第24話 絶望的状況
〈sideルーク〉
「君ごときが騎士に勝てると?夢を見すぎじゃないか?」
男はそう言って高笑いをする。まあ、確かに僕と騎士の力の差は大きい。
「確かに強い力だけど、それだけだ」
「単純な力でもそれが圧倒的ならば何も問題ないだろう?」
まあ、確かにフィールのような力があれば僕なんてどんな戦い方をされたとしてもすぐに死んでしまうだろう。だけど、僕とあの騎士の差はそこまで大きくない。
「圧倒的な力って言うにはほど遠いよ」
騎士から繰り出される拳を僕は身をひねってかわす。先ほどと全く同じ軌道の攻撃だ。
「なっ!」
僕は、地を蹴りすれ違う形になった騎士の頭を蹴り飛ばす。騎士は一切受け身をとることも踏ん張ることもしないまま進行方向そのままに吹き飛んでいく。やはり彼に意識っていうものはないようだ。
僕が騎士に攻撃をできると思っていなかったのか貴族の男は驚いたような声を上げる。ただ、フィールから特訓を受けていなければ全く歯が立たなかっただろう。フィールを相手にしているうちは自分が強くなっているという実感をできなかったが、いざ実際にフィール以外と戦ってみると僕の戦闘技術、観察力は上がっているような気がする。
「⋯⋯いや、しかし、攻撃できるからといってその程度の攻撃では倒れることはない」
貴族の男は若干の焦りを表情に浮かべながら、そんなことを口にする。
確かに男の言うことはあながち間違いではない。僕はフィールの動きに慣れているからこそ、騎士の速度に追いつくことができている。
「だったら、力押しでない方法で倒せばいい」
僕は、先ほどの攻撃で倒れた騎士に接近して、素早くその体に魔法を打ち込む。
僕の手から繰り出された炎が騎士を焼く。
「う、あ⋯⋯」
さすがに意識がなくとも痛覚は通っているようで騎士はうめき声をあげる。全身に鉄製の鎧を着た状態で焼かれているのだから、それは痛いだろう。
「そろそろ大丈夫かな」
さすがに焼き殺すまでやってしまうと、いくら敵とはいえやりすぎだろう。僕は騎士に向けていた炎を止めて、貴族の男のほうに向きなおる。
騎士はもごもごとうごめいているが、僕の魔法で融解した鎧に拘束されて身動きは取れない。鉄を引きちぎるなんてことはない。そんなことができたら本当に人間をやめているとしか思えなくなるのだけど。
「まさか、それに勝つとは」
貴族の男は倒れた騎士を見てそう感嘆の声を漏らす。確かに、この騎士はほかの騎士と比べると別格だった。ただ、フィールという規格外と比べるとどうしても劣ってしまう。それだけの話だった。結果、僕はその騎士を相手に一分もかからずに倒してしまうことができていた。
「しかし、私はどうやら幸運に恵まれているらしい。君たちが、もっと早く到着しているなら私の負けだっただろう」
「⋯⋯何を言っているんですか?」
貴族の男は、僕の倒した騎士を一瞥して、先ほどフィールの向かっていた方向に目を向ける。僕らのいた場所と女性冒険者のいる場所まではかなりの距離があり、フィールもようやくその場所までたどり着いたようだった。
「さあ、私の実験の成果を見よ!」
貴族の男は天を仰ぎ、そう叫ぶ。瞬間、その女性冒険者から異常な気配が膨れ上がる。
「――っ!」
フィールは向かっていたその足を止め、後ろに飛ぶ。瞬間、先ほどまでフィールのいた場所を剣が通過する。
その様子に、フィールはその冒険者から距離をとるために、僕の隣にまで瞬間移動してきた。
「すいません。間に合いませんでした」
確かに、フィールなら先ほど僕に向かってやったように瞬間移動とかをすれば間に合ったかもしれない。
「いや、あの男の言動的にいつでもこの状態にできたんだと思う」
貴族の男が叫んだ瞬間にあの女性冒険者が動き出したなんて偶然があるとも思えない。あの女性冒険者に元から何かしていたのだろう。つまり、僕らが来た時にはもう手遅れだった、そう考えるほうが自然だ。
「⋯⋯ですね。時間をおかないと流し込まれた力は安定しませんし」
「とりあえず、あの冒険者がどういう状態なのか分かる?」
「簡単に言うと⋯⋯私のパーツが埋め込まれています」
後半は小声になって、フィールは僕にそう返した。⋯⋯なるほど、何かしらの方法でフィールの体の一部という規格外な代物の存在を知って、その力を自分のものにしようとして今に至ると。と考えると、先ほどの騎士の異常な力もフィールの力の一部で、それに気づいたフィールは僕に騎士を任せて冒険者を助けに行ったのか。
「状況を整理すると、あの冒険者が弟の敵討ちに行って返り討ちに会って、実験体として使われてると」
「⋯⋯経緯はあっているとは限りませんが、実験体として使われているのは間違いないでしょう」
「フィールが戦って勝てる?」
「⋯⋯五分五分くらいでしょうね。力だけならあちらのほうが上です。私は頭だけなのでほかのパーツと比べて力は劣るでしょう」
つまり、フィール並みの相手が現れたと。ダンジョンに行く前に言っていた最悪の状況に近いな。
「僕は足手まといだよね?」
「⋯⋯はい」
否定しないんだね。まあ、僕がいたところでフィールのレベルの戦いにはついていけない。つまり、フィールは僕をかばいながら戦う必要が出てきてしまう、か。悔しいが、僕はいないほうがいいレベルの戦力でしかない。
だからと言って、この場所から逃げ出すこともできそうにないな。僕がフィールから少しでも離れると一瞬で命を落としかねない。本当に絶望的な状況になったな⋯⋯。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます