第28話 街の状況
〈sideルーク〉
「そろそろ、街が見えてくるはずだけど⋯⋯」
あれから、フィールに訓練をつけてもらいつつ街を目指して進み、記憶ではあと少しというところまでやってきた。
「ですね。人の気配がします」
「えぇ⋯⋯」
なんでまだ街の見えない状態で人の気配を感じられるんだろうか?
「今のマスターなら気配くらい分かると思いますよ」
「そんなわけ⋯⋯」
僕はその言葉を否定しつつ、感覚を研ぎ澄ます。
「⋯⋯分かるね」
存外にも僕は成長しているようで、すぐにフィールの言う気配を感じ取ることができた。
「感覚の鋭さはマスターのほうが上ですからね」
「さも当然のように言うけど、そんなこと言われたことなかったよ!」
「私より鋭いですよ?私はあくまでも身体能力で鋭く見えるだけで」
感覚を身体能力で補うって、感覚も身体能力の一つな気がするが⋯⋯。
「⋯⋯と、そろそろ見えてきたよ」
僕らの目の前に門らしきものが見えてくる。二メートル程度の石垣の両端に兵士が配置されている。
「いらっしゃい、ここはルーカの街だよ」
にこやかに僕らに門番の兵士は声をかけられながら、その街の中に入る。
「じゃあ、さっそく宿屋を探そうか」
まだお金は残っているので道中狩った魔物を売却する必要もないだろう。
「分かりました」
そして僕らは適当な宿屋を見つけてから、そこに泊まることを決めた。宿屋が悪くてもフィールがいればどうとでもなるので、適当に決めても問題はない。
「今日はどうしますか?」
「どうしようか?さすがにこの時間からダンジョンに行くわけにもいかないしなぁ」
「ではとりあえず、街を見て回りますか?」
「そうしようか」
特にすることも思い浮かばずに、フィールの言う通り街を見て回ることにする。
それから、街の中をのんびりと歩いていた。
「⋯⋯なんだか、街の人たちが暗いような」
「ですね」
街の中を歩いていると、栄えている景色とは裏腹に街を歩く人たちの顔色は暗かった。
「「⋯⋯」」
会話をしている人は少なく皆、速足で歩いていた。
貴族時代にこの街についての知識は得ていたが、このような雰囲気の街だという情報はなかった。その知識が確実なものとは言い切れないが、おそらくこの街の状況は最近生まれたものだろう。
「確かに暗い顔をしていますが、切羽詰まった様子ではないですね」
「⋯⋯そうだね。ってことは生活が苦しいとかではないか」
「おそらくそうでしょう」
結局、この状況の理由は全く分からないな。
「⋯⋯明日にでもすぐにダンジョンに向かいましょうか?」
「どうして?」
フォームの街で焦っていた僕が言えることではないのだが、突然フィールが急ぐようなことを言い出したので困惑する。
「居心地のいいものではないと思いましたので」
「すぐ出て行きたいわけではないし、気にしなくてもいいよ。⋯⋯それに、外ではそういうことは言わないほうがいい」
「そうですね」
街の中でその街のことを批判すると、街の人たちの印象もよくないし、第一にこの地を治める貴族への批判と取られてもおかしくない。その貴族によっては、処刑されることも珍しくない。⋯⋯まあ、フィールを処刑できるのかという疑問はあるが。
「お兄さんたち、そんなに気にすることはないさ」
「そうそう。俺たちだってその辺りは理解していることだしよ」
そんなことを話していた僕らの周りに街の人が寄ってくる。
「何があったんですか?」
「そうだね、まず一つ訂正しておきたいのが、僕らが暗い顔をして急ぎ足になっているのは別にしんどいわけではないんだよ。単純にすることがないから、気持ち早足になっているだけで」
「することがないですか?」
大概の市民は生きるための金を得るために日が暮れるまでずっと仕事をしている。正直に言ってしまうとこの国の市民は余裕をもって生きていけるわけではない。安定して生きていけないならといっそと、一獲千金を狙って冒険者になる人も多いくらいだ。
そんな状況で、することがないっていことはほぼありえないと言ってもいいだろう。それが街規模で起きているのならばなおさらだ。
「そうそう。領主様が失踪されてね。上の判断が必要な仕事がすべて滞ってるの」
「⋯⋯なるほど」
それならば納得できた。基本的にこの国は独裁政権で各地の領主はその領地に対して絶対と言っていいほどの権限を持つ。命や人権にかかわることには配慮されるようにはなっているが、仕事などについては領主の権限が必要な面が多い。本当に仕事が進められなくなるほどには、何かをしようとするには許可が至る所で必要だ。
「そういうわけで、何もすることができないんだよ」
「いつまで続きそうなんですかね?」
さすがにこの状況を国としてなんとも思わないはずもないので、何らかの対処はするはずだ。
「さてね、流石に俺たちにゃ、分からんよ」
「ああ、それもそうですね」
国の方針を部外者が知れるわけもないので、いつ解決するのかなんて分かるはずもない、か。
「まあ、そんなこんなでみんな暇してるわけよ」
「それはそれでしんどいでしょうね」
「まあ、そうだな。つーわけでこの街にいる奴にはどんどん話しかけてやれば喜ぶと思うぞ」
「は、はい」
突然僕らに話しかけたのも暇つぶしってことか。
そして、じゃあなと言って彼らは去っていく。
「一体いつからなんでしょうね?」
「⋯⋯いつだろうね」
一日や二日などではないだろう。そんな短時間じゃ、完全にすることはなくならないだろうし。
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