第11話 到着

〈sideルーク〉




「フィールには出来ないほどなの?」




 フィールにできないと言われて、つい聞き返してしまう。フィールよりも僕が優れている点がある、かもしれないというのはうれしいような、うれしくないような微妙な気持ちになる。




「私のかけたものが外部から力を加えることで身体能力以上の動きをさせるものです」




 確かに、先ほどかけられた魔法は僕の意志とは関係なく無理やり体を動かされた。それが普通のバフ魔法なのだろうか。フィールにとっての比較対象は自分しかいないようなので、僕の魔法が一般的な可能性もあるが⋯⋯。




「先ほど受けたマスターの魔法は、なんというか、潤滑油?みたいな働きをしているみたいです」




 ⋯⋯潤滑油って。あれだよね、ギアとかの間に差す油みたいな。⋯⋯なんだか素直に喜んでいいか分からない例えだな⋯⋯。まあ必要なことに違いはないんだけど。




「それをするとなると、魔力の変質先を相手に合わせる必要があると思うんです。だから、慣れるにつれ効果が上がるのかと⋯⋯」




 なるほど、その相手に合った形を知るにつれ強化率が上がると⋯⋯。




「相手に合わせて変質させるっていうのは、理論上可能の範囲を出ないんですがね⋯⋯」




 ⋯⋯そんな技術なのか。まあ、フィールにできないと言っても技術の範囲を出なくてよかった。それなら⋯⋯まあ⋯⋯異常というほどでもないのか?




「強いの?」




 僕にしかできない魔法となればかなり強いのではないかと思ってそう口にする。




「⋯⋯怪我しにくくなるかもしれません。⋯⋯後、調子いいなって思えるくらいですかね」




 若干言いにくそうにフィールはそう答える。⋯⋯まあ、僕にしか使えないからと言って強いとかそんなわけもないよな⋯⋯。若干ショックだが、自分にそう言い聞かせて納得する。自分だけとか聞こえはいいが現実じゃ、魔法の一つでしかないのだ。⋯⋯それにしても弱すぎるとは思うけど。




「まあ私みたいな規格外には効果が高いですよ。身体能力を上昇させる魔法みたいなので」




 ⋯⋯まあそうなんだけどなぁ。無理やりに動かすのがほかのバフ魔法ならこの魔法は動きの補助をする魔法だ。フィール並みの力があれば、他のバフ魔法で力を増したところでほとんど変化ないだろう。⋯⋯むしろ妨げにすらなる恐れがある。


 とはいえ、フィール並みの力があればの話であって、一般に生きる人にとって⋯⋯というかフィールを除くほとんどが僕の魔法を受けたところでだろう。⋯⋯老人のぎっくり腰防止には使えるかも。使えたところでだが。




「使えない魔法ってことかぁ」




 僕はそう呟いてため息をつく。




「そうですね。使えないです」




 バッサリと言い捨てるフィール。いくらフィールには効果があるとは言っても当人が規格外すぎて必要がないって感じだからな。




「ただ、その魔力変換の技術だけはほかに応用の余地があるかもしれませんが」




 希望を持たせようとしてか、フィールはそう口にする。魔力変換の技術を生かすか⋯⋯。確かに何らかの相乗効果を生む物質を同時に作るとかで効果アップは狙えるかもしれない。⋯⋯そのための知識はないのだが。




「まあ、何か考えてみるよ」




 思いつくような気は全くしないけど僕はそう口にする。




「分かりました」




 分かりました、と言われてもなぁ、とそんなことを思いながら再度、歩を進めるのだった。






 それから、一週間経たないくらいして、ようやく街が見えてきた。これでも、かなり速いペースでたどり着いた。道中、魔物に襲われフィールが殲滅し、水が足りなくなってフィールが汲んできて、とまあいろいろハプニングが起こるはずが、すぐにフィールが解決し特に困るような事態はなかった。⋯⋯僕何もしてない。


 ともかく、目先に見える街、それが今回の目的地、フォームだ。この街にあるダンジョンの中にあるらしいフィールの一部を求めてやってきた。




「あれがフォームっていう街だよ」




 僕はフィールにそう声をかける。




「確かに私のかけらの気配を感じます」




 事情が分からなければ、いや分かっているであろう僕でも分かっていないが、今となりにいるフィールはどうやら頭だけの存在らしい。実際に生首モードになった現場を見た僕はそれを否が応でも受け入れるしかなかった。今は魔法で体を作っているらしいことが猶更状況の理解を困難にしている。


 ともかく、フィールの残りの体がそれぞれのダンジョン内にあるらしく、それを僕がルーベの街から逃げるついでという体で回収していこうということで旅を始めた。それで記念すべき第一回として、この街フォームが選ばれたというわけだ。




「とりあえず、街に入ろうか」




 僕はフィールにそう声をかけ、街の門に近づく。




「いらっしゃい、フォームの街へ」




 関所の門番らしい人が、そう声をかけてくる。彼らの役割は、街に不審者が入ることを防ぐ目的らしい。特に通行税は取られていなく、最低限の身だしなみのみで判断しているらしい。通行税を取ろうにも街に入りたい人には難民とか、山賊に襲われた人とか一銭も持っていない人がいるからと聞いている。その人たち一人一人に例外措置は取れないということで断念したとのことだ。




「特に問題はなさそうだから通ってもいいぞ」




 僕らを軽く確認した門番はそう告げて僕らに道を開ける。そうして僕らは門をくぐり、フォームの街に入るのだった。

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