第2話「例のあの娘」
「そういえば、例のあの娘はどーなんだよ。」
「ああ、ミユちゃん?」
こいつはいつもどこか気の抜けた返事をする。
「そう、それだ。」
「別れたよ、多分。」
他人事のように、こぼれたそのセリフを頭の中でリピートする。小学生の時、英語の授業でリピートアフターミーとカタコトの英語で言った教師がなぜかよぎる。
「多分?多分ってなんだよ、自分のことだろ。」
「いや、音信不通なんだよ。俺もガサツだからさぁ、まぁ、いっかって。」
いやいやいや、ありえないだろう。と呟く。こいつはどこか変わっている奴だと思ってはいたが、自分の恋人がある日突然いなくなってここまで無関心でいられるものだろうか。少なくとも、もう少し焦ったり、探す努力をするものではないか。
「いやー、まぁ、二週間だしな。」
奴はビールの泡を見つめながら言う。
「二週間ったってよ、一応、そーゆー間柄なわけだろ?少しくらい心配してやるべきだとおもんだが、」
「心配したってしゃーないだろ、いねーんだから。」
いやいやいやいやいや、ないだろ!と心の中で嘆く。お前、馬鹿じゃないの?という言葉を大してうまくもないレモンサワーで流し込んで話を続ける。
「いないから心配するんだろ!」
何とか返答を作り出し、絞り出す。
「まぁ、大学生なんだもの、いいじゃねーか。」
大学生だからという理由で済ませていいものとそうでないものがあると思う。確かに大学生の恋愛は平日の昼ドラもびっくりの展開がよく見受けられるものの、さすがの自分でも彼女が失踪するなんて前代未聞の展開を持ち合わせている人間がこんなにも近くにいるなんて思いもしなかった。しかも、当の本人は大して気にも留めていない。
「実は心配していたりするんだよな?さすがに。」
奴の顔色を窺ってみるが、特にこれと言ってネガティブな感情は汲み取れず、困惑が加速していく。
「そりゃ、一瞬は心配したさ。けど、なんかもう気にしてもしゃーないなー、と。どちらかというと彼女が置いていった荷物をどーするか考えてる。」
「荷物って、知り合ったって言ったのだって数週間前だろ。そんな急展開だったのか。」
「そりゃあ、大学生ですし。運が良かったんだよ。」
失踪した彼女と出会い、数週間まで半同棲までこじつけたことを幸運だと言うのに、目の前から消えたことは気に留めないのか。と内心ツッコミを入れつつ、目の前のアルコールを一気に飲み干し、この化学物質が体内を駆け巡る感覚に集中する。そうしていると、こっちまで大学生なんてそんなものだろう。という感覚に陥る。
衝撃のカミングアウトをこちらでしている最中、隣の卓では同年代に見えるもの自分とは全く住む世界が違うであろう男たちが、性病がどうとか、キスマークがどうとか自慢げに語り合っていた。
居酒屋雑談界隈 赤井 朝日 @akai_a0918
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