第2話「運営の眼と現実の亀裂」
VRMMO『Ancient Chronicle』の世界に再びログインしたユウトは、アマリアとともに「千年の森」の探索を続けていた。だが、彼の心の中には、ただのゲーム世界ではない「何か」が渦巻いていた。それは、彼の予知能力が引き起こす現実世界との不安定な繋がりに関する疑念だった。
予知能力のバグ――それはもはや単なるエラーではなく、ゲーム内と現実世界が絡み合うような現象に変わってきている。そしてその影響は、ユウトだけにとどまらず、他の人物にも及んでいた。
「また、来る……」
ユウトはふと立ち止まり、周囲を見渡す。予知能力がまた発動した。今回ははっきりと未来の一瞬が見えた――アマリアが奇妙に倒れ、森の中に何か黒い影が現れる。それを確認するより前に、実際にその影がユウトの目の前に現れる。
瞬間、ユウトは身構えた。アマリアも同じく、何かを察知したように周囲を警戒している。
「気をつけろ!この辺りには、古代の防衛システムが眠っている……」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、空間が歪み、異次元のような光景が広がる。無数の光線が立ち上がり、激しい音を立てて森の木々を貫通していった。ユウトはすぐにアマリアを引き寄せ、何とかその光線を避けることができた。
「まさか……これが予知にあったことか。」
ユウトは冷や汗をかきながら呟いた。予知能力が現実に、そしてゲーム内の出来事とどんどん交錯してきている。彼はこれ以上、何が起きるのか予測できなかった。
その後、ユウトとアマリアは無事に光線を避け、再び遺跡の奥へと足を進めた。しかし、ユウトの頭の中は別のことを考えていた。
「やっぱり、これは単なるバグじゃない。『エンクロ』の運営……」
その言葉が彼の口から自然に出る。予知能力の異常が現実世界にまで影響を与え始めているという事実に、ユウトは恐怖を感じていた。その時、ユウトの背後で突然、別の人物が現れる。
その人物は、スーツを着た男だった。目立たない場所から静かに現れ、ユウトに近づいてきた。その人物――九条レンは、運営側の監視者である。
「君か、風見悠真。」
ユウトは背筋をピンと伸ばしてその人物に目を向けた。レンは穏やかな笑顔を浮かべながら、ユウトを見つめている。
「君の予知能力について、少し話をしたい。」
その言葉に、ユウトは一瞬、背筋が凍るのを感じた。運営側が自分を監視していたということに気づいたのだ。
**「予知能力?」**ユウトは警戒心を強めた。
レンは冷静に答える。「君が持つその能力、私たちには監視する義務がある。何しろ、君は『エンクロ』のプレイヤーの中で異常な存在だからね。」
ユウトは目を丸くした。自分の予知能力が、運営側にとってどれほど特別なものなのか、今まで気づいていなかった。
「俺はただ、ゲームを楽しんでいただけだ。」
ユウトがそう言うと、レンはわずかに微笑んだ。
「それが問題なんだ。」
その後、ユウトはレンに連れられて、運営側の管理施設に向かうことになった。施設に到着すると、ユウトは初めて見る特殊な設備が並んでいる部屋に案内された。壁に埋め込まれたモニターには、プレイヤーのデータや予知能力に関する分析結果が表示されていた。
レンはユウトに向かって言った。
「君が予知能力を得たのは、偶然ではない。」
その言葉にユウトは驚いた。
「それはどういう意味だ?」
**「君の予知能力は、ある計画の一環として引き起こされたものだ。」**レンは静かに言った。
その後、レンから聞かされた話によると、ユウトの予知能力は、実は**「古代文明の意識転写計画」**と呼ばれるプロジェクトの一部であり、ユウトはその計画の「実験体」として選ばれた可能性が高いという。
「君は偶然選ばれたわけではない。君のような存在が、このゲーム内における未来を予見することこそが、運営の目指すものなんだ。」
ユウトはその言葉に言葉を失った。自分がこの予知能力を得た理由が、単なるバグではなく、何か大きな目的に基づいていたことに衝撃を受けた。
**「俺はただ、普通に遊んでいたつもりだ。」**ユウトは呟く。
レンは静かに目を細めた。
「君はもう“普通”ではない。君はこのゲームの、そして現実の未来に影響を与える存在だ。」
その後、ユウトは施設を後にすることになった。レンから与えられた情報は、まだ完全には信じきれないものだったが、少なくとも自分が単なるプレイヤーではないということは理解できた。
そして、ユウトの予知能力はますます強まり、現実と仮想の世界がどんどん交わり始めていく。ゲーム内での冒険が進む中、ユウトは自らの運命と向き合わせられつつあった。
(つづく)
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