第19話 貴族学校 ④貴族学校の生活 -1/2-
宿舎交換一日目。七月四日の夜。
昼間、さくっと問題を片付けたおかげで、プラグ、シオウ、ゼラトはとても快適に過ごしていた。
夕食の後は風呂だったのだが――ここで少し問題があった。
この中央棟にいるのは四学年と五学年だが、五学年がいつも通り、先に風呂に入ろうとして、心配になり、プラグに『俺達は今まで通り先に入って良いのか?』と聞いてきたのだ。
四年生までは査定できるから、減点になるのでは、と思ったらしい。
プラグは『それなら四年生に聞いてみたらどうでしょう。俺も四年生の所にいますから、せっかくだから、何人か呼んで、一緒に入ったらどうでしょう? 順番は悪い仕組みじゃ無いから、また相談して決めて下さい』と答えた。
プラグの言葉に五年生達は「それもそうだな」「慣れてるもんな」「一応聞くか」「たまには一緒に入るのもありか」と言って、適当に四年生を呼びに行った。
「レイン、他の棟でも混乱が起きているだろうから。近衛の教官か先生に伝えてもらえる?」
プラグはレインに、近衛か、教官に伝えて混乱を収めて貰うようにお願いした。
「わかった。行ってくる。先に入っていろ」
レインは頷き、伝えに走った。
今ごろ、貴族学校の教師や、近衛の教官、教育当番は対応に追われているだろう。
(この学校、問題だらけだな……。近衛は教師と連携できているのか?)
プラグは溜息を吐いた。
五年生達に呼ばれた四年生達が入って来た時、プラグは既に上半身裸で、ズボンを脱ごうとしていたのだが、それを見た四年生が固まった。
「え、脱ぐの!?」
「え?」
プラグは手を止めた。服を脱がなければ入れない。
「特部屋っていうか、なんか、えっ!? いいのか?」
「高貴な貴族だろ!?」
四年生達は、自分達も貴族なのに、そんな事を言った。
「え? 脱がないと入れないけど……?」
「君……個室風呂にしないの?」
セルヒがいて、尋ねてきた。
「こっちの方が広いって聞いたから。何か問題ある?」
と言いつつ、プラグはズボンを脱いで下着姿になったのだが……。
「うわぁあ!!」と言う声が上がった。
セルヒが手ぬぐいを渡して来た。入浴前なので眼鏡を取っている。
「レイン様の時もうわって思ったけど――せめて前は隠してよ」
「え……なんで?」
「何でも。貴族だから。体は見せない物なの」
「いやでも、皆は……結構、そのまま……」
手ぬぐいを巻いて股間を隠している者もいるが、気にしない者もいる。
五年生は苦笑しながら見ていた。
すると隣でシオウとゼラトも同じ対応をされていた。
「ハァ? 俺は別にいーだろ」「よくないです」
「えっ、俺まで?」「どうぞ。腰に巻いてから脱いで下さい。伝統です」
全く意味が分からないが、これも伝統らしい。
「……貴族って変なんだな。わかった」
プラグはゼラトがやったように、手ぬぐいを巻いてから下着を脱いだ。
「あ。特部屋の生徒は、手ぬぐいを巻いたまま湯に入って下さい。特部屋の特権です」
セルヒに言われてプラグは一応納得した。
「そうなんだ?」
首は傾げたままだ。
肝心の風呂場はかなり広く、快適そうだった。
床や壁は白いタイル貼りで、広い湯船が二つある。
ゼラトが目を輝かせた。
「おー! すげー!!」
シオウも嬉しそうに眺めている。
「おお、結構広い!」
プラグも微笑んだ。
「良さそうだね。あれ? 体を洗ってから入るの?」
先にいた生徒達の様子を見て、その場にいた四年生に聞くと、皆がこぞって使い方を教えてくれた。ここは候補生宿舎と逆で、先に体を洗い、後で湯船に浸かるようだ。
そして一列に並んで髪を洗って、皆に背中を流してもらって――なぜか大勢が群がって来た。とりあえず任せて、あっと言う間に流し終わった。
