこは何とか説明しますから、ね? それに、それくらいのことはわかってもらえる方でしょうし....」
これ以上話が長くなる前に、槻本はそんなに目立つかな? と不思議そうな顔をする天国とコンタクトを入れてみるとか....という蒼樹を慌てて止め、取り合えずその方のもとに向かいましょう! と本部の外に出た。
「確かに、目立つ、かも」
ドローンや自動操縦の空中バスが飛び交う東京を歩くと、確かに少しどことではない視線を感じた。確かに最初は槻本も驚いたが、慣れというものは恐ろしいものである。この時代に
「天国さんは....ハーフか何かですかな?」
「いえ、私は日本人ですよ。ただ、母型のルーツが外国だとか」
「ああ、なるほど」
その後も主に蒼樹が天国に質問をするという形で会話は続き、気づけば警護対象の自宅に到着していた。
「こちらが我々の担当する、遠井慎吾さんのお宅だ」
末光の邸宅よりは小さいものの、お宅、というにはかなり大きい門である。蒼樹がチャイムを押し警察手帳をカメラに見せると、数秒後に門が音もなく開いた。
「やっぱりすごいですね....」
二度目となる 「金持ちの家」 だが、こちらは慣れることができない。玄関でもう一度チャイムを鳴らすと、ドアが開き、事前に渡された資料と同じ、遠井慎吾本人が現れた。
「おはようございます。刑事さん」
「朝早くから申し訳りません。私警視庁から来ました蒼樹と申します」
「同じく、槻本です。こちらは今回特別に協力を依頼した天国さんです」
蒼樹のあとに槻本も警察手帳をだし、しまいながら天国を紹介した。
「蒼樹さんと、槻本さんと、天国さん、ですか。僕は遠井慎吾と申します。若輩者ですが、都議会議員を務めさせていただいております」
遠井は丁寧に挨拶すると、応接間に通し、お茶と菓子を出した。
「今回は、僕の警護をしていただくということでしたが....最近の事件と何か関係があるのですか?」
「はい。最近起きている政治家殺害事件ですが....どうやら、50年ほど前の事件と関係があるようでして。それで、遠井さんのお父様がぞの事件に関係しているということで、念のため、警護という形をとらせていただきました」
霊や悪霊の仕業、とは決して言わず、必要なことだけを搔い摘むとこういうことになる。これは信用してもらえない可能性が高いため超常的な説明はしないように、という捜査の方針だ。本音を言えば捜査員もあまり信じていないので面倒、ということだ。
「50年前の事件、と言いますと....?」
「こちらです」
槻本は端末を出し、遠井に見せた。遠井はそれを一読し、首を傾げた。
「そんなことが......父からは何も聞いていませんが....」
「まあ、これ自体が謎の多い事件ですからね。お父様から聞いていなくても仕方のないことかもしれません」
蒼樹は、では、具体的な打ち合わせをしましょう。と大型のタブレットを出し、起動した。
「......あ、はい。始めましょう」
遠井は何か考え事をしていたのか、少し慌てた様子で顔を上げた。
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