タイムトラベル五枚刃

元気モリ子

タイムトラベル五枚刃

剃刀は一枚だと危ないが、五枚揃うと肌に優しい。


このことに気がついた人は、一体どんな人生を歩んできたのだろうか。

私のスカスカな脳みそでは、到底思い付かない新発想である。


「ライオンは一頭だと凶暴だが、五頭揃うと優しくなる」みたいな諺が、ナイジェリアかどこかの国にはありそうだ。

ナイジェリアにライオンが居るのか、真偽の程は後日時間がある時に改めて確かめてみることにする。


皆、人生で一度は何かしらの毛を剃ったことがある。

生まれてこの方、毛を一度も剃ったことがないという強者がいるなら、その長く伸びた体毛なのか髭なのかを携えて、今すぐ私のところに来なさい。

「やるじゃないか!」とひとつ抱きしめて、次の瞬間には全部つるっと剃ってやろう。


そもそも毛を「剃る」という手法に行き着くまでに、どれほどの試行錯誤があったのだろうか。


「抜く」

「ちぎる」

「切る」

「剃る」


書きながら思い出したが、男子がよくすね毛をこよっては「見て!ごま!」などと遊んでいたが、あれは何に属する作業で、なぜ見て欲しかったのだろうか。

「そりゃよかった」としか言いようがない。

大人になってから、すね毛をこよって喜んでいる男性は見かけないので、余程暇を持て余していたのだろう。


今でこそ「剃る」と言えば、主に男性は髭、女性はムダ毛であるが、この世で最初に剃られた毛は一体どこの毛だったのだろうか。


正直ムダ毛なんてのは、近代の話に思える。

私だってとやかく思う人が居なければ、今だって腕毛もすね毛もボーボーで草原を駆け回っていたはずである。

それがどういうことか、文明人としての誇りが邪魔をし、今や自慢のすべすべボディである。

結構なことだが、そこはかとなく悔しさが滲む。


やはり髭が最有力なのか。

衛生的にも整える必要があり、抜くには辛いし、切るには繊細な部位である。


いや、そういえば時代劇の侍は頭皮が剃られている。

いや、そんなことを言い出したら、髭がボーボーの平安貴族も見かけない。

というか寺の坊主がいる!

三蔵法師!中国もか!

となると、「剃る」という技術は、かなり以前から世界的に存在するということになる!



私は今まで、もし「タイムマシンがあったらどうする?」みたいな話題に対し、内心「特に用事ないな」と思い、生きてきた。


それが今大義を見つけた!


もしタイムマシンがあるなら、私は奈良時代まで五枚刃の剃刀を持って行ってやる!

そこに必要としている人々がいる!

血を流しながら頭皮を剃る必要などないと、笑顔でシェービングフォームまで持参しよう!

平安絵巻にVenusのシェーバーが描かれることも厭わない!


あゝなんという充実感…

辿り着いた…

あとはタイムマシンを待つだけだ…



そんなことを考えながら、今でも脛から3本だけ生えるムダ毛を剃る。

3本だけなら抜けば良いと頭では思いながらも、なぜか「剃る」を選んでしまう。

農耕民族としての稲刈りプライドなのかもしれない。


関心が「剃る」から「刈る」に移ろう17時、今日もタイムマシンは私の元にはやって来ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

タイムトラベル五枚刃 元気モリ子 @moriko0201

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