そのうちレインが戻って来て、近くに腰掛けた。
「頼んで来たぞ」
「うん、ありがとう」
短い会話の後、レインは長い巻き毛をゆっくりと洗い始めた。毛先が腰まで届く、立派な髪だ。
レインも腰に手ぬぐいを巻いている。これが特部屋の伝統らしい。
しかし、レインは背中を自分で流していた。四年生は皆、分かっているのか、手伝う様子は無く、自分の体を洗っている。
プラグとゼラトは短髪なので、先に洗い終えて、湯船に浸かった。
二人の側には四年生が集まっている。
「俺、四年の、ティトー・ラ・エントレリオスって言います」
彼は黒っぽい灰色の髪で、細かい巻き毛を肩くらいまで伸ばしている。先程は紐で一つに結んでいた。前髪は自然に下ろしていて、額を隠していたが、今は額に張り付いている。顔立ちはまあまあ良い。どちらかと言えば女顔だが、鍛えているようで、体格はしっかりしている。彼は近衛候補生だった。
「俺はペリョ・ラ・パスクアルです。あ、四年です」
ペリョは体格の良い少年で、刈り込んだ短い茶髪に濃い紫の目をしている。顔立ちはそこそこ普通、という感じだが、性格は良さそうだ。筋肉質だし、将来は良い兵士になりそうだ。
「僕はミューシャ・ラ・セロントです。僕も四年生です」
ミューシャは確かレインの取り巻きで、髪は良くある淡い金髪だが、右目が薄水色、左目が薄茶色。つまり『左右で目の色が違う』というかなり珍しい容姿をしている。
癖の無い髪質で、髪型は短髪。だいたい、プラグと同じくらいの長さで、前髪を長めに伸ばしていて、真ん中で分けて右目を隠している。
睫毛は長く、目頭から少しつり上がり……目尻はやや丸目で、顔はかなり良い方だ。
彼も近衛候補生だった。
セロントは確か伯爵家だったと思う。首都から少し南、シャーク領の辺りにそんな貴族がいた。
呼ばれた生徒は七名、八ほどいて、皆、わらわらと集まって自己紹介をしてくれた。
聞いた事がある家もあったが、知らない家もあった。
近衛候補生は体格で分かるが、貴族学校の生徒も年上だからか、これまでしっかり鍛練してきたのか、そこまで弱々しくはない。
「俺はプラグ・カルタです」
そう言えば皆、年上だったな、と思って敬語に変えた。
「敬語なんて! 普通でいいですむしろ命令して下さい!」
ティトーが言った。
「そうです、マジ救世主! もう最っ高ありがとう! ほんっともー! 既に大好き!」
ペリョが頷いて抱きついて来た。
ミューシャが、傍らのゼラトを見て言った。
「貴方は、お名前は何て言うんですか? っていうか皆、美形すぎない……? えええ……嘘? さすが精霊騎士……」
「俺はゼラト・ル・ピア。いや俺はふつーです……」
ゼラトが言ったが「その顔はふつーじゃない」と皆に言われた。
「あ、貴族なんだ?」
「一応。端っこの貧乏貴族だけど」
「どこ出身? ああ、こういうのも良くないのかな」「そんな事ないだろさすがに。で、どこ? プラグさんはカルタだけど」
「エスタードの山奥です」
「エスタード! スゲー!」
「エスタードなんだ? へぇー!」
「――エスタードってなんかあんのか?」
と言って湯船に入ってきたのはシオウだった。シオウも腰にしっかり手ぬぐいを巻いて、洗い終えた髪をタオルでまとめている。
ミューシャが説明する。
「いやあそこ、お金持ちが多いから特部屋も多いし、なんとなく、皆、良い人が多いんですよ。強い人も多いし。貴方は?」
「俺? レガン」
そこでセルヒがぼそりと。
「その人、レガンの王子様ですよ」
と呟いた。
「ええええ!?」
皆が――五年生達も驚いた。
プラグは首を傾げた。
「王子?」
「レガンはもう国みたいな物だから、ってつまり、領主の息子? あれ、でも死んだって噂は……?」
