第3話「器の記憶とアマリアの声」

 《Ancient Chronicle》――エンクロの仮想世界で、風見悠真=ユウトの中に宿る“未来視”の異常能力。その正体が、ゲーム内の単なるバグではなく、運営が隠し続けてきた“古代文明の意識転写計画”の一環だったと知り、彼の心はざわついていた。


 それを語ったのは、運営監視官九条レン。現実でも仮想でも、レンの存在は明確な“監視の目”だった。


 再び《千年の森》に戻ったユウトは、森の奥でアマリアと再会した。


「……あれから、何か見たの?」


 長い銀髪を揺らしながら、アマリアが問う。だがその声には微かな違和感があった。わずかに――機械的で、感情の揺らぎに乏しい。


「お前……少し様子が……」


 ユウトが問いかけようとしたその瞬間、視界にノイズが走った。


 まただ。


 未来視。


 ──次の瞬間、ユウトは「自分が見たことのない記憶」の映像を視た。


 赤い空、崩れかけた神殿。高台に立つ一人の“女性の騎士”。


 アマリアに似ていたが、同じではない。


 その女性は、人ならざる存在と契約を交わしていた。


 声にならない声。


 「器を選べ」


 「意識を繋げ」


 「記録を残せ。記録は存在の鍵となる」


 ──ノイズが途切れたとき、ユウトは地面に手をついていた。


「大丈夫? また……何か視たのね」


 アマリアがしゃがみ込み、彼の目を覗き込む。その瞳には、ふたつの色が揺れていた。


 紫と……もうひとつ、光のような青。


 いや、それは“誰か別の意識”の名残だった。


「……お前、アマリア……なのか?」


 ユウトの問いに、彼女は一瞬だけ、何かを飲み込むように目を伏せた。


 そして、微笑む。


「もちろん。私は私よ、ユウト。でも――時々、別の誰かの声が聞こえるの」


「声?」


「ええ。古い……ずっと昔の記憶。森の奥から響いてくるの。“繋がれた意識”が囁くのよ」


 ユウトは確信した。


 この森は、ただの景観エリアなどではない。むしろこの“千年の森”こそが、古代文明の記憶を格納した中核領域なのだ。


 そしてアマリアは、その“器”のひとつ。


「私の中に、別の誰かが……。きっと、それが《未来》と《過去》を繋げているの」


「その“誰か”って……古代の人間か?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


 アマリアは立ち上がり、空を見上げた。


「でもねユウト……私たち、このままじゃ終われない。ここには“鍵”がある。あなたの視る未来と、私の聞く声。その接点が」


 ふたりが向かったのは、森の奥に存在する未登録ダンジョン《星見の祭壇》。


 封印された扉の前に立ったとき、ユウトの視界が再び“揺れ”を起こす。


 今度は、未来ではなく“記録された過去”のようなビジョン。


 神殿に祀られた巨大な石碑。


 そこに刻まれた紋章は、現実世界の神経接続技術に使われている企業ロゴと酷似していた――


「ユウト……!」


 アマリアの声が戻ってきた。彼は汗だくで地に膝をついていた。


「見た……たぶん、過去だ。いや、繋がってる。現実の企業と……この世界の“根”が」


「もう……逃げられないわね。私たち、全部知るまでここから出られない」


 ユウトはうなずいた。


 目の前にある《星見の祭壇》の封印は、まだ解除されていない。


 だが彼らは、それを開く“条件”に近づいている。


 次の一歩は、過去の真実を掘り起こすこと。


 そしてアマリアの中にいる“もう一人の意識”――それが何者かを知ること。


(つづく)






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俺の未来予知はバグ産。でも世界を救えるらしい? 斑鳩 @swab97

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