経過録 六日目


 「車内販売でぇーす。お兄さん、何か買ってかない?」


「じゃあ、ミックスナッツ一袋と、ナチョスチーズ、あとコーラ二本とレモネードください」


ウトウトしていた僕の耳を、車内販売のおばちゃんの声がノックする。おばちゃんはくしゃくしゃになった僕のお金を受け取ると、大きいクーラーボックスを漁った。


「お兄さん、旅行かい?」


「はい、アップルチークタウンまで行きたいんです」


おばちゃんは皺でたるんだ瞼を開けて僕達を見る。フードをすっぽり被った大男に、厚手の赤いコートを着た女の人。それにオーバーオール姿の男は珍しく見えるようだ。


「あんなヘンピな所に行きたいなんて物好きだねぇ。何にもないトコだよ」


「小さい頃に行ったことがあって、もう一度行ってみたいんです」


「あの田舎にもう一度行ってみたいと思うなんて、よっぽど大切な思い出なのかもね」


おばちゃんはそう呟きながら注文した品を僕に渡す。レモネードが三杯に、ナチョスが三袋、ミックスナッツ三袋にコーラが三本?


「あれ? 僕、こんなに沢山頼んでないです」


「在庫が余ってしょうがないんだよ。終点に着くまで三人で仲良く食べな」


おばちゃんはぶっきらぼうだけど優しい口調だ。僕がお礼を言おうと口を開いた途端、おばちゃんは慌ただしく客室を出て行った。僕はミックスナッツを1個ずつ口に放り込みながら外を眺める。この電車に乗ってから、外は荒野しか広がっていない。もう夕方になるから、何時間も乗っているはずだ。アルもキニアンも疲れて眠っている。寝息と電車の揺れる音に包まれて、僕の瞼は重くなった。


 アップルチークタウンは、この電車の終点で、一日はかかるみたいだ。


 僕はまだ町のことは思い出せない。だけど、あのアイスクリーム屋さんの事は覚えているんだ。


 僕はあそこのナッツロックサンデーが大好きだった。小さかった僕は、何かができたご褒美にいつもあのサンデーを誰かに買ってもらっていた。


 僕だけじゃない。もう一人小さい子がいた。あれは、誰だろう? 羨ましげに僕を見ているあの子は。


「どうした? チャリ。さっきからブツブツ言って」


いつのまにか起きていたアルが、僕の鼻をつついていた。キニアンも心配そうに僕の顔を見ている。


「あ、ごめん。二人とも、起こしちゃったね」


「気にするな、ちょうど腹が減ってたところだ」


アルはナチョスを摘もうとする。だけど、うまく掴めずにナチョスを砕いていた。アルは怪訝な顔をして、もう一度掴もうとする。指が強張って掴むというより、掬い上げているみたいだ。アルはナチョスが落ちないうちに口に放り込む。キニアンはその様子を見て、真っ青な顔をしていた。


「アル、どうしたの? どこか具合が悪いの?」


「ん、ああ、寝起きでちょっと調子が上がらないみたいだ」


アルはくぐもった声で濁す。今まで、アルはこんな声で話したことはない。アルはいつも軽い口調で、自信に溢れていた。単に調子が悪いだけなんかじゃない。アルは食べ終えると、袖の中に手を入れて寝そべった。


「まだ疲れているみたいだ。もうしばらく寝るぞ」


余裕のない口調のアル。アルは窓際に身体を押し付けるようにしてうずくまった。キニアンは一呼吸置いて、レモネードを一気に飲み干す。


「……なんだか、いつものアルじゃないみたい」


「だいぶ歩いたからね。疲れもするわよ」


キニアンは唇を震わせて、空のレモネードを飲もうとする。しきりに瞬きをして、キニアンは小刻みに息をした。


「ねぇ、キニアンはアルに何が起こっているか知ってるよね?」


「…………」


黙ってはいるけど肯定も否定もしないキニアン。キニアンが口を開くまで、何駅も過ぎたような気がした。


「……アルは一気に身体も頭脳も発達しすぎたのよ。急激な変化はやがて崩壊に向かうわ」


キニアンが苦しげに言う。僕は胸に穴が空いたような気がした。アルの崩壊。それが何を意味するのかが容易に想像できてしまった。僕はこんな事が想像できる頭になりたかったわけじゃない。あんまりだ。みんな、アルの頭を弄っておいて。


