第9話
「おはようございます......」
「おはよう。眠たそうだねえ」
「そりゃそうですよ....」
深夜に発生した殺人事件、それに伴い駆り出され、そのまま会議にも参加した。結局槻本が自宅に戻ったのは明朝を回っていた。
「結局眠れなかったし....」
現在の時刻は8時。槻本は上司である蒼樹に、天国とともに第三次世界大戦中の被害者について調べるよう命じられた。
理由は単純だ。大戦中に焼け野原となった東京には、たとえ公官庁であっても大戦中の資料は残っていない。しかし、天国の居住地であるレガシートーキョーはどうだろう。レガシートーキョーは大戦以前の姿を残している。きっと何かしらの資料が残っているだろう、というのが蒼樹の考えだからだ。
「まあまあ、早く終わったらソファぐらいなら貸しますから」
「ありがとうございます....」
では早速取り掛かろう、と天国が事務室らしき場所から鍵を持ち出しながら言った。
「それ、どこの鍵なんですか?」
「これかい?これはここから少し行った場所にある書庫の鍵だ。大戦以前から重要な資料が収められている場所だから、もしかしたら何かあるかもしれない」
槻本は歩き出した天国の後ろをついていった。
「今回の、というか一連の事件って、動機は怨恨ってことでいいのでしょうか」
「多分そうじゃないかな。被害者全員が大戦と関係あるし。それに人間に悪さをする付喪神はよくいるけどね、あそこまで殺意を持っている付喪神はそうそういない」
「昨日、何か感じたんですか?」
「ああ。凄まじい殺意を感じたよ」
多分あの時だ、と槻本は昨夜のことを振り返った。普段は霊や付喪神がいても気にしない天国が、昨日の夜には霊のほうを見た。それほどまでに強かったのであろう。
「僕も警視庁のほうで調べてはみたのですが....4名の方の名前はおろか、そもそもデータベースに資料が存在しないのが現状です」
「それで私に、ということか」
天国はここだよ、といって大きな黒い両開きの扉の前で立ち止まった。
「国家、資料館....?」
「戦前はまだ紙の時代さ。もともとはかなり大きかったみたいだけど、再開発のために建物の一部がここに移築されてね。大戦中に消失してしまったものもあったから、ちょうどよかったみたいなんだ」
「へー」
ということはこの扉も当時のままなのかもしれない、と槻本がまじまじと見つめていると、天国は銀色の鍵を差し込み、ガチャリ、と音を立てながら鍵を開けた。
「少なくなった、といっても膨大な量があるから....取敢えずどうしようか。」
「片っ端から探していては、時間がいくらあっても足りませんよね。だったら、大戦中の事件....それも、政治的な事件に絞ってみてはどうですか?」
「それはいい考えだ。そういうものなら、新聞がいいともうよ。警察の資料も保存してあるだろうけど....まあ、お分かりの通り長ったらしいだけだからね」
天国は昨夜の資料をひらひらさせながらこっちだよ、と槻本を中に案内した。
「へー、いろんな資料があるんですね。分厚い本から、雑誌まで、なんでもござれ、って感じですね」
「まあ、大きな図書館みたいなものだからね」
壁のようにそびえたつ数多の本棚には槻本が想像していたよりも多くの資料がこれでもかというほど詰まっていた。おそらく古い法律案から、どこにでもあるような週刊誌まで。それはまさしく、「大きな図書館」だった。
「ここが新聞....ここからが大戦中のものだ。時々欠けている部分もあるけれど、ほとんど揃っている。手分けして見れば、今日中には終わると思うよ」
「そうですね。では、僕はこちらから見ていくので、天国さんは最初のほうからお願いします」
天国は頷き、大戦がはじまった直後の新聞を手に取った。槻本もよし、と呟き、終戦当日の新聞に目を通し始めた。
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