ミューシャの言葉に、シオウはケラケラと笑った。
「ははは。デマだな。ふつーに生きてる。で、さくっと精霊騎士になろうって訳」
シオウが湯を肩にかけた。
「はぁ……すげー……さくっと……」
「やっぱ違うなぁ精霊騎士は……」
すると五年生――レインの取り巻きが話し掛けてきた。
「――見た目からして派手だもんな。最初見た時、どこの王子かと思ったよ」
そう言って気さくに話しかけて来たのは、レインの取り巻き、ラート・ル・ムルシアだった。荷物を運んでくれた、金髪で茶色目、はっきりした丸目の少年だ。
側には茶髪黒目で爽やか三白眼のイスキー・ル・フルスと、赤毛のジョンもいた。
「あ、俺は一つ上の五年生。ジョンは四年」
三人とも近衛候補生だけあってしっかり鍛えている。
プラグ達は十四歳なので、皆、年上のお兄さん達、と言った感じだ……。
細めのセルヒも残念ながらプラグより逞しくて、皆、強そうで格好いい。
(年上なのは仕方無いとして。もう少し筋肉だな)
プラグは自分の腕を見て、こっそり、レインの体を見た。細身だが鍛えている。これは年上だから仕方無いとして……ゼラトと比べてもプラグの体は細く頼りない。ゼラトとは若干の違いだが、少し悔しい。それにしてもゼラトは不思議というか。彼は結構、精霊の血が強く出ていると思う。
ただし、精霊騎士課程は皆そんな感じなので、これはストラヴェルが変わっているのだろう。それでも千年前に比べれば、人間は弱くなった。
金髪、茶色目のラートが苦笑した。
「レイン様はすっかり変わっちゃうし……これから近衛はどうなるんだか……」
「ほんとなぁ」
イスキーも苦笑している。
するとレインが。
「だが、変化は必定だ。妖精達は皆、健やかに過ごせばいい」
と言いながら湯船に入ってきた。
「……レイン様……」
イスキーが微妙な顔をした。
すると四年生は揃って、視線を彷徨わせた。
「……俺達、まだ慣れないんだけど、レイン様、やっぱ頭、ぶったのか?」
「なんか、マジで恐いんだけど……」「本当に、一体どうして……?」
ティトーとペリョが呟いた。
セルヒもレインから距離を取っている。
「本当……恐すぎるんだけど。皆に妖精妖精って……先生にも言うし……恐い」
「あははは」
プラグは笑うしか無かった。シオウも笑っているし、ゼラトも苦笑しながら首を傾げた。
「いや俺も、ちょっと前に会ったけど、どうしてこうなったんだ?」
そこでプラグは、本人に尋ねてみた。
「レイン。俺も驚いてる。でも、このレインも、前のレインも、レインだったのかな? どうして路線変更したか、聞いても良い?」
「そうだな。……」
レインは少し考えて――。深く頷き、拳を握って立ち上がった。
「それは。神が俺を見捨ていなかったからだ。愚かな俺は、こんなに世界が美しいと全く、今まで気づいていなかった! 俺は全ての妖精に感謝している。特に妖精プラグ、妖精ゼラト、妖精ホタルには心から感謝しているぞ!」
「……そうなんだ……?」
プラグは分かった気もするが、分からない気もした。
「ああ。俺の愛しい妖精達よ……!」
レインは大真面目に言ったが、プラグはどうして良いか分からなかった。
レインは湯船に勢いよく浸かって、抱きつかんばかりの勢いで、プラグの両手しっかり握った。
「うーん。本当に丸くなりましたね」
良い変化なのでそのまま握手をする。
「そうだろうか?」
レインは苦笑した。
「そんなに話した訳じゃないけど。今の方が親しみやすいです」
プラグは微笑んだ。
「敬語はいらないぞ、妖精よ。そうか、それなら良かった」
「お、おおー……?」
見ていたゼラトが微妙な顔をした。
セルヒが更に微妙な顔をした。