「アルは元に戻らないの?」


分かりきっている事にも縋るように、僕はキニアンに問う。キニアンは段々伏せ目がちになった。


「一度損傷した機能は、もう戻す事はできないの。アルも、あなたも」


「酷いよ! アルは研究所から出たかっただけなのに。僕だって、こんな目に遭うなら手術なんてしたくなかった!」


込み上げていく思いを、僕は一気に吐き出す。キニアンが悪い訳じゃない。分かっているのに僕はキニアンを責めたてた。キニアンは罵声が止むまで黙って僕を見ていた。元に戻れない。僕達はただ、このまま壊れていくだけだ。ひとしきり喚いて、僕は喉が締め付けられた。目頭が熱い。指先が震える。


「ごめんなさいね。私もできる事なら、症状の進行を遅らせたいわ」


キニアンは震える僕の手を取る。キニアンの手は柔らかいけれど、ひどく冷たかった。進行を遅らせても、治す手立てはない。そうきっぱりと告げるようだ。


「いずれにせよ、俺はいつか何もできなくなるんだろう?」


アルがいつの間にか起きていた。どこから聞いていたか分からなかったけど、キニアンは青ざめた。こんな事実は本人が一番知りたくなかったはずだ。


「だったら残りの時間で、俺はやりたい事をやるだけだ。研究所の外の世界で、俺は残りの時間を費やすぜ」


アルは自分の現状を拭うように言う。アルが不安じゃない訳がない。自分が失くなっていくんだ。僕だって治す方法を知りたい。研究所に戻れば、何か分かるかもしれない。でも、それだけはアルも僕もゴメンだ。


  列車は走り続ける。夜になって電灯がチラつく列車の中は、ガタゴトという音だけが響き渡っていた。薄暗い荒野は、列車の明かりだけを映している。アルとキニアンは向かい合って窓に身を寄せて眠っていた。どうにも寝付けない。アルの話を聞いてから、僕は胸騒ぎが止まらない。さっきは揺られていた列車の音も、耳鳴りのように思えた。気分が悪い。僕は客室を出て、化粧室に向かった。

 列車の通路も、嫌な静けさに包まれていた。まるで僕達以外が乗っていないみたいだ。外で雨が降っているのか、カビ臭い、湿った匂いが充満している。靴ごしにも、嫌に冷たい感覚が広がる。全ての感覚が、僕のお腹を激しく掻き回した。

 化粧室に入り、僕は顔を洗う。顔に付いたカビ臭い匂いを洗い流すように、僕は何度も水をかける。鏡には酷く窶れた僕の顔があった。最後に見た僕の顔は、もっとふっくらとして赤みを帯びていたな。気難しそうな皺を眉間に刻み、目元は痙攣していた。手術を受ける前の僕は、こんな顔になりたかったのだろうか。今の僕を見て、以前のぼくは喜ぶのだろうか。僕は以前のぼくを知りたい。アップルチークタウンで、ぼくはどんな思い出を作っていたのだろうか。

 ふと、洗面器の排水口から水が噴き上がる。僕は咄嗟に身を伏せた。恐る恐る目をやると、排水口から緑色の物体が手を伸ばすように生えていた。植物のツルみたいだ。鏡に目を移すと、端に緑色の小さな汚れがこびりついていた。苔みたいな汚れは嫌に目につく。ずっと見ていると段々大きくなっていくような気がした。汚れが放射線状に広がって、新しく芽吹いて......。

