第27話 旅立ち

〈sideルーク〉




 あれから僕らはダンジョンの中から出て、次の街に向かう準備を始めていた。とは言っても、大概必要なものはフィールが持っているし、最悪現地調達もできる。もちろんするのはフィールだが⋯⋯。


 そして現在、お世話になった宿くらいには挨拶をしておこうと思って宿屋に向かっていた。ちょうど宿泊は三泊になっているし、延長する必要もないだろう。そう考えると、この街にいたのは四日だけなのか⋯⋯。そう考えると短い期間しかいなかったんだな。


 そんなことを考えている間に、宿にまでたどり着いていた。




「⋯⋯いらっしゃ、あ、お帰りなさい」




 中に入るとレイン君が声をかけてきた。




「うん。ただいま。⋯⋯お母さんは?」




「えっとね、朝から体調を崩しちゃったらしくて今日は僕がやってるの」




 確かに、前にレイン君が調子が悪そうって言っていたな。




「頑張ってね、僕らはそろそろ次の街に行こうと思ってるから女将さんにも伝えておいて」




「はい。分かりました。ありがとうございます」




 レイン君はそう言って一礼する。




「すいませーん。少しレイン君に話があるんですけど」




 僕らが宿屋から出ようと入り口の方向に足を向けた瞬間、そちら側から声が聞こえてきた。




「すいません、少し失礼してもいいですか?」




「あ、はい。わかりました」




 レイン君は僕にそう許可をとって、声をかけてきた人のほうへ駆けていった




「どうします?」




「とりあえず、部屋のほうに行って忘れてるものがないか確認しようか」




 ほとんどのものはフィールが魔法で保管しているので忘れ物はないと思うけど。


 そして僕らは、階段を上がって使っていた部屋にまでたどり着く。




「特になさそうだね」




 一通り部屋の中を見て回って忘れ物がないかを確認する。




「ですね」




 フィールは入り口付近で軽く部屋の中を見渡してそう言葉を返す。まあ、多少忘れたものがあってもフィールなら代用できるものを作れそうだしな⋯⋯。




「にしても、そんなに次の街に急ぐのはどうしてですか?」




 確かに、今日一日休んでから出てもいいのに、すぐに次の街に行こうとするのは不思議なのだろう。




「今回みたいなことがあるなら間に合わなくなるかもしれないでしょ」




「⋯⋯一日程度の差は大きなものではないですよ」




「急げるなら急いだほうがいいでしょ」




「確かにそうですね。⋯⋯ただ、無理はしない程度におねがいします」




「⋯⋯分かったよ」




 確かに僕が倒れるほどにやるべきことではない、か。




「マスターの人の好さは褒められるべきところですが、それで自らが破滅しないようにしてくださいね」




「⋯⋯」




 その言葉に僕は何も返せなかった。実際、フィールの体を探すために自分の命を懸けている状況だ。今まで僕はほとんどフィールの役に立っていない。正直フィール一人ならばどうとでもなるという状況が多かった。




「⋯⋯とはいえ、マスターは大丈夫だと思います」




「実際僕は役に立ってないし⋯⋯」




「⋯⋯もう少し自己評価は上げてほしいです」




「強くなったって実感はできてるよ」




「それに、何と言っても私の体を探すのはやめないんですよね?」




「確かにそうだね」




 まあ、役に立てていないからといって、ダンジョンをめぐることをやめるつもりはない。


 ⋯⋯ただ、なぜフィールのためにここまでしているのか、それが自分では全く理解できなかった。






 それから、少ししてそろそろ宿を出ようかという話になった。




「あ、もう出られるんですか?」




「だね。そろそろ出ようと思うよ」




 階段を降りると、話が終わっていたのかレイン君が声をかけてきた。




「分かりました。また来てくださいね」




「うん。また来るよ」




 この宿は居心地がよかったし、またこの街に来る機会があればぜひ泊まりたい。




「多分、次来る頃には妹か弟ができているので、会いに来てください」




「あ、そうなんですね、おめでとうございます」




 なるほど、女将さんの体調不良は妊娠から来ていたのか。




「⋯⋯」




「フィール?」




 それを聞いたフィールが怪訝そうな顔をしていた。




「⋯⋯いえ、何でもないです」




 ⋯⋯まあ、言いたくないことならいいか。フィールが何か悪影響のある気づきを黙っているとは考えにくい。




「じゃあ、僕らは出ていくよ」




「はい。またのお越しをお待ちしております」




 そして、僕らはこの街を後にすることになった。




「⋯⋯きっと、あの冒険者は幸せになりますよ」




 宿屋を出てから、フィールが一言そう呟くのだった。


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