「えっと……そろそろ上がります? 何かのぼせそう……」
セルヒの言葉にレインが頷いた。
「ああ、そうだな。妖精達よ。のぼせる前に上がろう。俺は先に行く」
レインがあっさり立ち上がって、先に歩いて行った。
四年生は皆、揃って頭を抱えている。ラートとイスキーもだ。
「ええ……なにあれ……」「俺達、どうすればいいんだろう……」「マジでわからない……」
「レイン様って何だっけ……」「あれから、これ? ほんっとに変わりすぎだろ……どうしちゃったんだ……?」「本当は窓から落ちたんじゃ?」
――レインが風呂の出口で振り返った。
ラートとイスキーが立ち上がった。
「あ、そうだ、行かないと!」「あ!」
二人は転ばない程度に急ぎ、先に脱衣所に入り、レインに乾いたタオルを渡して、大きめのタオルで彼の体を隠して、濡れたタオルを受け取って絞っていた。プラグはなるほど高貴な貴族はそうするのか、と思って見ていた。
高貴というか……過保護な気もする。
「やりすぎじゃね?」とシオウが言ったのだが「伝統なんだって」と四年生が返した。
「王族が来ることもあるから。それで、らしいよ。特部屋はそうするんだって」
「でも、だったら個別風呂に入ってくれればいいのになー。今日はいないけど、五年でも、特部屋で威張ってる人がいるんだよ。今は宿舎交換で行ってるけど」
「レイン様はまだ気さくな方なんだけど……いや、気さくになったっていうか、訳分からない」
「でも、世話係も廃止だよね?」
と言ったのはミューシャだった。
「世話係?」
プラグは聞き返した。
「あ、そっか知らないか。皆が勝手にやってる仕組みで、四人選ぶ。俺も一応、レイン様の世話係なんだ……って、あ、行かないと」
ミューシャは立ち上がって出て行った。
丁度良い頃合いなので、皆、上がることにしたようだ。
「俺達もそろそろ出るか。先輩方、お先に失礼します!」
五年生にきちんと声を掛けて、まとめて四年生は上がった。
「おお、お疲れ。挨拶も、もう無くなるかもなー」
五年生の幾人かが手を挙げた。
「ですね……今日は嬉しかったです。じゃあ、お先に失礼します!」
ついでにプラグ達も上がる事にした。
するとレインと、彼の取り巻き――ミューシャを含めた四人が待ち構えていて、プラグ達の体を隠してくれた。
「伝統だな」
レインが言ってプラグを拭いていく。
「伝統か……必要なのかなー」
プラグは大人しく、レイン達に体を拭かれた。結構、楽だし、楽しい。慣れているのか、体を見ないように気遣っている。やり方があるのかとても上手だ。
「力加減はどうだ?」
そんな中、レインはたどたどしく髪を拭き始めた。慣れていない感じがある。
「気持ち良いよー」
プラグは微笑んだ。拭かれたあと、また腰に別のタオルが装着された。終わりらしい。
体はすっかり乾いたので、後は着替えるだけだ。
プラグはいつも通りの寝間着――訓練着の下に着る、白いズボンと白いシャツを身に着けた。
シオウも同じだ。シオウはすっかり順応して、お世話をされているのだが。
「あ、ブーツどうする? 履くか? 部屋履き、持ってくんの忘れた」
拭かれながらプラグに声をかけてきた。
「あ、俺、シオウの、持ってるよ。アルスが渡してくれた。あ、でも部屋に置いて来た」
プラグは答えた。
「お、まじか。じゃあ裸足でいいか」
「だったら、部屋まで俺の上履き、貸しますよ?」
――ジョンが言ってくれたがシオウは首を振った。
「いや、いー。やっぱブーツ履く」
するとレインが。
「あるなら取ってくるぞ。部屋のどこにある」
とプラグに尋ねた。
「えっ? 袋の中にあるけど」
「開けて良いか? 鍵を貸してくれ」
レインの言葉にプラグは少し考えた。出かける時にアルスに渡されて、袋の隙間に突っ込んできたので、真ん中に入っているし、取ってきてもらうのは悪い。