 気がつくと、汚れは鏡に映す僕の顔を飲み込むほど広がっていた。鏡に収まりきらなくなると、洗面器に広がっていく。ゴボゴボと泡立ち、排水口のツタも緑色の水と共に溢れた。カビ臭い匂いが部屋中に充満する。背筋にツタが這い寄るような恐怖を感じて、僕は化粧室を出た。

 化粧室の扉を閉めて、僕は荒い呼吸をする。心臓が恐怖で脈打ち、顔中から滲んだ汗が垂れた。まだ目の中に緑色が焼き付いている。増殖する緑は悪夢でも見たようだ。そうだ、これは夢だ。疲れて鏡に映った汚れが増えて見えたんだ。そうと分かっても、もう一度化粧室を見る勇気は無かった。通路を歩いて、僕は客室に戻ろうとする。早く寝て忘れよう。

 その時、列車の窓を叩く音がした。石がぶつかったのかな。外はもう暗くなって見えなかったけど、何かが揺らめいていた。布が引っかかっているのかな。布が揺れると、もう一度大きな音がした。列車が揺れている音ではない。何がぶつかったような衝撃が、列車を襲った。通路の窓が割れ、緑色の大きなツタが突っ込む。同時に、化粧室の扉が吹き飛び、溢れんばかりの植物の波が襲ってきた。明らかにこれは夢じゃない。この列車は様子がおかしい。僕はよろけながら客室へと走った。

 アルとキニアンは伏せていた。アルは僕を見るなり頭を下げさせる。その途端、鞭のようなツタが、扉を弾き飛ばした。ツタは部屋中に根を張り、列車を軋ませる。


「随分と大袈裟な緑化運動だな」


「これはただの植物じゃないわ。遺伝子を改造されているわよ」


増殖する植物は列車の壁を破壊する。穴の空いた壁からは、強風が吹きつけた。穴の奥では何かが揺れている。暗くて見えにくいが、さっき通路で見えた布きれと同じだ。


「助けてくれーっ!」


運転席側から反響するように悲鳴が聞こえてくる。僕達はがらんどうになった扉を出て、通路を抜けて行く。植物はまるで列車を飲み込むように、通路を埋め尽くしていく。逃げる僕達を追い詰めるように、窓を植物が覆う。

 

 運転席側は更に侵食が酷くなっていた。操縦室を中心に、植物が根を張っている。操縦室の扉は歪に捻じ曲げられ、鉄骨が絡み付いていた。悲鳴の声の主はいない。代わりに点滅する電灯が、見覚えのある男の顔を映していた。


「列車見学は楽しめたかい?」


白衣の男、ジェマーは愉快そうに小瓶を回している。アルが走り出そうとすると、何か大きな物がアルに覆い被さった。


「よぉぉお! アルジャーノォォン! 会いたかったぜぇえ!」


ダンディが咆哮と唸り声が混じった言葉を吐く。涎を垂らし、威嚇する野生動物のように瞳孔が開いていた。二足歩行とも四足歩行とも取れない足で、ダンディはアルを押さえつける。アルは抵抗するけれど、腕の力が弱まっているのか、びくともしなかった。


「あなた達ね、列車を襲ったのは」


「おっとキニアン女史、動かない方がいいよ。耳にピアスの穴を開けてやるんだからさ」


後ろの扉からギンピィが鉄の棒、銃を向ける。いつも通りの飄々とした口調だが、サングラスから覗く目は笑っていなかった。


「他の客をどうしたんだ?」


「心配せずとも、君達が余計な事をしなければ五体満足で返してあげるよ」


ジェマーが指を鳴らすと、ギンピィが列車の壁に向けて銃を撃った。壁や天井に次々と穴が空き、そこからツタが伸びてくる。先には布切れが揺れている。電灯が光った途端、それが人の足なのが露わになった。


「紹介しよう。環境に優しい緑化推進植物、グリーン・マットだ」


ジェマーは作品を自慢するように高らかに言う。グリーン・マットと呼ばれた植物は根を張り巡らせ、天井を捻じ曲げる。天井の板金は引きちぎられ、グリーン・マットは暗闇の中に枝を広げた。


