第46話 元、世界最強
〈sideルーク〉
「ん?」
僕が目を覚ますと、フィーアの姿が視界に映った。
「……どうなった?」
「成功だねー。相変わらず、理解できない技だったけど」
成功したのか……。ならよかった、のか?
「なんで僕はここに来たんだ?」
「そりゃ、君はあんな技を使ったんだ。体がついてくるはずないでしょ」
「なんで今回だけ?」
今まで何度か練習を繰り返してきている。今になって意識を失うとは思えないのだが……。
「あくまでもここは精神世界だからね。ここで訓練しても肉体は全く成長しないよ」
「そんなもんか」
意識を失ってしまったのなら仕方がない、な。
「あ、そうだ。多分これから私に会うことはできないと思うから」
「そう……ってえ?」
さらっとそんなことを言うフィーア。
「私が消えても引き続き、この場所は使えるから」
いやまあ、それは助かるのだけど。
「そもそもとして、私がこの場所にいること自体が異常なんだよ?君という存在がいるのに」
「……つまり、一つの体に人格が二つあるって状況がおかしいってこと?」
「うん。まあ、必要な場面もあるのかもしれないけど、君は少なくとも私が必要というわけじゃない」
人格の有無は必要か不要かで判断できるようなものなのだろうか?だとすると、フィーアは今から消えていくということになる。僕には不要な存在だから。
「理由はともかくとして、私が消えるってことに間違いはない」
「なるほど?」
「……もしかして、私がいなくなるのが寂しい?」
フィーアがいなくなるか……。僕が強くなる手助けをしてくれていた存在であるわけだし、消えるとなると寂しいのかな?
「分からないって感じだねー。まあ、それは仕方がないか」
フィーアは混乱する僕を横目に、つぶやくように、その言葉を発する。
「ああ、最後に一つだけ言っておくよ」
フィーアはそう前置きして、
「ここは言ってしまえば君の『空白』だ。夢の世界というのは正しいわけじゃない。だから、だからこそ、この場所が埋まることを祈ってるよ」
「何を言って……」
「さあ?分かっても分からなくても何も変わらないことだよ」
最後にそんな、意味の分からないことを言って、そして、僕の視界は暗転する。
「マスター?目を覚ましましたか?」
どうやら、あちらの世界から帰ってきたようで、目の前にはフィールの姿があった。
「いろいろ聞きたいことはあるんですけど、まあ、聞いても分からないと思うのでいいです」
フィールが言っているのはあの技のことだろう。精神の境を切り裂いて、フィールの体と取り込んだ人を分離させる。正直、僕にもなぜできたのかはわからない。感知能力に優れているからと言って相手の心の状態まで分かるほどになれるのだろうか。……できてしまったわけだけども。
「……とりあえず、彼女は無事だったみたいです」
そう言って、フィールが指さした先を見ると、あの女性冒険者が倒れていた。切ったことに変わりはないのだから、傷くらいあってもいいのだろうが、体にけがはなさそうで、服も多少破れているものの、剣で切られたような跡はなかった。
「傷一つないね……」
僕は僕に引いてしまった。いや、仕方ないでしょ?切ったのに切れてないみたいな意味の分からない状態なわけだし。
「マスターが切ったんですよ?」
ジトっとした目を向けられてしまった。
「た、多分フィールにもできるって」
「できません」
即答されてしまった。フィーアも言っていたように、相当難しい技なんだろうな、これって。
「はぁ……。まあマスターが意味不明なのは置いておきましょう」
「何気にひどくない?」
最近、フィールも辛辣になってきたような気がする今日この頃である。
「とりあえず、ダンジョンから出ましょうか」
「この冒険者は」
「私が持っておきます」
……仮にも人なんですけど。
「……流石に魔法で浮かせて運びますよ?」
僕の目線に気づいたのか、フィールはそんな補足をする。
ほんとに人間らしくなったね、フィールは……。
これが、フィール本来の性格が出てきているのか、までは分からないけど。
「ともかく、これであと一つですね」
「そうだね」
頭、体、腕、足と正直部位はすべてそろっているような気もするが。
まあ、残っているものを考えると、記憶ということは脳だろうか。……それに、崩壊したダンジョンにも何かあると考えると、もう一つ。何も思いつかないのだが……。
「そういえば、記憶は戻ってないんだよね」
「はい。何も記憶はないですね」
次のダンジョンで思い出せるといいんだけどね……。
〈sideフィーア〉
「消える、かー」
我ながら妙なことを言ったものである。……存外、間違いでもないのかもしれないけど。
「人格に必要も不要もないのにね」
人格が消える理由で不要だからって、そんなことだけで消えてくれるはずがない。そんな理由で消えるならとっくに私という存在は消えている。……まあ、しかし、そもそも私という存在自体、消えていないといけないんだけど。
「……一度」
私は、彼に届くように一言だけ言っておこうと思った。私という異常な存在が、居てはならない存在が介入してはいけないのだろうけど。
「私の名前を読んだら助けてあげる」
違和感。これがもし当たっているのならば、彼らには手に負えないだろうから。
「この元、世界最強がね」
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