「うーん。ごめん、奥の方に入ってるから。またにしよう。ありがとう」
プラグは微笑んだのだが、レインはそうか、と言って少し寂しそうにした。
「しかし、それで歩くのは心許ない。また上履きを用意する。生徒会室にあるはずだ」
レインがプラグの部屋履きを見て言った。
プラグが持って来たのは、部屋で使っている水色のスリッパだ。シオウとお揃いで適当に買った物だが、確かに、広い廊下を歩くには少々心許ない。
脱衣所には靴を入れる棚があるのだが、近衛の候補生達はいつの間にか皆、同じような履き物を履いている。昼間は普通の靴だったので、決まりがあるのかもしれない。
黒くて、履き込みの浅い簡素な靴で、甲部分に切り込みがあって、切り込みには白い縁取りがある。中々お洒落なデザインだ。
「上履きで外に出られないが、宿舎の中ではどちらかで過ごす決まりだ。靴が汚れているときや、雨の日は必ず履き替える。訓練の後は泥を落として入る。やれば分かるはずだ」
「へぇー、だよな。絨毯、汚れるもんな」
ゼラトが頷いた。彼は私服の、短いブーツを持って来て履いている。
レインの言葉にプラグは少し考えて、お願いすることにした。
「じゃあ、とりあえず三人分、お願いしようかな。今度からの、皆の分も頼める?」
「ああ、わかった。だが、すまんが今日はもう閉まっている。明日でいいか? 大きさは幾つだ?」
プラグ達は足の大きさを伝えた。
「よし、任せろ」
レインが微笑んだので、プラグは頷いた。
「うん、お願い」
その頃には五年生もほとんど上がり、着替えていたのだが、皆、苦笑している。
「いや、でもレイン様は、本当に変わったって言うか……すげーよな……」
「ここまで変わるか……? 一体何があったんだ……こえーよ」
「それより、さっさと、白紙に文句を書かねぇと!」
「あ、だな!」
「よっし、あいつらの事、全部書いてやる! はーっもう、うざかった! ざまあみろ!」
「そう言えば、まだ今日来てないよな。あのバカ達」
「きっと真っ青になってるぜ、あのクソラッセルも宿舎から帰ったら驚くぞ。いやー。プラグ様様だ、あんがとな!」
「困った事あったら言ってくれよ!」
「ゼラト君もシオウ様もありがとな! よっしゃー!」
五年生ははしゃぎながら出て行った。
四年生はお世話係と、数名を残しほとんど捌けているが、新しく五年生が数人来たので、皆、端に寄った。入って来た五年生達はこちらを見たが、レインとプラグ達を見て少し驚き「あ、どうも」と会釈をしてさっと離れていく。プラグ達も会釈を返した。
プラグを避けていると言うよりは、レインを避けているようにも見える。
レインは部屋着に着替えて椅子に座り、長い巻き毛を取り巻き――『お世話係』に拭いてもらっている。シオウは自分で髪を拭いていたが、赤毛のジョンに捕まった。
「えー、別にいいっすよ……」
「堅い事言わないで、ほら座って。良い髪だね」
「はぁ……」
こうして見るとシオウも年相応で可愛らしい。
レインとシオウの近くで、プラグとゼラト、ミューシャとティトーは立ち話をしていた。
「先輩達も大変なんだよなぁ……」
ミューシャが言った。
ティトーが頷く。
「だよな。俺達、レイン様がヤバかったから、比較的楽だったもんな……」
ティトーが頷いた。
皆、相当、混乱しているようだ。
「今はもう何が何だか、よく分からないけど……じゃあ、先、行くな。書かないと」
「そうだ、書くぞ!」「一緒に書こうぜ」「一枚で足りるかな」「二枚でも良いだろ」
セルヒ、ペリョを含めた他の四年生も意気込みながら戻って行った。
「昔のレインって、乱暴者ってわけじゃなかったんだ?」