「可愛いだろう? 育ち盛りでね。種を植えれば一気に増えてくれるんだ」


複雑に絡まるツタの隙間からは、くぐもった悲鳴が聞こえる。時折ツタの間から人の上半身が出てきた。苦しげにもがき、しきりに助けを求めている。その中には先刻気さくに話しかけてくれた車内販売のおばちゃんもいた。僕はツタを取り払おうと走り出す。だけど、ギンピィの銃声に阻まれた。


「妙な真似はするなよ。客を茂みの養分にしたくなかったら、動かない方が利口だぞ」


ギンピィは僕とキニアンに銃を向ける。三人ともその場に膠着して動けないでいた。ジェマーがゆっくりと僕達に近づいてくる。


「アルジャーノン、残念だよ。こうも早く崩壊の時が来てしまうとはね」


ジェマーはひっくり返されたアルを見て嘲る。アルは弱々しくジェマーを睨みつけた。か細い手は、今にもダンディに握りつぶされそうだ。


「よかったじゃねぇか。アンタの研究歴にハツカネズミの改造、"失敗"が乗るぜ」


余裕なさげに軽口を叩くアル。ダンディの太い牙が、アルの肩にのしかかった。咽せるような獣臭に、アルは顔をしかめる。


「お前も哀れな奴だな。サーカスの人気者になりたかっただけなのによ」


アルがダンディの鼻に噛み付く。前歯が食い込み、ダンディはたまらず両足で立ち上がった。ダンディはアルを振り落とそうとするが、アルは離れない。


「ネズミはネズミらしく、地べたを這い回りな!」


ギンピィがアルを撃ち落とそうと、銃を向ける。その途端、キニアンがギンピィの銃を奪い取った。キニアンは距離を離しながら、ギンピィに銃を向ける。


「おやおやお嬢さん。あなたにそんな物騒な物は使えないよ」


ギンピィが手を上げながら近づく。キニアンは震える手で、慣れない銃を構えた。その時、ダンディが凄まじい咆哮をあげ、二両目の車両の上に飛び移る。


「アル!」


僕とキニアンは車両の上に登る。グリーン・マットは一両目を埋め尽くすと、二両目にも枝を伸ばした。

 ダンディはアルの体に爪を立てる。そのままダンディはアルを甲板に叩きつけた。怒りのあまり、ダンディは何度もアルを叩きつける。


「化け物め、アルから離れろ!」


僕は手当たり次第に千切れた木片を投げつける。ダンディは鬱陶しげに払い、びくともしない。苛立たしげに唸り声を上げてこちらを睨みつける。その一瞬の隙を突いて、アルはダンディの前足からすり抜けた。すかさずアルはキニアンの銃を奪い、ダンディ目掛けて発砲する。ダンディは顔面を抑え、後ろに仰け反った。


「一旦中に逃げるぞ!」


僕達は窓伝いに列車の中へと入る。その時、キニアンの体が外へと引っ張り出されそうになった。獲物を見つけたグリーン・マットが、キニアンの足に纏わりついている。


「しつこいわね!」


僕は窓のガラス片を拾い、グリーン・マットのツタを切り刻んだ。たまりかねたのかグリーン・マットは外へと逃げて行く。僕達は客が残した貨物で、窓を埋めた。


「キニアン、この植物を止める方法はないの?」


「植物には必ず苗床があるわ。苗床を焼き尽くせば、活動を止められるはず」


迫り来るツタを、僕達はガラス片で切る。埒が開かない。二両目の壁が、ツタの重みでひしゃげた。


「どのみちこの列車はあの実験野郎共にハイジャックされたようなもんだ。まずは操縦桿を乗っ取ってるやつを潰さねぇと」


僕達はツタを掻い潜り、一両目に駆け込む。


 緑の窓口となった車内は、ツタが張り巡らされていた。ジェマーとギンピィはいない。アルは操縦室に向けて発砲し、ドアを吹き飛ばした。操縦室内にもツタは蠢き、レバーやハンドルを覆っている。キニアンはガラス片でツタを切り、操縦桿を探す。その時、後ろの車両からダンディが飛び上がり、アルの背中に覆い被さった。アルは銃を離し、床に突っ伏す。ダンディの片目は赤い血糊に覆われ、どこからが目玉なのかも分からなくなっていた。


