第17話 フォームのダンジョン

〈sideルーク〉




「ごはんができましたよー」




 あれから、二時間と三十分くらいしただろうか、レイン君がそう声をかけてきた。この間ずっと、フィールから魔法を教わっていたのだが、まあ驚くようなことばかり教えられるもんだ。一般的に知られている情報では少なくともない。




「⋯⋯このくらいにして終わりましょうか」




 とはいっても、フィールは必要なところが分からなければ教えてくれるし、鬼のようなことを命令するわけでもない。悪い言い方をすれば、必要最低限を教えているといった印象だ。機械的に教えているという感じだろうか。




「ふぇー⋯⋯」




 いくらフィールの教えが分かりやすいとしても、実際知らない知識を叩きこまれるわけだから疲労はする。⋯⋯結果、僕はそんな変な悲鳴を上げることになるのだった。






「お待たせしましたー」




 レイン君は部屋に入ってきて、食事を僕らに手渡す。食堂は設置されていないらしく、食事をつける場合、各々部屋で食べるとのことだ。




「食べ終わった食器は部屋の外のほうにある台のほうによろしくお願いします」




「分かりました」




 レイン君はそんなやり取りをした後に、部屋を後にする。


 それを見送った後で僕らは料理を口にする。




「⋯⋯薄いですね」




「塩が希少だからね」




 味はあっさりとしていて、素材の味を活かすことを重視しているようだ。フィールの言うように正直薄味に感じるだろう。実際、味は薄い。だからと言って、味を濃くする手段が塩が最も手軽で最も知られている調味料だが、この国では岩塩が発見されていないため輸入に頼っており高価になる。




「そうなんですね⋯⋯」




 フィールはそう呟いて、二口めを口にする。


 それからしばらくして、僕らは完食して食器を外に置く。




「しっかり量はありましたね」




「冒険者はしっかり食べてないと活動できないからね。⋯⋯肉さえ食っていればいいって人もいたけど」




 食事は肉とスープとパンで貧相な印象を受けるが、実際はかなり量があり、肉に至ってはあまりの大きさに食べにくさを感じるほどだった。とは言っても、栄養が極端に偏るようにはなってなくて、スープの中には葉物野菜がかなり大量に投入されている。この野菜がだしを出していて、味の薄いスープを




「それだと栄養バランス的に活動できないと思いますけど⋯⋯」




「正論はやめたげてね」




 名も知らぬ冒険者さん、フィールが傷つけてしまってすいません。




「はい。分かりました」




 そこはフィールだからか、あっさりと納得した。




「そろそろダンジョンに行こうか」




 僕はフィールにそう声をかける。




「はい」




 フィールがそう返事するのを聞いてから、僕らは宿屋を後にするのだった。






 薄暗い洞窟の中を僕らは進んでいた。




「⋯⋯私のいたダンジョンと変わらないですね」




 確かにフィールのいたダンジョンと変わりない光景だ。




「どこのダンジョンもこんな感じらしいけどね」




 ほとんどのダンジョンは洞窟を進んでいく構造をしている。また聞きだけど。その道を通って、ボスがいる部屋を目指すというのがダンジョン攻略だ。その道中に運が良ければ宝が手に入ることがあるらしい。フィール曰く、フィールの力を物質に込めた?ようなものらしい。




「分裂以前の記憶はないので、ダンジョンの記憶はないです」




 記憶がないなら、他のダンジョンを知らなくて当然なのか⋯⋯。だというのに変な記憶というか知識はあるんだよな。フィールについての謎は多い。




「⋯⋯というか、魔物が死んでいっているんだけど」




 そもそも、ダンジョンでこんな雑談を交わしながら進むことはないだろう。魔物にいつ襲われるかもしれない。しかし、歩いている僕らに襲い掛かる魔物はいない。僕らに近づく前に爆発四散、とまではいかないものの体だけ残して消滅している。




「⋯⋯私が殺してますよ」




 なんとなく分かってはいたのだけど、フィールはこともなげにそう返す。⋯⋯やっぱり僕には全く認識できない。




「じっと見てたら多分見えるようになりますよ」




 僕がフィールを見ているとフィールが僕の思っていることを察したのかそう口にする。⋯⋯いや、全く見えないんですけど。




「⋯⋯それは無理かなぁ」




 全く視認できないフィールの動きに僕はそれが見えるようになるとは思えなくてそう返す。




「いえいえ、マスターにはそれくらいの才能はあると思いますよ」




 才能って、見たらわかるもんなのかね⋯⋯。フィールの言葉にそう疑問を持ちつつ、何とかフィールの動きをとらえようと試みる。




「⋯⋯マスターに攻撃してみましょうか?」




「どうして?」




 唐突にフィールはそう声をかけてきた。




「ピンチな時に強くなるものなので」




「⋯⋯遠慮したいなぁ」




 フィールに攻撃されると反応できずに僕が死ぬ可能性のほうが高そうだ。フィールがそんなミスをするとは考えずらいけれど、怖いことに変わりない。




「分かりました。では、明日にでもダンジョンの外ででもやりましょうか」




「⋯⋯あ、はい」




 フィールは、僕の気持ちを理解してくれなかったようでそう口にする。僕の命をどう思っているのだろうか⋯⋯。いや、手加減はしてくれるだろうけど⋯⋯。


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