プラグは聞いてみた。
するとミューシャが少し声を潜めた。
「いやレイン様は、比較的まともだったよ。とりあえず、イジメはしなかったし、世話係もほとんど、年上の二人にやらせたし……普通は全部、同級生から選ぶんだよ。あ、規則じゃ無くて伝統なんだけど。俺はこの目だから、指名されて逆に良かったよ。根は良い人なんだよ……と言いたいけど、恐かったなぁ。でも、悪い人じゃないんだよ」
ミューシャは苦笑した。
ティトーが頷いた。
「実際、強いし恐かった。おかげで上級生もあんまり、無茶言ってこなかった気がする。まあ、かなり気むずかしくて恐かったけど……他がもっと酷いから……。イジメ、本当にやばかったんだよ……本気で感謝してるやつ、多いと思うぜ。団長にも感謝しないと……ダメ団長とか言って悪かったな……」
「でもこれからだよな。皆、絶対文句を言うし。俺達だけでも何とかしていかないと。下級生が可愛そうだ」
ミューシャの言葉にティトーが何度も頷く。
「うん。せめて下級生には優しくしたいよな。規則とか全部見直ししてほしい。後は、せめて五年生とは上手くやりたいって、紙に書いてみるか。そういうのも良いよな?」
「ええ、勿論」
プラグは頷き、微笑んだ。
■ ■ ■
そして、プラグはのんびり宿題をやって、心地よいベッドでぐっすり眠って、翌朝、ラ=ヴィアの声で目を覚ました。
「おはようございますプラグ様、朝ですミー」
ラ=ヴィアが優雅にお辞儀をした。
当然、ナダ=エルタもいて、彼女も優雅に微笑んだ。
「おはようございます、プラグさん、あ、プラグ様」
せっかくなので貴族ごっこをしている。これは昨日打ち合わせをしていた。
「おはよう、二人とも」
プラグも優雅に微笑んだ。
「お水です」
ナダ=エルタが洗面器を差し出して微笑んだ。
「ありがとう……え? 氷水?」
水には氷が浮かび、とても良く冷えている。
「お礼は不要ですミー。普通の水もご用意しますミ?」
ラ=ヴィアが堂々と謙遜した。
「ああ、うん……今日はこれでいいよ。明日から普通の水で」
悪戯されてしまった。明日はないのでプラグは苦笑し、冷たい氷水で顔を洗って、ラ=ヴィアに優しく拭いてもらった。ナダ=エルタに髪を梳かしてもらって、服を用意してもらう。ただし着替えは自分でやった。
二人がいるのでどうするか、と思ったが。ベッドを見て、ふと気が付いた。
「あ、これ便利だな」
プラグは天蓋付きベッドの青いカーテンを引いて、訓練着に着替えた。
開けたまま眠っていたが、着替えには丁度良い。
「さてと、貴族ごっこはこのくらいにするか。よし。今日からは授業だから、楽しみだな。どんな事をやっているのかな?」
「ミ。文句言う奴等がいたら、コテンパンにする!」
「私も頑張ります! ――あ、そう言えばこれが扉の下にありました」
ナダ=エルタがプラグに二枚の紙を差し出した。
開いてみると、内容はお礼だった。
『プラグさん、本当にありがとうございます。こいつ等は絶対に処罰して下さい。特に酷いイジメをしていた奴等です。たぶん、別の人も書くだろうから、調査は任せます。できれば直接団長に伝えて下さい』
と、名前がびっしりと連なっていた。最高学年から、四年生まで書かれている。
各人に罪状が添えられていて、洒落にならない物も沢山あった。数で言うと二十人程度か。
「……結構いますね……えっ!?」
ナダ=エルタが内容を読んで青ざめる。
「ミー……ニンゲン、恐い……」
ラ=ヴィアが頭の羽を倒して怯えた。
「本当なら……闇が深いな……」
プラグは呟いた。大事な訴えだ。しっかりと記憶して、懐にしまった。
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