「一丁前に銃なんが使いやがっでぇぇ! ぶっ殺じてやるぅぅぅ!」


ダンディは涎の混じった雄叫びを上げ、アルに噛みつこうとする。だが、片目が見えないせいなのか、ダンディは宙ばかり噛み付く。


「やれやれ、彼ももう限界みたいだね。どうやら終点まで君達は途中下車できないみたいだよ」


二両目から顔を出したジェマーが、ピストルでジョイントを撃ち抜く。遠ざかるジェマーの顔。一両目だけになった列車は、火花を散らしながら加速する。僕達とダンディ。この緑の地獄は終点まで終わらない。

 

「くそぉぉっ! ちょこまかよけやがってえぇ!」


痺れを切らしたダンディが、前足を振り上げる。今のアルに、あの一撃は避けられない。僕は走って銃を取り、ダンディ目掛けて撃った。弾丸が肩を撃ち抜き、ダンディは体勢を崩してのたうつ。アルはよろけながら僕の手を取る。片腕を力無く垂らすも、ダンディは列車の床に爪痕を刻む。身体は血と植物の汁まみれになり、半開きになった口からは泡が混じった血が出ている。その姿を見て、アルは憐れみが混じったようなため息をつき、僕の銃を取った。アルはおぼつかない手つきながらも、照準をダンディの額に向ける。


「あばよ、ダンディ。地獄のサーカス団にスカウトしてもらいな」


アルの銃声と共に、ダンディはよろけながら列車の外へ行く。そして吸い込まれるように、車輪の方へ落ちていった。骨を砕く音と共に、列車は大きく揺れ、火花を散らす。火花はグリーン・マットに飛び火し、たちまち車内は赤い地獄に変わった。グリーン・マットは炎の中で暴れ狂う。少しでも生き延びようと根を広げるが、たちまち灰に変わる。ひとしきり炎の中で踊り狂った後に、グリーン・マットは朽ち果てた。グリーン・マットに取り込まれていた乗客が解放される。まだ息はあるが、熱にうなされ、脂汗にまみれていた。


「キニアン! 列車を止めることはできるか?」


「ブレーキが固くなっているわ!」


火の粉を払いながらキニアンはブレーキを引く。だが、ブレーキはびくともしない。列車は炎を纏ったまま、トンネルに入る。炎は列車を包もうとその勢いを増す。煙と熱で息が詰まりそうだ。僕は操縦席に入り、ブレーキを引く。ブレーキは多少揺らぐが、止まってはくれない。僕は両手でもたれかかるように引く。頼む、止まってくれ! こうしている内にも、僕達の頭に巡る酸素はなくなっていく。


「何してるんだ。三人で押すぞ」


僕達の手に一際小さな手が被さる。アルだ。息を切らしたアルが、僕達の手を取っていた。キニアンも汗ばんだ髪を掻き上げ、アルを見る。


「時間がねぇ。行くぞ」


アルの声とともに、僕達は力の限りレバーを引いた。レバーは下がり、列車は火花を散らしながらトンネルを駆ける。


 トンネルを抜け、朝日が昇る頃、列車は停止した。朦朧とする意識の中、僕達は散り散りになって列車を脱出する。逃げ出した囚人のように、僕達は道路も畑も関係なしに走り続けた。ここはどこかも分からない。


 薄暗い闇の中、僕達は一つの小屋に入り込み、中の藁に身を寄せた。疲れ切った僕達は、そのまま眠りにつく。アップルチークまではあとどれくらいだろう。それだけが僕を突き動かしていた。

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